タコのグルメ日記

百合姫

生徒護衛依頼

あれからしばらく。
あいも変わらず、人助けをしたいしたいと言うティキ少女であるが、前回の意味ないよ発言の一件が響いているのか、今までよりかは多少自重しているようである。
いや、今までよりもちゃんと助けるためにはどうしたらいいのか?
それをよく考えて行動しているようで、成長した・・・のかな。
手に負えないレベルの人助けはしなくなった、もとい苦渋ながら割り切る選択をするようになったようだ。
前よりかは良くなったということで、とりあえず置いておくとしよう。もちろん勝手にお金を使わないようにと言い含めるのも忘れない。
使いたかったら自分の生活費のみをつぎ込んでほしい。


とまぁ、それはさておき。
そんなに人助けしたいなら冒険者組合で困った人たちの依頼受けてこいよ!
旅費も稼げるし!!
というわけで、僕たちはここ、学園都市アルタイルの冒険者組合で金稼ぎをしていた。


当初の予定では街と街を結ぶ定期馬車に乗って、すでにここを発っていたはずなんですがね。


「生徒の護衛依頼・・・ですか?」
「はい。」


いろいろと依頼の良し悪しを選ばずにできそうなのを片っ端からやっていたため、短い期間ながらもちょっと有名になった僕たち。
その僕たちの腕を見込んで、とある依頼が舞い込んできた。


「学園都市アルタイルの一番の特色とも言える、プリンセス学園とプリンス学園はご存知でしょうか?」
「名前くらいなら。」


あとから聞いた話であるが、プリンセスだからといって女子高であるとか、プリンスだから男子校であるとかそういうことではないらしく、ここ学園都市で一番有名な二つの学校の名前であり、名前の由来は単に王族が出資したからとかなんとか。
ただ、プリンスは文官や肉弾戦闘関連重視、プリンセスは商人や魔法戦闘関連を重視しているらしい。


「そうですか・・・ではこの時期に生徒の実地演習が行われるのはご存知ないのですね。」
「え、えと・・・はい。」


僕の顔をちらちら見ながら答えるティキ。
何をそんなに落ち着かないのか?


「では、この依頼のご説明を―」


という職員さんの話をまとめると。
学園都市にある学園の目的は優れた兵士や文官、商人、外交官、軍師などなど多岐に渡った人材を育成することが目的であり、この時期は近くの迷宮ダンジョンを使った戦闘関連の職業に就こうとする実地訓練がある。
日本で言うところの修学旅行のようなもので、現場監督する先生の他に、冒険者組合に所属する人を雇う必要があるのだ。


一言で言ってしまえば子守イベントである。


「どうですか?」
「で、できるのかな?」
「おや?
これも立派な人助けだよ。しないの?ねぇ、ねぇ、しないの?怖気づいたの?」


と言いつつも、自分にできるかどうかを考えてくれるのはありがたい。
前までならとりあえず顔を突っ込んでいただろうから。


「う、うるさいなっ!
変な言い方・・・むむぅっ!」
「昨日からだけど、ほんとにどうしたの?」
「べ別になんでもないし。ただ、ちょっとタコには似合わないよっ!そうだよっ!!」


何を言ってるのか意味不明なティキだった。


「服のこと?
そんなこと言われても全部ティキ少女のせいだからね。僕はまだまだタコのままでいたかったというのに。サイズの合う服なんてまだ用意できないって。ただでさえこの世界じゃ服は高いのに。」


もとい働きたくないでござる。
本来なら使った分をしっかり責任もって稼いでもらうのだが、それをティキだけにまかしておくわけにはいかない。
ちゃんと怒ったし、念を押したし、ないとは思うもののまたもやお金を人助けに!みたいなことになりかねない。
口ではちゃんと渋々ながらも了承をもらったものの、実際に困った人に出会った時が不安である。
僕も一緒についていったほうが安心だ。




「タコのままって・・・?よ、よくわかんないけど、いつもの姿の方が絶対いいよ!
その顔ダメだよっ!!とにかくだめだよぅ!!」
「・・・は、はぁ。」


要領を得ない言葉になんか変な返事をしつつ。


とりあえず生徒護衛、というよりはいざという時の助っ人としての同行依頼が始まったのである。


☆ ☆ ☆


「よ、よよよよ、よろしくお願いします、る!」
「え、あ、はい、よろしくお願いします。」
「よろしく~。」


そして一週間後。
ちょくちょく仕事をしつつも冒険者組合に言われた準備を万全にして生徒護衛の仕事が始まった。
それぞれの冒険者のパーティなり個人が5、6人に分けたグループ一つを見守り、要所要所で手助けするという形で進行するようである。


僕たちが受け持った班はなぜか3人。
ほかよりも少なかったものの、まぁ人数的に、もしくは性格的にあぶれる人の一人や二人もいるだろうということで気にせずに挨拶をすることにする。
班のリーダーらしき子であるオドオドとした鬼人の子供である日向ひゅうが 結芽ゆいめは、しなやかな長髪を、無造作に、しかし美しく腰くらいまでに伸ばしているのと大きなタレ目気味の優しそうで、悪く言えば気の弱そうな目が特徴的であった。
当然美少女であり、体型はなかなかなもの。
しかし、対人コミュニケーションは少々苦手のようである。
『お願いします』が『お願いしまする』に聞こえるくらいには動揺していた。


