タコのグルメ日記

百合姫

慟哭

水晶砦クリスタルシティについた僕たちはひとまずの宿探しをすることにした。
周りには人よりもゴーレムの方が多いくらい、というのは言いすぎか。
単にゴーレムの存在感が大きすぎるというだけかもしれない。
ゴーレムが普通に街を行き交うため、日本のように道は広く、車道、歩道というふうに分かれていた。ゴーレム道というべき道を綺麗に並びながら歩いていくゴーレムたちは圧巻の一言である。


ガラスでできたようなゴーレムや、ダイヤモンド、水晶クリスタル、ルビー、サファイヤとなぜそんな鉱石を使う必要があるのかというゴーレムまである。
そのどれもが魔法陣を刻まれていて、魔法陣だけなら僕でも真似できそうだ。


たまに子供がゴーレム用の道に出てしまっても、ゴーレムから機械的なボイスが出て警告が始まる。
踏み潰すようなことは無いようだ。
実によくできた人形といえよう。


「やまい、ゴーレムの道に出ちゃダメだからね。」
「・・・分かってる。子供扱いしないで。」
「・・・それもそうか。ごめんね。」


さすがにありえない心配だったか。


「・・・っ。」
「どうしたの?」
「・・・べつに。」


やまいはどことなく不機嫌そうだ。
一応言っておくが、彼女に対してよそよそしさを感じさせるようなことは無い、はず。
笑顔を心がけ、優しめに接しているのだから。
繊細な飴細工を扱うように気遣っている。
飴細工なんて作ったことないけれど。


「あいたっ。」
「ん?」
「ど、どこ見てんだよっ!!」
「横だけど。」
「そ、そうか。じゃなくて、前見てろよっ!?」
「ごめんなさい。」
「お、おう・・・わかったならいいんだよ・・・なんか調子狂うな。」


周りを眺めながら歩いていると僕の偽胸にばんと当たる少年。
もしかして、狙ってやったのか?とかちょっと思ったが、そんなエロガキには見えない。
少年の右手には何やらへんちくりんな機械がついていた。
なんというか、機械の装甲をつけた右手という感じだ。
取り付けに10分はかかりそうな複雑な形とコードがたくさんついている。


「な、何、見てんだよ。」
「右手。なにそれ?」
「はぁ?
この街にいて、そんなことも・・・ああ、そうか。あんたらよそ者か。なら仕方ねぇな。俺が教えてやろうじゃないか。本当なら俺はすっごく忙しいんだぜっ!?」
「あ、ごめん。特別知りたいわけじゃないからいいや。」
「これは・・・ってはぁっ!?
・・・お、おま、おまま、」
「おまんま?」
「ちがうわっ!
お前が聞いたんだろっ!?」
「いや、なんか条件反射で・・・気になることは気になるけどさ。
別に忙しいところを無理して聞きたいほどでは・・・」


トゲトゲしい頭を持つ13、4の少年はその言葉に、そ、それはみたいな感じに言葉を詰まらせ。


「もしかして・・・見栄はったり?」
「・・・そ、そそそそそ、そんなわけないだろっ!?」


分かり易い少年だ。


「それじゃ、これで。」
「あ、ああっ!俺は忙しいからな!」


と言って走り去っていく少年だった。


☆ ☆ ☆


「いらっしゃいませ。小鳥の庵にようこそ。お泊りですか?
お食事ですか?」


宿屋についた。
周りの人に聞いてみたところ、一番評判の良い宿らしい。


「お泊りで。部屋は二つ、いや”三つ”で。」
「何日のお泊りで?」
「・・・何日にする?」


二人に振り返る。


「三つもいるの?」


ティキが言うが、スルー。
年頃の女の子と一緒に過ごすなんてのは僕はともかくやまいが嫌がるだろうという気遣いだ。
お金には余裕があるし、問題ない。


「そういう話じゃないんだけど・・・やまいちゃんはいいの?」
「・・・・・・別に、いい。」
「・・・そう。」
「で、何日さ。」
「私は・・・ここで三日くらい欲しいかな。」
「・・・何日でもいいよ。」
「そう、じゃあとりあえず三日で。」


三日。
この街で何をしようか。


次の日の朝。
またもや朝からティキが登場である。
いつもは僕が二人を起こすのだが、ここ連日、彼女がちょいちょい朝にやってきては似たようなことを言う。


「一体、いつまでいじけてるつもりなの?
見てて可哀想だよ。やまいちゃんが。」
「・・・どこが?
普段通りに見えるけど。」
「本気で言ってる?」
「・・・。」


そして毎度のごとく、僕は苛立つのだ。
何に苛立っているのか、僕自身良くわからない。
おせっかいをしてくるティキに対して、うっとおしいと感じ、それに対して怒っているのか、ティキのおせっかいを見て自分のおせっかいを思い出して怒っているのか。
単純にイライラくる時期とかがタコにあるのかもしれない。
繁殖期みたいな感じで。


