タコのグルメ日記

百合姫

やまいの近況

「で、この子は誰なの?」
「やまい?」
「そうよ。やまいって名前のその子。いろいろと腑に落ちない点があるけど・・・とりあえず妹・・・ってことでいいの?」
「ううん?
まぁそんなかんじかな。」


あれからちょっとして、周りの状況的にイキナリ生徒を泣かせた冒険者という図が出来上がってまずかったので、とりあえず軽い事情を先生に話して、僕たちの宿泊している宿屋に戻ってきた。
僕の胸元にはやまいがすやすやと眠っている。
詳しい事情は明日聞くことにしよう。
張り詰めていた何かが切れたようで、かなり眠りが深いようだ。


「それと誰かが死んだって・・・」
「うん、まぁ・・・」


グリューネが死んだ。か。
勝手に迷宮の主は死なないと思っていたが、交易都市の例を顧みればできなくもないと気づく。しかし、少し納得できない部分がある。
僕の冒険者カードだ。
これにはいろいろなことが書かれている。
そこには


―ーーーーーー―ーーーーー
名前 タコ
種族 デビルイーターキング
レベル 189
魔力量 2030000


加護 偽人撲殺士 ドリアードの加護


スキル エアスラッシュ エアジェット 縦横無尽筋 表皮形成(体毛操作) 擬態 ゴブリン形態 美少女形態まほうしょうじょ 美少年形態しょたっこ 気配探知タコレーダー 気配拡散タコステルス タコ脚キャノン 
―ーーーーーー―ーーーーー


とある。
ドリアードの加護、が消えていないのだ。


「死んだら消える・・・と思うんだけどな。」


僕の安心の一番の根拠がこれだっただけにショックだ。
グリューネが死ねば消える。消えない限りはグリューネは元気いっぱいで、なんだかんだで甘くて優しいグリューネならばきっとやまいの面倒を見てくれている・・・と勝手に思ったから安心していたんだけど・・・
喰み殺す森と名前を変えたことといい、結構やばげなのか?
となると急いで戻る必要があるけれど・・・そもそも彼女がここにいて、学校に通っている理由がわからない。
生き返らせるとかって言ってたし。


ダメだ。考えても分からん。
とりあえず今日は久々に一緒に寝るとしよう。
健やかに、とは言えないかもしれない。
けれど、今は無事に成長した彼女と再開できたことを喜ぶことにする。


「・・・私はもう寝るね。」
「ごめん。気を使わせた?」
「別にそんなことないよ。おやすみ。タコ。」
「おやすみ、ティキ。」


ティキは自分の部屋に戻っていった。


☆ ☆ ☆


「タコ、タコ。」
「ん?」
「あ、起きちゃった。」
「あうあっっつ!?」


起きてすぐにやまいのしばらく見ていなかった端正で可愛らしい顔。
思わずビクッとしたが、何、すぐに気を取り直す。
中学生じゃあるまいし、この程度であたふたするほど初心なお人じゃないのですことよ。
やまいは僕にただただ抱きついて頬ずりしていたようだ。そして何を思ったのか僕の顔を覗き込んでいた、と。
グリューネといつから会ってないのかは分からないが久々に会えた自分を嫌わない人物ということで反動で過剰に甘えているのだろう。
はたからみると恋が暴走した少女である。
さしものタコさんもドキドキしたぜ。
ちょっとだけ。
ちょっとだけね。


「あ、っと・・・そういえば擬態、解かなかったんだっけな。」


やたらと体が凝ってる。
最近眠りながらの擬態もできるようになってきた。
人間で言うと眠りながら腹筋の際に体を起こす途中で止める、みたいな無茶技なんだけども・・・まぁ見てくれだけが人間っぽいだけで人間の体じゃないし、天井に吊り下がりながら日常生活を送るコウモリや半分だけ脳を眠らせて海の上を飛び続ける渡り鳥など。無茶な動きをしながら休める動物なんていくらでもいる。
そう納得しておこう。


そもそも解かなかったのはベッドが狭く、またやまいがどうしても一緒に寝ると言って聞かなかったからだ。
どおりでやまいの裸体の感触が狭い面積にあると思った・・・あ?


