タコのグルメ日記

百合姫

レッツ家づくり2

えと、こんな感じかね。
時間は夕暮れ。


「何をしてるの?」
「魔方陣を書いてる。
木を乾燥させるためのね。」


木材の伐採とそれぞれのおおむねの部品製作は終わりである。
生木のままだと乾いた後の変形があるんじゃないかと思うので、乾燥させてから組み立てをする。


「・・・うーん・・・火と、風に・・・あとは球状、いや、上昇気流を作るようにしてみるか?
うーむ。こっちをこうすれば・・・これをこうする必要があるからここを火の文字を刻んで・・・」


この世界じゃ僕の使うエアスラッシュのような固有魔法を除けば、魔法はすべて魔方陣を媒介にして発動とする。
イメージだけで発動できたらと何度思ったことか。
いろいろとファンタジーなのに、こういうところだけリアルである。


魔方陣はプログラム言語のようなもので、何をどうしてどれくらい続くのかなど様々な機能面を設定するものである。
すでに存在してるシュステーマ・ソラーレのようなものは誰かが編み出した魔方陣が優秀だとされて広まったものであり、個々人で作れる魔法を合わせると魔法の種類はそれこそ無限となる。


もとい僕がしているのは生木を短時間で乾かせるように炙りつつ風で煽るという魔法を、魔方陣を作成中である。


しっかり乾くまで2、3日はかかるだろうからそれまで野宿が続くかな。
野宿のための壁を作る魔方陣はすでに知っているので、それを張っておく。


「タコ、タコッ!」
「ど、どうしたっ!?」


なにやらやまいの焦った声が聞こえたのでそちらを見るとやまいが涙目で叫んでいた。


「入れないっ!
入れないよっ!!
どうしたらいいのっ!?」


やまいが動物除けのための見えない壁の外で涙目になっていた。


「いや、さっき壁張るときに言ったじゃんっ!?
外でないでってっ!!」


結界魔法もとい壁をつくる魔法は当然、動物除けとして使用される魔法である。
ゆえに中から出ることはできても外から入ることはできない。
効果範囲外に一度出ると使用者が解かない限り、中に入ることはできないのである。
とりあえず魔法を解いてやまいを入れた後にもう一度結界を張った。


「ご、ごめんなさい。
・・・タコがお腹空かせてると思って・・・その、これ。」


と言って彼女は手に持っていた大きな葉っぱの包みから取り出したのは・・・なんだこれ?
なつかしき羽ウサギに見えないことも無いが・・・体のあちこちから葉っぱが生えているウサギだった。
葉っぱというよりは体毛が葉っぱの形になっているようである。


首から先はない。
首を竜の爪で落としてとらえたのだろう。
切り口がやけに綺麗である。


「・・・そういえばご飯もまともに食べてなかったね。
ごめん、今日は晩御飯を食べてもう終わりにしようか。」


まだ改良点はあるが、今日のところはこの魔方陣で生木を乾かそう。


「うん!」


グリューネを助けるまであと少し。
彼女も多少なりとも浮かれていたのかもしれない。


とりあえずご飯の用意がてら、持ってきた大きなポーチの中から水晶砦で買ったコンロと鍋を取り出す。
軽くそのまま食べて毒見をしておく。
毒はなさそうで何より。


排泄物や食べたものが溜まっているであろう胃や腸などを取り除いたあとで、適度な大きさにエアスラッシュで切り刻む。
皮はパリパリとして、毒味した限りでは不味くなかったので、剥ぐことはしない。
切り刻んだものを鍋に入れて、水魔法で水も加える。
そして強火で煮込んでいく。
塩コショウを少しして味を調えて、1時間もすれば完成だ。
荒い調理法であるが、それなりにいけるはず。
毒見した感じでは臭みがなかったし。