「・・・うだうだやってる僕自身にイラついてるのか・・・」
「そこまで分かってるなら・・・」
「どうしろっていうの?」
「・・・普通に話せば・・・」
「何を話すの?
どんな顔で話す?
どうやって接すればいい?
やまいは僕の何だっていうんだ?」
「・・・っ。」
「やまいの言っていたことはすべて正しい。
今更ぽっと出てきた人間に何を言えって言うんだ。
一番辛い時に一緒にいれなかった。
一番助けて欲しい時に助けてやれなかった。
僕は・・・保護者ですらない・・・赤の他人だ。」
「そんなこと・・・」
「あんたに何がわかるっ!?」


僕の首周りの触腕が服を破り、瞬時に周りの調度品をぶち壊した。
飛び散った破片があたりに散らばる。


それを見て、怯えず、ビビらず、ただこちらを見つめるティキ。


「・・・っ。・・・頭を冷やしてくる。」


何を言ってるのだろうか。
ティキに僕の気持ちがわかるはずなどない。
だって彼女は僕と特別、長年連れそった親しい友人というわけでもなければ、僕自身が僕の気持ちを言葉にしたわけでもない。
なのにも関わらず、自分の気持ちがわかるわけない!なんて言葉を彼女にぶつけるなんて。
子供のワガママ同然だ。
少し、どうかしてるのかもしれない。
何よりも。
あの時の言葉が、やまいの言葉が頭から離れない。
ドアに手をかけながら、ティキに声をかける。


「・・・ティキが気にすることじゃないよ。そもそも、やまいとは半年にもならないくらいの付き合いしか無いんだ。それもだいぶ前のこと。3年前のことだよ。その程度の相手に軽く怒られたからって、気にするほど僕は繊細じゃないさ。そんなんじゃ自然界じゃ生きていけないし。」


努めて笑顔を作る。


「・・・。」


ティキは何も言わなかった。
とにかく頭を冷やしてくる必要がある。
そう思ってドアを開けるとそこにはやまいがいた。


「や、やまい・・・?」
「・・・っ。」


そのまま走り去るやまい。


「・・・っやまいちゃんっ!!」


ティキは追っていくが、僕は追っていかなかった。
邪竜の加護の影響で忌避感を感じてるはずのティキが彼女を気遣ってるというのに、僕は何をしてるのだろうか?
話、聞いてたんだろうな。
泣いていた。
なぜ泣くのだろうか。
そう、たかが半年。
そして短くはない時間、会っていなかったのだ。
別に大それた話ではない。
少し反応が過剰ではないか?


「子供は情緒豊かってことだろうね。」


一過性のものだ。
一時的な、そう、一時的なものであろう。


街中をぼんやりと歩きながら、僕はそんなことを考えていた。
すると見覚えのある顔を発見する。


「お、おまえ・・・昨日のねーちゃん・・・っつか・・・ひでぇ顔だな?
寝てねぇのか?」
「ぐっすり寝てるけど・・・そんなにひどい顔してるかな?」
「今にも泣きそうだけど・・・大丈夫か?おまえ。」
「・・・わかんないや。」


自分でもどうしてここまでのショックを受けているのか分からないのだ。
基本的に僕は事なかれ主義。
あまり他人の懐に飛び込まないタイプである。
言い換えれば知り合いが多くて友人が少ないタイプだ。
そんな僕が最近はどこかおかしい。
どう考えてもあのおせっかいが原因だろう。
ガラでもないことをしたからである。


そんな僕がお節介をしたいと初めて思えた相手がやまいだった。
もう一歩踏み込みたい、彼女のために何かしてあげたい。
そんな感情は初めてだった。
いや、そう思ったことはあったが、実際に行動に起こすほどに強く思ったのは初めてだといえる。
初めてやったお節介。
彼女のためであったはずのことが、彼女の心にバッサリ傷をつけたこと。
自分のお節介が無意味だったことよりもなによりも。
力になってあげたい相手に対して、初めて強く助けたいと思った相手に対してひどく傷つけてしまったこと。


それがー


「お、おい!?
いきなり泣くなよ・・・っ!?お、俺が泣かしたみたいになってるだろっ!?」
「う・・・うぅ・・・あああああああああああ。」


悲しいんだ。




☆ ☆ ☆


「ったく・・・落ち着いたか?」
「ごめんなさい。」
「・・・まったくだぜ。」


僕は少年の家に厄介になっていた。
ホットミルクが美味しい。


彼の言うとおり、まったくもってまったくだ。
きっとやまいはもっと悲しい思いをしているだろうに。
加護の副作用が効かない相手である僕に対する情の入れ込みは僕の思っている以上に重いものだろう。
いきなり距離を置かれた彼女からすれば彼女こそ泣き叫びたいはずだ。
逆に言えば加護の副作用さえなければ、彼女が僕に執心する理由もなくなるということになる、かもしれない。
そうとは考えたくはないけれど、僕は保護者としても家族としてもあまり適した人間とは言えないだろう。
この際、僕はあまり近くにいない方がいいかもしれない。
悪影響を与えては彼女のためにはならないだろう。
いっそのことティキにすべてを任せてしまおうか?
彼女なら下手に僕が面倒を見るよりもやまいをいい子に育ててくれるだろう。
まぁあの正義感だけが珠に傷だが。


