タコのグルメ日記

百合姫

レッツ家づくり

指先に魔力を集め、その魔力でもってその辺で拾った石に魔方陣を刻んでいく。
シュステーマ・ソラーレの魔方陣を書き終えたところで石に魔力を込める。


「・・・っと、そういえば・・・」


魔力を込めるのを中断した。


『どうしたのだ?』
「どうしたの?」


それを見て、これから大技を放つつもりだったフィンケルも中断し、やまいもこちらを気にする。


「いや、ちょっと・・・・・・森に棲んでる生き物も無差別に殺すのは割と抵抗感があるんだよね。」


僕も森で生まれ、森で育ったからこそどうも気が進まない。
木々を焼き払う行為自体にも抵抗感を覚える。
ほかに方法はないのかと尋ねるとフィンケルはうむ、とうなずいた後に答えた。


『無いこともないぞ?』
「それは?」
しゅの本体を探し出して、魔力を直接補給してやることじゃ。
聞いた限りでは植物としての精が強いようだからの。
おぬしらが持っている薬を振り掛ければ・・・なんとかなる、はずだのう。』
「・・・それは・・・なんとも気の遠くなる話だ。」




目の前に広がる森を見ながらげんなりする。
さきほどフィンケルの背に乗った状態で見た限りでは尋常じゃなく広い森だ。
かなりの高度を飛んでいたにもかかわらず、端まで森一辺倒だったのだ。
そこから人一人を探すのはとてもじゃないが現実的ではない。
僕の身体能力をフルに活用しても年単位の時間は必要そうだ。


と思ったところで、一つひらめいた。


「そういえば僕たちにかかってる加護の残り香をたどってここまで来たとか言ってたよね?」
『ふむ、確かに。まぁ残り香というのはたとえであって実際は魔力のラインをたどっただけだがの。
主とその加護を受けた者の間では・・・』
「あ、そういう理屈はどうでもいいんで。」


僕はファンタジーな文化には事欠かない日本人が前世である。
言葉だけでもある程度意味は察せる。
実際は想像と全く違うこともままあるが、まぁ何。
どちらにせよ今、それらは重要ではないのだ。


『むぅ・・・ほんとにぬしは、つまらぬのう。
・・・まぁその質問から察しはつく。
本体のところまで飛んでいけということかの?』
「そのとおり。
森の中に入らなくても、空から落としてくれれば十分だから。」
『・・・まぁできんことも無いが、大雑把な位置しかわからんぞ?』
「それでいいよ。」
『あい分かった。乗せて行ってやろう。』
「・・・あ、ありがとう。」
『なんだ?
その歯切れの悪さは?』
「い、いや、親切すぎるとなんか裏があるのかと思うじゃない?」


ここまでわざわざ乗せてもらったことと言い、この竜、友好的すぎないだろうか?


『おぬしは何を言っておる?
親切をして何を困ることがあるのかの?』


心底不思議そうな顔をするフィンケル。
いや、僕にはあくまで声のイントネーション的にそう判断しただけで、竜の表情の違いが判るわけじゃないのだけど、ほんとに不思議そうだった。


これはおそらく竜の生態、というかこれもまた野生動物と人との違いなのかもしれない。
いや、それとも単に彼女の性格によるものか。
人間であるなら何がしかの裏、たとえば詐欺だったり、後から何か途方もないお金を請求されたりとかが怖くなるものだが、竜は特にそんなことを考えない。
考える必要がない。
そういう発想がないというのが最も正しい表現かもしれない。


落ち着いたら、菓子折りを持ってお礼に行こうと思いながらもフィンケルに索敵を頼むことにした。




『うむっ!』


嬉しそうに答える彼女は僕にはわからないがきっと笑みを浮かべているのだろう。


そしてそんな彼女を見ながら僕は思った。
表情がわかるわからない以前に竜には笑顔や悲しい顔を作るための表情筋がないんじゃないかなぁ、なんて。




☆ ☆ ☆


『このあたりじゃの。』


空を飛びながらフィンケルは森の中央あたりに来た。
もちろん背中には僕とやまいがいる。


「おっけー・・・えと、いろいろとありがとう。
このお礼は落ち着いたら・・・」
『ふむ、そうか。
お礼してくれるというのならば期待して待っていよう。
ふふふふ、これは楽しみが増えたの。』
「いや、あまり期待されても困るよ?」
『何、なんならお茶しに来てくれるだけでも良い。
私はそれだけで幸せだからの。』


な、なんて安上がりな子っ!?


