タコのグルメ日記

百合姫

えいゆう

「ぐおおおおおっ、いてぇっ!いてぇええええっ!!」


腕がちぎれとんだためだろう。
悪漢はうめき声を痛みを訴えながら、こちらを血走った目で見つめてくる。
これで右目右腕ともに使い物にならなくなったわけだ。


「こ、このぉっ!ブスがっ!
ブスがブスがブスがブスがっ!!
このブスやろうがぁあああああっ!!」


ブスブスと連呼すな。
それとも意外と僕はブスな顔立ちなのだろうか?
世の中には様々な価値観があるように、価値観の一つである『美醜』の基準モノサシもまた時代や場所で変わる。
僕が美人だと思って作った顔は実はブスだった!という可能性もあるかもしれないが、少なくとも今までの経験上、この付近ではそんなことはないはずだ。
彼のみが持つ独特の価値観なんだろう。


「お、おまえ、おらを怒らせたなっ!
怒らせてしまったなっ!?」
「・・・キャラが行方不明だぞ。さっきから。
口調くらい固定したらどうだろうか。」
「うるせいわぁっ!!
てめぇは絶対にぶっころ潰すっ!!」
「・・・そうかい。でも、残念。捕まっちゃいなよ。」


当然、警備の人間がまた動く。
僕がどうこうするまでもなく彼は捕まるのだ。


‐そう、捕まるはずだった。
床から大きな口が飛び出て、男を飲み込んだのである。


「っ・・・何っ!?」


そしてそのまま大きな口を持つ生物・・・ではないな。
ロボットっぽい頭にそのまま手足をつけたような奇妙なロボットが男を飲み込んだのだ。


『お、おまえは絶対に・・・絶対に許さないぞぉおおおおおおっ!!』


全長2mくらいの顔だけのロボット。
そのロボットから男の声がする、ということは・・・噂に聞く乗れるゴーレムとやらなのかもしれない。
ロボットアニメの世界にでも来てしまったのだろうか?
驚いて少し放けてしまった。


そのままロボットは来た道であろう地面に潜っていく。


「え?
・・・あれだけ言って逃げるの?」


ちょっとワクワクしたんだけども・・・ハッタリでこちらが身構えた隙に逃げるという策だったのかも。
だとしたら、まんまと出し抜かれた。


『にげるわけナッシングッ!!見せてやるよっ!ぼくちんの最強のゴーレムの力をっ!!』


という声は砦の外から聞こえてきた。
出し抜かれたわけではないみたいだった。


他の観客も皆々その声の方向を見るべく砦の窓から外を見るとそこには二階建ての一軒家を超える程度の大きさのゴーレム・・・なのか?
ずんぐりむっくりした、卵のてっぺんを逆さまにしたものに両手両足をつけたようなロボット、いや、ゴーレムが出てきたのだ。


『リリィたんが俺のものにならないなら他の男のものになるまえに殺してやるよぉっ!!
そしてそこのブスは絶対に殺すっ!!』


そう言って男はゴーレムを操作したのだろう。
豪腕が砦に向けられた。


当然、周りの観客は慌てふためき、逃げていく。


「やまいっ、手をっ!」
「う、うん。」


人ごみに流されないようにやまいとしっかり手を繋いで、僕も砦から非難する。
あのゴーレム自体倒せないこともなさそうであるが、これから先は僕が手を出すまでもなく、この街の警備員が動いてくれることだろう。下手にでしゃばるのもどうかと思うし。
リリィちゃんとやらも逃げたようだ。
となれば僕が手を出す理由は特に無くなった。
と思ったのであるが。
警備員もゴーレムを操って対抗しようとしたのだが、あえなく皆々、特に抵抗する間もなく破壊される。


一般的なゴーレムはお相撲さんより一回り二回り大きい程度。
家くらいの大きさのゴーレムが相手ともなるとあえなく撃沈されてしまうようだった。


「っ!?」


そのまま男のゴーレムは砦へ攻撃をしかける。
入口を壊し、避難しようとしていた僕のところへやってきた。


さすがに知らんぷりはできそうにない。下手に動けば僕が周りの観客を巻き込みそうだ。


「やまい、先に逃げていて。」
「・・・私も戦うっ!」
「だめ。こんなところで力は使えないし、力を使えず、盾も持ってないやまいじゃ危ない。」
「・・・っ。」
「だめだよ。」
「・・・わかった。でも、逃げない。遠くで見てる。」
「・・・はぁ。うん。そうして。」