保護者として、引き取り手として自分が責任をもって最後まで育てる!と思っていたが、よりよい親元を探してあげる方がやまいにとって一番良い選択なんじゃないだろうか?
いっそのこと目の前の少年にも相談してみようか。
全く関係ない第三者であるが、だからこその意見もあるかもしれない。
というわけでしてみたが。


「・・・あんた・・・馬鹿か?」
「・・・ばか?」
「俺はそのやまいって子のことはよく知らないけど・・・俺だったらずっとあんたといたいって思うけどな。」
「・・・でもそれはやまいのために・・・」
「それが間違いだと思うぜ。子供だからって舐めんな。
自分が一緒に居たい人間くらい自分で決めれらぁ。あんたが一緒にいるのが嫌だってなんならともかく、そんな理由で別れたらむしろ一生恨むね。俺なら。」
「・・・っ。
・・・そうかな?」
「知らねぇよ。俺だったらって言ったろうが。そのやまいとやらに聞けよ。」
「・・・だよね。」
「・・・ねーちゃん、見た目賢そうな美人なのに、すんげぇ馬鹿なんだな。」


と言って笑う刺々しい頭の少年。
なんか失礼だったので、頬をつねってやった。


「いでででっ!?
あにすんだっ!?」
「面と向かって人を馬鹿呼ばわりは良くないと思うよ、僕は。」
「らって、ばかだろうがいいででででででっ!?」


そのあと、少し泣き顔で謝ってきたので、許してやった。
実際はなんか恥ずかしかったのを隠すための行為だったりするが、僕にだって、たまにはこういうこともある。
子供にこんなことを相談するなんて。今更ながらに自己嫌悪だ。
いや、そんな子供でも分かることを分かってなかったのだから、僕はそのへんの子供以下ということになるのかもしれない。猛省せねば。


「少年、君の名前は?」
「・・・あ?俺の名前はラインハルトだけど・・・」
「そうか。僕はタコ。ラインハルト君、ありがとう。」
「・・・な、なんだよ、いきなり。」
「感謝の意を示したんだけど・・・この国じゃそうは言わないの?」
「いや、別にあってるけど・・・俺は俺の考えを言っただけだし・・・」
「いやはや・・・少年といえどもバカにできないね。」
「馬鹿にしてたのかよ。」
「・・・まぁ頭が良いとは思ってなかったかな?見た目的に。」
「・・・性格悪いな。」
「それほどでもないよ。」
「褒めてねぇよっ!!」
「知ってるよ。・・・何、マジツッコミしてるの?うわぁ・・・」
「なんでドン引いてるのっ!?」


とかいいつつもラインハルト君には本当に感謝している。
少し憑き物が取れた気分だ。


「何はともあれ、さっきから気になってたんだけどさ。それ、何?」
「・・・あん?
ああ、これか。これは明日の飴祭りに使うための機械だよ。」
「・・・飴祭り?」


彼の言うことをまとめると飴祭りとはその名のとおり、様々な飴を出す祭りのことだ。
この水晶砦では飴が特産品として作られ、その種類は多種多様。
綿菓子なんかもあるのだとか。
そして目の前にある機会はあの、縁日とかに出る綿菓子を作るための機械に見える。


「わたがしのやつ?」
「タコねーちゃんは俺の機械式手甲は知らないのにこっちは知ってるのか?」
「まぁちょっとね。ってことはやっぱりわたがしを作る機械なんだ?」
「おうよ。俺のオヤジの代から続く由緒だだしい綿菓子機だぜ?」
「へぇ。」


確かに年季が入っているようには見える。


「んで、これは?」
「そっちは知らないのかよ・・・それは水飴だよ。このクリスタルシティでは一番の名産品だぜ?」
「・・・ああ、ガラス職人が考え出したとか言う奴?」
「・・・ほんと変なとこだけ知ってるな?」


確かに水飴を練って何かしらの形を形成する様はガラス職人に見えないこともない気がする。


「とりあえずさ。わたがし、作ってくれない?」
「・・・お前、図々しくないか?」




それは我ながら思うものの、わたがしは好物なのである。
ついでに・・・・やまいへのお土産にでもしてご機嫌を伺いつつ、ちゃんと謝るきっかけが欲しかった。















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