時折お玉でかき混ぜながら、のんびりと待つ。


「・・・ご機嫌だね。」
「うん!
あと少しで・・・あと少しでドードも一緒。
タコも一緒。
また3人で暮らせる・・・うれしいの!」


といってニコニコしているやまい。
ここまで笑顔でいるのを始めて見たかもしれない。
確かに僕もいろいろと感慨深いものはある。
何よりもここまで環境が劇的に変わったということは植生だけではない。
動物の生息域や種類も大幅に変わっているはず。
今ならフルアーマースネークだって狩れる僕だ。
これから先の食道楽が・・・いや、触道楽が楽しみで仕方ない。


ふふ。
触腕で食材を狩る道楽ということで触道楽と表現してみた。
うまいだろ?
・・・そうでもないな。


ちなみに今の僕は本来のタコの姿で、やまいは僕の上に座っている。
僕が抱え込む形である。
椅子代わりといったところだ。


「さて、そろそろかな。」


鍋からいい匂いが漂ってきてしばらくが経つ。
そろそろお肉も柔らくなって食べごろだろう。
お椀にすくってやまいに渡して、僕もお椀を構える。


「いただきます。」
「いただきまーす。」


さて葉ウサギと名付けたこいつ。
体毛が変形した葉っぱごと入れたわけだが、まずこれがうまかった。
1時間ほど煮込んだにもかかわらず、この体毛はいまだ硬い生野菜のようなパリパリ感を維持しており、その食感がたまらない。
ぱりぱりと噛み砕くと野菜独特のあっさり、ほんのりとした甘みが出てくる。
もちろん次に感じるのは肉の味である。
見た目通り、草食なのだろう。
これまたあっさりとした肉で、しかし脂が乗っていないわけではなく、淡白でありながらもしっかりと味を感じることのできる矛盾した、本来ならば矛盾しているはずの味が楽しめる。
硬くもなく、やわらかめの肉は柔軟性に富んでおり、噛みしめることができる。
かといって噛み切りにくいわけではなく、さくさくと歯が入っていくのだ。
そして歯は葉ウサギの骨に到達する。
しかしこの骨もまた曲者で、適度な硬さがボリボリとスナック菓子のような食感を与えてくれる。


たった一つの肉片が、口に入れるたびに、こ気味良い食感のトリオを奏でるのだ。


あっさりとしているので次々と口に放り込むことができ、それを助長するかのように葉っぱのような体毛はパリパリと口の中で弾み、ステップを取るかのように。
やわらかめの肉は噛みしめるたびに安定した低音を。
適度に柔らくなった骨は軽やかなメロディーを響かせる。


止まらないおいしさ、というよりは止まらない楽しさが口をスキップしていくかのようである。


あっという間になくなってしまったのが惜しかった。
やまいが捕ってきたのは3頭。
大きさは小型犬よりは大きいという程度であるがそれでも十分な量ではあったはずなのにもかかわらずである。


☆ ☆ ☆


ぐっすりと眠るやまいの傍ら。
僕もゆったりとくつろいでいると、何かきしむ音が聞こえた。


そちらを見るとどうやら漆黒が人型に変形したようである。
いきなりどうしたと思ったものだが、特に何かするというわけでもなく佇んでいる漆黒。
その凹凸のないつるっとしたのっぺらぼうな顔は森の奥へと向けていた。
そういえば結局こいつ、というべきかコレはなんなんだろうな。


「・・・お前って名前あるの?」
『・・・。』


当然ながら何も答えない。


「まぁ、ないよね。
僕が作った・・・はずだし。漆黒以外の名前があるかって話だよな。」


そもそもこいつって生き物なんだろうか?


『ぎぎぎ。』


体のどこかを動かしたゆえの軋む音を鳴らしながら、漆黒は地面につたない文字で「しっこく」と書いた。
なんぞそら?と思ったが、すぐに自分の名前を言った、りができないから地面に書いたということか。


そのあと、漆黒は特に何をするでもなく剣に戻って沈黙する。




僕はなぜか気付かなかった。


自然に書いていたためか、それとも故郷に戻ってきて僕も大概に浮かれていたのか、眠気によって頭がぼんやりとしていただけなのか。






その文字が日本語であったということに。




いや、ぶっちゃけ眠る前に気付いたのだが、眠かったのでスルーした。
うん。
特に困らないじゃない。だってさ。













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