僕がドラゴンに立ち向かったときのことを思い出しているのかもしれない。
やまいは少し泣きそうだった。
ちょっと状況似てるし、やまいが逃げたがらないのも分かる。
いざとなれば僕が守ればいいのだ。前回と似てるのは状況だけ。
内容は全く違う。
相手がドラゴンよりも格段に弱く、そして僕は格段に強くなっているということだ。


『しねやぁゴラァアアアアアアッ!!』
「あ、あぶないっ!!」


正しく上から降ってくるようなゴーレムのパンチが僕に襲いかかる。
周りの人が声を上げた。
白いワンピースに麦わら帽子をかぶった美少女が仁王立ちしながら不敵に微笑んでいたらそら、声の一つや二つは上げてしまうだろう。
なにせ見た目は華奢な女の子なのだ。
一見華奢でも内面ガチムチな僕はワンピースのスカートの中から、くゆり出る尻尾に見せかけている触腕をペロペロキャンディの様な形に変えて盾として目の前に出した。


ちょいちょい表情を作るのに慣れてきたせいか、感情と直結して顔付近の筋肉が条件反射のように動くようになってきたというのは余談。


『なっん・・・だ、と!?』


轟音が鳴り響き、僕のいた地面が陥没するのだが。


『・・・無傷・・・!?』


当然、ゴーレムには筋肉なんてものはついていない。
体を動かすのはあくまでもそういう魔法陣が刻まれているだけで、魔法陣を見る限り、魔法陣は動かすのに必要な最低限の力を生み出す程度。
格別威力が上がるようなものは刻まれていない。


つまりこのパンチは自重と遠心力を利用したというだけのパンチなのだ。
推定5トン程度。
その程度では僕にカスリ傷一つ与えることは出来はしない。


「そら、もういっちょ。」


レーザー眼を今度はかなり強めに。
貫通してしまわない程度に打ち放つ。
ガトリングのように連射する。


『ぐおおおおおっ!?』


ゴガガガガガガとレーザーがゴーレムの装甲を削っていく。
ゴーレムは顔をかばうように腕を前に出すが、こちらも出力を徐々に高めていく。
倒れるのも時間の問題だろう。


ちなみにこのレーザー眼。
ホントのレーザーとはちょっと違う性質のようで、光ではあるが、光速では飛ばず、炎を収束したような見た目で、しかし風の影響を受けず、屈折するという光と炎を足して二で割ったような性質を持っている。
というかほんとに魔法で光を操れたら今している攻撃はすべて光速ということになって、避けられる生物なんてまずいなくなるだろう。
さすがの魔法でもそんな超絶魔法を使えるのは無い。ゆえに光属性の魔法はなかったりする。
これまた余談なのだが。


『こ、このっ!
舐めるなよっ!!
このハンプティ・ダンプティmk2はありとあらゆる魔法に対する対抗策を持っているのだっ!!はーっはっはっはっ!!』


そういったのとほぼ同時だろうか。
ハンプティダンプティとかいうロボットの背後から排気口のようなものが出現し、そこから霧のような物が噴出される。
すると目に見えてレーザー眼の威力が落ちた。
これは・・・


『火魔法のほとんどは水の魔法で緩和できるっ!
その攻撃はつうじながあああああああっ!?』


ま、ゴリ押しでいいや。


光の性質を持ってることを逆手に取ったところは驚いた。
光線レーザーというのは元々大気中では威力が落ちる。
そこにさらに霧がかかると光が空気中の水分に吸収されて、より威力が落ちるということを聞いたことがある。