そのままちょこちょこ話してもそんな特徴的な語尾は出なかったので、ただ噛んだのだろう。
そしてもうひとりがこれまた漫画でしかお目にかかれないような、もうこいつキャラ作ってんじゃね?と思わせるほどにあざといツインテール無口っ子である。
軽装の聖騎士?と思わせるようなデザインの服装で、なおかつ武器が・・・これまた良く分からんのだが何故か盾を二枚、背負っている。
・・・わけがわからないよ。
盾二つで防御力二倍なんだからねっ!ぷんぷんっ!!
とでも言いたげな目をしているわけではない。
ただ、この子どっかで見たことあるような・・・前世のどっかのアニメで・・・と思ったけど、別にそんなことはなかった。
盾二枚もって暴れる少女なんて一発ネタにも程があるがな。


「・・・よろしくお願いします。」
「よろしくーあっ。」


こちらの挨拶の返しも待たずにぷいっとそっぽを向いてしまった。
キャラ作りに夢中で無礼千万になっていることに気づいてないようだ。
親の顔を見たいものである。
てか名前くらい言いなさいよ!


そして最後の一人。マキシマムと名乗った男。
こいつがまぁひどい。
名前自体がすでにひどいが、それは文化によるところもあるしひどくないことにしておく。が、それを差し引いてもひどい。何がひどいっておまっ。


「ああんっ!?
何見てんだコラァっ!!」
「ご、ごめんなさいっ!
ごめんなさいぃっ!」
「オメエに言ってねぇんだオイコラァ!!」
「ごめんなさいっ!勘違いしてごめんなさいっ!だから打たないでっ・・・」
「いつ俺がオメェをドツイたんだゴラァッ!!」
「ごめんなさいごめんなさい、私が全部悪いから許してください!!」
「だからオメエごときをなんで俺が相手せなならんのだコゥラっ!!」


おいそこ、無限ループやめろ。
つかこれまたあざとすぎて、むしろ微笑ましさすら感じるわっ!!
こいつもキャラ作ってないか?
僕は今、猛烈にその疑いが膨れ上がっていた。
余談であるが彼の最後のコゥラがコアラに聞こえた。
・・・うん、超絶どうでもいいね。
それも含めて、ここは水洗トイレの大で流す勢いでもって、突っ込まずに流してスルーやろう。
縮こまってごめんなさいごめんなさいと続ける日向さんとマキシマムのあいだに入って争いを止める。
ていうかこういう時こそティキの出番でしょっ!
何してんのっ!と思ったら、無視してるツインテール・・・では長いのでツインちゃんにしつこく攻め寄っていた。
無視するにゃーと叫んでいる。
無視されるのが嫌いなのかもしれないなとか思いながら、とりあえずこちらの二人をなだめなくてはならない。


「ええと、とりあえず落ち着いてね。」
「あ、はい・・・ご、ごめんなさい。」


とりあえず彼女の手をとって、落ち着ける。
人肌に触れることで落ち着くという話を聞いたことがあるようなないような。
念のため言っておくけれど美少女の手を握りたかったわけではない。
本当である。


「謝らなくてもいいから。とりあえずこれからやるこ―」
「てめぇ何俺を無視してくれてんだっ!?
舐めプは許せねぇぞっ!!」
「ひぃっ!?
ご、ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!!」
「だからテメェじゃねぇぞゴララァッ!!」


無視じゃなくて順繰りに話をしようとしていたんだが、それがわからなかったらしい。
またもやマキシマムが騒ぎ立て、そこに日向さんが反応する。


・・・わざとか?
これ、この二人ともグルでコントやってんのか?と思うほどにある意味、息がぴったりである。
それ以後もだったらこんどはマキシマムから落ち着けようとするも、こいつはとかく話を聞かない。そして彼からすれば普通の声くらいだが、大きすぎる声でまた日向さんが過剰反応する。
ティキはツインちゃんに絡む。
ツインちゃんはガン無視。こっちのことにも当然興味なさそうである。


カオスすぎた。
というかイライラしてきた。
キリがない。グダグダである。やかましい。とにかくやかましい。お前ら子供か。いや、子供だった。
とりあえず。マキシマムを蹴っ飛ばす。


「うるさい。」
「ごはぁっ!?」


集まっていた場所は宿から離れたちょっとした公園。
ゆえにその公園の遊具、ジャングルジム的なものに弾丸のような速度でぶつかり、ちょうどよくハマってぴくぴく痙攣するマキシマム。
お前の犠牲は無駄にはしないぞ、マキシマム。
・・・ちょっとひどい気もしたがこっちが声を張り上げてもよりヒートアップするだけだろうから割と正しい判断だったと思う。


こいつらを一緒にしたら化学反応的に急激にやかましくなる。
各個撃破が一番だ。当然、ティキも触腕で縛り上げた。
あんたもちょっとは落ち着け。なんで一緒になって騒ぐし。


日向さんを見ると目をこれでもかと開けてびっくりしてる。
僕が振り向いたことでビクッとするが、また手をとってゆっくりと優しく言葉を発する。


「日向さんは何も悪くないから。
とりあえず、お茶にしましょうか?」
「え、あ、は、はぁ。」


少しそわそわしながらも日向さんは頷いたのだった。


あ、驚いたのは触腕にって?
・・・尻尾が生えてる亜人ということにした。













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