タコのグルメ日記

百合姫

亀の動きは別に鈍くない

日向さんには誤射するくらいなら撃たなくていいから、確実に当てられると思った時だけ撃つことにしてと頼んだ。
すると時々変な場所に行くものの、たまに役立つレベルにはなった。


「んっ!」


力を込めて盾を振り抜き、その勢いのままに一回転。もう一方にもった盾をアッパー気味に振り抜き、岩窟ガエルの頭部を吹き飛ばす。


「ふぅ・・・ふぅ・・・はぁ。」


体力の少ないツインちゃんにとってはそろそろ本気で余裕がなくなってくる頃合に思える。
あれ以来、闇魔法をちょくちょく使っていたのだが、その度にマキシマム君がハナから本気出せよ、嫌味な野郎だぜとか、日向さんがなけなしのプライドによる対抗で、焦った結果、僕にぶち当たるという結果を引き出していた。しかもその時に限って射線上にツインちゃんがいるものだから僕も不用意に避けることもできず。それを見て気を使ったのか、そもそもそう何度も使える力ではないのか、今ではほとんど使っていない。
そしてティキは無視するならばこちらも無視するまでだとばかりにツインちゃんを視界に入れていなかった。


彼女にしては珍しく人あたりが悪いと思うものの、中には相性の悪い人間の一人や二人いるだろう。
あまり気にしないことにしたい。


それよりも一回、休まないのかと思うがマキシマム君はそれに気づかずオラオラ言ってばかり、日向さんはひぃひぃ言いながら火の魔法をぶっぱなす。
僕のいた森ではなく、乾燥した通気性のいいこの森では山火事になりそうで怖い。


えと、確かこの試験、日をまたいでやるやつだったよね?
なんでこの人たち一日でやろうとしてるのだろうか?
視野が狭いというかなんというか。
そら一日で終わらせることができれば安心だろうけど。
休憩のするしないくらい自分達で判断してもらいたかったが、これ以上は見ていられない。


「そろそろ休憩しよう?」


と思っていたら、ティキが言った。
ティキも思っていたらしい。


が、マキシマム君は「はっ!まだまだ行けるぜっ!!軟弱なそいつらと一緒にしないでもらいたいね!」と答え、日向さんはそのマキシマム君に異論をあげることができず、ツインちゃんは「大丈夫。」と息を整えつつ一言だけ。


もうほんと嫌なとこの面倒を見ることになってしまった。
空気悪いよ、このパーティ。でも仕事を途中で放り投げることなんてできるはずがない。
報酬がもらえないだけならまだしも、信用を失うと仕事を受けづらくなる。


とりあえず、オラオラッ!と叫びながら特攻するマキシマムを触腕、ではなく尻尾で絡め取り、地面に叩きつけて強制的に休ませる。


「おごほっ!?」


体力面はともかく、一番戦いなれているツインちゃんが疲労困憊なのだ。
そんなキーパーソンが不調のまま、この先に進むなんてことすればいずれなにかやらかす。
そんなこと見過ごせるわけもなく、きっちりツインちゃんの体力が回復するまで待ってもらうことにする。


「っテメェっ!
さっきから俺の邪魔ばかりしやがって・・・なめてんのかコラァッ!?」
「・・・?」


僕の触腕から這い出てきたマキシマム君がこちらを見て一言。
彼の視線の先を探るように僕は自分の背後を見るが誰もいない。


「お前だよお前っ!!
そこの女だか男か分からんテメェだよっ!!」
「ほう・・・僕だったか。その発想はなかった。」
「その発想しかないだろっ!?なんでそこでほかの人間の選択肢が出てくんだっ!?」


いや、だって、ねぇ?
これは君たちのことを思ってやってることなのに邪魔しているとは心外にも程がある。


「そもそもお前の仕事はサポートだろっ!?
あくまでも俺たちの手に負えない場面になった時の助っ人なんだよっ!!
どう考えても、でしゃばりすぎだろうがっ!!コラッ!!」