「あうっつぉうああぁっ!?な、なんで裸っ!?」
「暑いから?」


5段階ぐらい過程がすっ飛んでる気がしたけど、別にそんなことはない気がする。
だが、何。
僕がうろたえたのもあくまでもビックリしたからだ。
落ち着けば少女の肉体のひとつふたつ。
なんら問題はない。
目の前のやまいの体は胸に脂肪がほんのり乗り始め、少し腰がくびれてきてお尻が大きめに成長してきた程度。
ほんのり赤らんだ頬を緩めてやまいはこちらを見ている。


「どうしたの?」
「いいや。なんでもないよ。」
「顔赤いよ?」
「そ、そんなことないと思うな。」


か、顔が赤いだと?
いろんな意味でないと思うんだぜ!
っと、とにかく気を取り直して、服を着る。
あ、ちなみに僕が裸なのは寝てる際に万が一にでも擬態が解けて、服が弾けてしまわない様にだ。
服は高いし、破れたらかなり財布に痛い。
ただでさえ、ティキが暴走した時用にへそくりもつくっておきたいのだ。
余計な出費は抑えたいところである。
はたからみたら百合百合しい光景が繰り広げられていたところだろう。
体も前より少し大きく形成する。
質量上の問題で僕も12歳前後の体にあう美少年じみた顔をしていたのだが、前までの顔となるともう少し背が欲しいところだ。
顔の年齢的に。


ちと無理があるが、僕のガチムチに不可能な擬態は無い。という気概でもって昔の体を形成していく。


「ほら、いつまで裸でいるの。服着る。風邪引くよ。」
「ん。それと・・・あの子はどうするの?」
「あの子・・・ああ、忘れてた。」


あの子とはティキのことではない。
部屋の隅で荷物を盛り上げたところに乗せたユグドラシルのことだろう。
昨日、尻尾、というより触腕で縛り付けてそのまま持ち帰ってきたのだ。
もちろん理由はある。


ユグドラシルはもがいている。
が、亀の体型を思い浮かべるとわかると思うが、亀の足は短く、足が地面につかないように荷物を盛り上げてそこに甲羅の中央を置くようにすれば、亀の四足では短すぎて何もできなくなる。
小さい亀ならばもがいてるうちに盛り上げた荷物が崩れて逃げれるかもしれないが、それも巨体を持つ亀では自重がアダとなり、逆に安定する。
一晩もがいて何もできないと悟ったのか、ユグドラシルも寝ているようだ。


宿の主人にも普通よりも多めの金を握らせてわざわざ連れ込んだのだ。
めちゃめちゃ目立ったけど、もともと街の外れに近いボロい宿屋。宿賃をケチったのが都合良かった。


「もともとは食べるつもりで持って帰ってきたんだけどね・・・」


すっぽん鍋があるように亀がまずい生き物でないのは知っているし、豊穣の森にも泉付近にはミズガメの類が何種類かいたので食べたこともある。
非常に美味しいのは僕も、やまいも知っていた。


「食べないの?」


少し残念そうだ。
料理は教えてなかったし、グリューネももっぱら食べる専門。
ここにくるまでの道のりも大変だったし、久しぶりの僕の手料理を期待していたのかも。
悪いけれど、それはまた次の機会だ。というかわざわざ見つかりにくいこの亀を使うのはちょっともったいない。そもそもこの巨体を持つ生物を絞めるにはこの場所はふさわしくない。


とりあえず、荷物の中からはちみつとミルクを出して混ぜ合わせたものを用意する。
はちみつは昨日の森の中で子守の合間に手に入れたもの。
オオスズメバチという日本一有名な毒を持つ生物を彷彿とさせる、というかそのまんまの名前のハチの巣をぶち壊して巣ごとぶんどってきた。
大きさは日本のものの3倍近く。カブトムシ並みの大きさである。怖かったがすぐに離脱すればいいと軽く考えてやったら、普通に囲まれた。エアジェットまで使ったのに。
あの大きさであの速さは反則だと思う。どおりで、ハチがいるのに、はちみつが売られてないわけだ。
危険すぎる。
かなり焦ったのだが、僕の皮膚にはハチの毒針が全然刺さらない。硬くて、というより柔軟に包み込むという感じだった。
・・・我ながら自分の皮膚の構造がどうなってるのか顕微鏡で観察したいくらいの出来事だった。おそろしいプニプニぼでぃだ。


もともとティキと一緒に食べようと思っていたのだが、全部やまいにやってもいいだろう。
ビビった上に、時間もなかったので量は無い。
巣の中に残っていた幼虫もまた貴重な甘味である。


働き蜂が運んできた蜜をろくな運動もせずにただ食っちゃ寝を繰り返していた幼虫たちはどれもがプリプリに太って、実に美味しそうである。
人によっては怖気の走る見た目だが、実際の味は下手なアメなど比べ物にならないほどの甘さ。
何よりもただ甘いだけの飴玉とは違い、丸ごと食べることの出来る幼虫には当然筋肉や脂肪といったものもある。
それらがいい具合の旨みを口に広げ、ただ甘いだけではない、まるで果物のような味わいが出るのだ。
口に入れた幼虫を噛みちぎればプチプチと子気味良く弾ける皮。
感触で舌を楽しませたあとに中から溢れ出る果汁。はちきれんばかりに膨らんだその身は皮が切れとんだ瞬間に吹き出し、それはみずみずしさとほんのりとした旨み。それに追随した甘味が旨みと絡み、絶妙なバランスで口に広がる。
それだけではない。
口に広がった甘味は幼虫それぞれにアクセントがついている。
おそらく、働き蜂が持ってきたいろいろな種類の花の蜜がそれぞれのアクセントを決めているのだろう。花によって味の違う蜜。幼虫の体にはそれらがまだ残っている。
酸味が混じって後味がスッキリなもの、より濃い甘味を出すもの、ふっとした苦味が糖分のクドさをなくしているもの、わずかなしょっぱさがより美味しく感じさせてくれるものと様々で、宝箱を開けて一喜一憂するようなワクワク感すら感じさせてくれる。