「それじゃ・・・」
「ありがとう。私も一緒にお茶しにいく。
そ、そのときはドードも一緒に。」
『ドードとはここの主か?
・・・ふふふ、それもまた楽しみにしておこう。』


すでに主のいる迷宮の中にはほかの主は入れない、というツッコミは無粋か。


『そろそろ行くといい。
あまりのんびりしていると日が暮れる。
それまでに拠点を作るのだぞ。』
「忠告どうも。やまい。」
「ん。」


僕の声にうなずくやまいを抱えて僕は飛び降りた。


森に接触しない程度に高度を低くしてくれていたので特にすることもなく、地面に降り立つ。


ズンと大きな音を発てて着地する僕。
お姫様抱っこをされて少し恥ずかしかったのか頬を赤くしていたやまいを降ろしてあたりを見渡すと、やっと帰ってきたなという感慨が・・・感慨が・・・あまりわかなかった。


「・・・ほんと様変わりしちゃって・・・」


周りの植生がまるっきり変わっている。
見たことない植物ばかりで、しかしそれぞれの植物は碧々としていて力強くその葉を広げている。
強く入る日差しも木々の葉っぱで遮られ、中に入り込む光は優しい木漏れ日のみ。
足元には苔が所狭しと生えており、それなりに高い場所から落ちた割には衝撃が少なかったのはこれのおかげかと納得する。


全体的にじめじめしつつもそれなりに風通しのいい森、となったようである。


まさしく、ふぁんたじっくな森の様相だった。






「まずは拠点づくりかな。」


一日で見つかるとは思っていない。
ある程度の位置は教えてもらったが、それでもこの付近という大雑把なものだ。
ここを起点に少しずつ探索していくのが常套手段だろう。


「となれば・・・さっそく家づくりかっ!!」
「タコ、嬉しそう。」
「久しぶりの故郷だからね。
嬉しいよ。」




確かに様変わりした。
様変わりしたものの、それでもなお僕の胸の内からはここが故郷だと。
本能的なものが感動の叫びをあげている。


まずは拠点づくりからだ。


「タコ、タコ、」
「ん?」


やまいは自分を自分で指さし、にこにこしながら言う。


「私も手伝える!」
「うん、一緒に作ろうか。」


特に木材加工をお願いしたい。
相変わらず細かい操作は苦手です。
腰に下げていた黒い剣『漆黒』・・・というには今やもう青く輝く得体のしれない鈍器なのだが、それを目印代わりにぶっさしておく。
毎度のことながら剣として、というか武器としても全く使う機会のない物だ。
彼?彼女?
性別があるかはわからないのだが、こいつもいつぞやのように人型になって手伝ってくれればいいのにと思いつつ。


まずはよさげな木材の確保からである。




「・・・おおお。」
「はっ!
ていっ!
やぁっ!!」


くろもやさんをまとって、それを爪状にしたくろもやさん技の中でも基本技。
竜の爪。
それを用いて、やまいはバッサバッサと木を整形していく。
僕のエアスラッシュでなぎ倒した木々を、やまいがくろもやさんで適切な形にカットしていくという一連の作業なのだが、やまいの器用さにびっくりである。


これなら昔のようにいびつな家ができることはなさそう。
旅の荷物を入れていたカバンから取り出した羊皮紙に僕が吐き出したタコ墨で描いた設計図を元に部品を次々と作っていく。


くろもやさんを使ったことによって、忌避フェロモンが発生、それをうっとうしく思った動物たちが襲い掛かってくるということを警戒していたもののそれも一切・・なく。


<a href="//2238.mitemin.net/i84990/" target="_blank"><img src="//2238.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i84990/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>


一応ここに来る前に街で買い込んでおいたネジを確認しながら作業を続ける僕たちであった。











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