手に負えなさそうなという時は大抵、命が脅かされている時であり、自然界じゃ致命的な考え方だ。
命が危険にさらされないように行動する。さらさられてからの行動を考えるのはたしかに必要だが、それは二の次でしかない。一番重要なことではないのだ。
それを僕は身にしみて、というか実際に森で過ごして学んだのだから間違いない。
晒されたとき、それ既に詰みチェックメイトである。と言いつつもなんとか生きてこれてたわけだけども。


僕たちが確実に助けられるとも限らないのにもかかわらず、どうも目の前の少年にはそれがわからないらしい。
僕はたしかに強いだろう。でも、漫画やアニメみたいに僕は音よりも早く動けるわけではないし、怪我を治す技も無い。できることの限界はあるのだ。
なんだかんだで彼らが今ピンチになっていないのもある程度強い動物たちは僕が気配探査である程度の強さや位置を把握できるように、彼ら動物たちも僕の強さと位置が分かるために近づかないのである。
そら小さな魚の中に大きな魚がいたら、まず大きな魚に目が行くだろう。
この世界には、ファンタジーにありがちな『意味もなく人間だけを襲う動物』なんてのはほぼ存在せず、それぞれの動物は日々の糧であるご飯を手に入れるため、縄張りを守るためなどという明確な目的があって人間を襲うのだ。
それらはすべて生存するうえで必要なことだからしている。
ゆえに、わざわざ自分が死ぬかもしれない格上の僕を相手取ろうなどいうのは力量が測れなかったり、動きが遅く避けることができない動物のみ。
そうした相手しか出くわしてない彼が、調子づくのも仕方ないのかもしれない。
当然僕のようなタコという生物はほかの物体や生物に化けて忍び寄る狩りを本職とする。
気配を消す、というよりは拡散してわかりにくくするという方が正しい言い方なのだが、とにかく気配を消して実際に経験させるのも・・・どうかと思うなぁ。
すでに岩窟ガエルの持つカエルビーは手に入れてるものの、ユグドラシルは冒険者組合で言うところの中級以上の動物。僕の気配を感じ取ることができるはず。
ただでさえ戦い続けるのは難しいのだから下手に戦わせて体力を消耗させることもない。ユグドラシルを狩る時だけ気配を抑えるとしよう。


とりあえず普通に説得。


「ああ・・・ええと、周り見てごらん?」
「ああん?」


マキシマム君は僕の言葉で、周りを見渡す。


「何もねぇだろうがよぅ。」
「・・・ごめん、回りくどかった。
仲間を見てごらん。」


無表情な中にも多少の疲れが見えるツインちゃん。精神的に多大なストレスがかかっているであろう日向さん。
どちらも元気いっぱいとは言い難い。


「で?」
「で、じゃない。君たちは仲間だろう?
協力して進むのが当然だ。」
「はっ!どうして俺がこいつらのペースに合わせなくちゃいけないんだよ!
まだそこの弱虫魔法士のカエルビーしか手に入れてねぇんだぞ!!」
「まだ時間はたくさんある。焦る必要はない。」
「片方は貧弱。片方はろくに攻撃もできやしねぇ。そんなのが仲間なわけねぇだろっ!!」
「だったら君はここを一人で行けばいい。」
「・・・っ。」
「協力するのが当然だ、と言ったけれど、正確に、はっきり言うなら君一人じゃここを歩くのには荷が勝ちすぎる。協力するしないの選択ができるほど君は強くない。選択しようがないんだよ。・・・それは、誰よりも君がわかってるだろう?」
「だ、だったらテメェがついてこいよっ!!それが仕事だろっ!!」
「違うな。僕の仕事は君たち全員のサポートだ。マキシマム君のサポートじゃない。」
「っ・・・!!」


反発心があるようだが、日本の子供と違って死が身近なこの世界。
いくら子供らしい反発心を起こしても、さすがに一人で特攻するとは言い出すまいと思ったが・・・良かった、ほんとに特攻し出さなくて。
内心ドキドキだった。
マキシマム君はティキの方を睨むが、ティキも同じだ。