これならミルクに混ぜたはちみつを少し抑えたほうが良かったかもしれない。
甘いミルクだと少し飲み合わせが悪いかな、と思ったのも束の間。
満面の笑みでミルクを飲むやまいを見て、まぁいいかと思う。
パクパク食べていたやまいの手がふと止まった。
どうしたの?と声をかける前にやまいがこちらを見て、


「タコ、さっきから食べてない。」
「遠慮はいらないよ。」
「・・・う~。タコも食べる。」
「大丈夫だって。」
「や。」
「や、じゃなくて・・・本当に・・・」


じっとこちらを見続けるやまい。
一人だけ食べ続けるのも申し訳なさがあるかもしれない。


「タコも食べる!」
「分かった、分かった。」


手に持った幼虫を僕に食べさせようとするやまい。
昆虫食に慣れてない民族にはさぞかし嫌な光景に映るかもしれない。
食わず嫌いって損だね。なんて関係ないことを考えつつ、幼虫を味わう僕たちだった。


ああ、もちろん。
食べながら今までのことを聞いた。
僕の予想通り、大変な旅で、不用意に邪竜の加護を使えず、体力もない彼女にとっては厳しい旅だっただろう。
馬車の定期便に乗ったり、行きずりで相乗りさせてもらったり。
忘れがちだったが、この世界には奴隷制度がある。
変な大人についていったりということもなく、本当に、本当によくもまぁ無事に会えたものである。
移動しながらお金を稼げるという馬車護衛の依頼。
それを中心に受けるといいんだよ!みたいなことを元気いっぱいに言われた。
下手したらこの子、僕よりも旅慣れている。
僕の旅は1月チョイ。それもほとんどはスティックさんたちに頼りっぱなしだったのだ。
本当にすごいことである。
時には護衛ということで邪竜の力を使い、その場で追い出されたこともあるとか。
その話になって少し涙ぐむ彼女を抱きしめて褒めながら、僕はただただ彼女の話を聞いた。


「なるほど・・・グリューネは森になった・・・か。」
「うん。消える前に森になるって。」


また人間たちが攻め込んできたらしい。
豊穣の森と名付けた人間たち。
その名付けには当然由来があり、人間にとっての都合のいい物をたくさん持っているから。ということなのだそうだ。
そしてその資源を求めて人間たちが暴走。
もともとは節度ある動きだったのだが・・・いろいろ競争意識とかが激化したのかもしれない。
結果、グリューネが森喰み発動。
そこまでは良かった。
けれどそれも踏まえたうえでの人間の行動だったらしく、なんかグリューネがボコボコにされたとかなんとか。
で、グリューネは森を守るためにその手段ごと、さらに森喰みを再度決行。
連続で使わされた最終手段。
ああもうお腹が減って力だ出ないよ!ってことらしい。
軽く100年単位は体が作れず、何もできないとか。
それなら・・・死んだってことでもいいかも。
何はともあれ良かった。あの世に行ったというわけではないのだ。
で、グリューネの体を作るためにやまいは学園で必要な魔法薬を調合するとかなんとか。
でもってグリューネは消える瀬戸際にさらに無理をした。
邪竜の加護の副作用を抑えるための加護を持つ迷宮の主を召喚したのだ。
で、とりあえず普通に過ごしている分には嫌われなくなった。
という現状があるらしい。


「苦労してきたんだね。大丈夫、僕もグリューネには世話になって・・・たかは微妙なところだが、とにかく助けないと。」


となると僕も学園に入るべきか。
それとも勉強はやまいに任せて、それに必要な薬の素材を取りに行くべきか。
前者は僕がやったほうが効率がいいかもしれない、という程度。
後者は僕の方が俄然効率がいいと言い切れる程度。


今後の動きもちゃんと考えないと。
それよりも、だ。


「あれから何年経ったの?」
「3年。」
「そうか、そんなにか。」




それだけ経てばやまいがここまで大きくなるのも分かる。
・・・成長が早くないかな?




5歳児のやまいさんはどこにいったのだろうか?
少なくとも10歳児の肉体に見える。


「タコ?」




不思議そうに首をかしげるやまいは可愛かった。



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