でも、より魔力を込めてしまえばいいだけの話である。
一応エアスラッシュも打ち付けてはいるんだけど、あまり変わんない感じだ。
まぁ時間の問題だが。


『くっそぉぉぉぉぉおおおおっ!
こんなはずじゃ・・・こんなはずじゃぁああああっ!!
・・・ふひっ、ふひひひひっ!ふひはははははっ!!』


不気味な笑い声をあげる男。


「やけくそになったのかな?」
『もういいぅっ!!
もういいのだっ!!
皆、吹き飛んじゃええええええええっ!!』
「はぁっ!?」


ピーーーーーーーっと明らかに警告音的な物がゴーレムから響きだした。
こ、これは・・・ちょっとまずいかも。
すぐに逃げなくちゃいけない。
が、結構逃げ遅れた人や、ゴーレムが入口を壊したために入口付近の壁の倒壊に巻き込まれた負傷者なんかも結構いる。
返り討ちにされた警備員の人も少なくはない。
・・・この人たちを見殺しにするのはちょっと、と思うものの、どうしたらいいのだろうか?
ゴーレムに刻まれた魔法陣のどこかをいじればなんとか出来そうな気もするが、さすがに自爆魔法なんて知らない。
というかところどころ僕の知らない魔法陣が刻まれているのだ。
ゴーレム関連の魔法なんて専門外である。


正直、僕が中途半端に彼を追い詰めてしまったせいである感も・・・ちょっとある。
いや、もちろん誰がそんなことを予想できかという意味では僕が悪いことなんて、欠片もないのだが、そうとは言えどもちょっとなりとも引っ掻き回してしまった。という責任はちょっとある気がしないこともない。


と、とにかくどうしよう?
ていうかどうしようもない。
と、思っていたら。
ラインハルト君がゴーレムに駆け寄っていった。
何する気だっ!?


「くそっ!開かないかっ!?」
『ははははひひひひひっ!
無駄無駄っ!
この中には絶対に入れないもんねぇっ!!
そして爆発で皆死ぬんだっ!!
少なくともこの街の半分は吹っ飛ばしてやるからなぁっ!!
魔力のチャージに20分くらいかかっても、それでも逃げ遅れる人間はたくさんいるさっ!!』
「くそっ!!」


・・・どうやら中に入りたいらしい。
それよりも半分吹き飛ぶって・・・これははやく逃げるべきだろうか。20分もあれば宿で留守番してるはずのティキも回収してすぐに街から出ればなんとか・・・


「タコ姉ちゃんっ!」
「や、やぁっ!ラインハルト君っ。」


やまいと逃げようとしたところでラインハルトくんに見つかった。


「俺はあんたみたいな馬鹿力は無いっ!けどっ、ゴーレムをいじることはできるっ!!
俺をあのゴーレムの内部にっ!!頼むっ!!」
「え、でもすぐに爆発しそうだけど・・・間に合うの?」


と言いながらも、出来る出来ないは置いておいて喋る間がもったいないので、とりあえずゴーレムの継ぎ目に手を差し入れて力を込める。
ミシミシと音を発て、バキッ!と開く。


「わかんねぇっ!!
けど・・・ここでこれを放っておいたら、俺の・・・俺の故郷が吹っ飛ぶ。
そんなのっ!
そんなの嫌だっ!!
できることはやりたいんだっ!!」


熱血主人公を見ているようだ。
僕に足りないのはこれかもっ!?
なんて馬鹿なことを考えてるあいだに、コックピット?をこじ開け終わった。
当然中には男がいたが、これ以上余計なことをしないように触腕でひっぱたいておく。


「ぎゃがぁっ!?」


顎が砕けて失神したようだ。
多分死刑だし、爆弾の解体ができなきゃコイツも木っ端微塵だろうからこの場で殺すようなことはしない。人殺しに対する忌避感は未だに残っているし、飛び散った血がゴーレムの内部を汚して何か悪いことが起きる、なんてこともなきにしもあらずだし。


コックピットらしき部分はこじ開けたし、あとは僕たちは逃げるとしよう。
え?
待たないのか、と?
馬鹿言ってはいけない。
こんな電波入った男に道連れに殺されるなんてまっぴらゴメンな上、やまいやティキをこんな奴と心中させたくなんてない。
そもそも僕がここにいても出来る事なんて何もないのだ。


と、言いたいところなのだが。
全魔力を使った全力のレーザー眼なら街を吹き飛ばすだけの爆発も吹き飛ばせるんじゃないかなぁとか思っていたり。
でも、100%できるかなんてのは分からない。そもそも実際に全力で撃った事なんて無い。
爆発するまでもなくこのゴーレム自体を今すぐ消し飛ばせば・・・いや、でもそれがきっかけで変に爆発したら・・・とやまいのところへ向かいながら考えていると。


ピー音が止んだ。


「・・・解除・・・成功したぜ。」




街を救った英雄が誕生した日だった。













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