「私も同意見だよ。もう一度言うけど時間はある。焦る必要はないんだよ、マキシマム君。」
「うるせぇ、ガキ扱いするな。」


戦闘能力抜群でも体力不足で持久力に劣るツインちゃん。
高火力だが動けなく、攻撃頻度も少ない日向さん。
高機動で持久力もあるが、決定力にかけるマキシマム君。
彼ら三人が一人でも欠ければ、かなりきつい戦いになるのは間違いない。
逆に上手くマッチした際の力は凄いものとなる。
十分すぎるほどに。


教師は狙ってこのパーティを組ませたのかもしれない。
ただ、性格部分での折込具合が若干物足りないというか、甘かったと思うが。


命懸けだったり、試験だったら協力できると見積もったのかもね。本当、甘かったと思うが。


で、そのまま歩きに歩き、いよいよサラマンダーの血を手に入れたところで、マキシマム君が言い出した。
ちなみにみんなの目を盗んで食べたサラマンダーの肉はトロトロの肉解け具合が実に美味なトカゲだった。
肝がただ苦くて不協和音を奏でていたのがちょっと残念。内蔵は食用に向かないのかもしれない。


「うしっ!帰ろうぜ!!」
「一人忘れてるでしょ。」


ティキが言う。


「あ、何か忘れてたか?」
「ユグドラシルの爪よ。」
「おっと、素で忘れてたぜ。影が薄いからな!」


嫌味臭いけど彼の場合本気で忘れてたのでは?という思いがちょっとあったりする。


「そうか。」
「な、なんだよ!無表情男女!!
その生温かい目はよっ!!」


記憶力の乏しいおバカさんに向ける目。である。
無表情なのは仕方ない。感情と連動するような表情筋があるわけではないのだ。
一応意識してるんだけどね。


「ていうか名前で呼べい。無礼千万だぞ。」
「き、聞いてねぇし!!」


聞いてない?
ああ、そういえば彼らの名前だけ聞いて、名乗ってなかったきがする。
ツインちゃんがユグドラシルの爪が必要と言ったところで話が切れてしまったから。
そのあとで僕たちの自己紹介をするつもりだったのだ。


「私はティキ。ティキ・ユウクリ。」
「はっ、で、あんたは?」
「人に名前を聞くときは自分からという言葉を知らんの?」
「知ってるだろっ!?ていうか今朝のお前に言ってやりたいよ!?」
「え?」
「なんで、そこまで素知らぬ顔ができるんだっ!!」


そら作り物の顔だからね。


「僕の名前は・・・ユグドラシル。」
「それ、これから探す魔獣の名前だろっ!?」
「僕の名前はユグドラシルじゃないぞ?」
「わかってるよ!?」
「今のはユグドラシルらしき生物を見つけたって話だ。」


自分の名前を名乗ろうという時になってユグドラシルらしき生物が見つかったので、ついつぶやいたのだ。
今日一日、探査範囲タコレーダーに引っかかった中で一番それっぽい大きさだ。


が、気になる部分がある。


なんで今更、引っかかったのだろう?
単純に個体数が少ないとは聞いていたので、それだけだろうとは思うものの、若干感じる気配が慌ただしい、というか荒れている。
何よりも向こうからこちらに近づいている。
そのまま動かなかったり、逃げるならともかく、向こうからわざわざ向かってくるというのはいささか不自然だ。
・・・自然な理由が思いつかない。
となれば不自然な理由。
人間という生物が入ってきたことで本来なら起こらない不自然な行動が起こったと見るべき。


「あ?どうしてお前にそれがわかるんだよ?
どこにもいねぇぞ。」
「すぐに視界内に入るさ。わかってるとは思うけど、ほら。ポジション取れば。
はなから助けてあげるほど僕は面倒見がよくない。」
「わかってるよっ!
おら、動け!!弱虫魔法士に、軟弱盾!!」


偉そうに言うマキシマム君。
でも、彼以外にリーダーっぽい人がいないのも事実。
リーダーの素質があるわけではないものの、他二人があれでは消去法で彼しかいない。
仮にユグドラシルじゃないとしても、十分対処できるだろう。今日初めての中級だが、やることは変わらないのだ。


そしてやってきたのは背の木が途中でへし折れて、爆走する暗い色の緑の亀だった。


どっからどう見ても温厚には見えないな。
そんなことをぼんやり思った僕である。

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