タコのグルメ日記

百合姫

びしょうねん(笑)

ポリプス騎士街を出て3週間が経ち。
現在は学園都市と呼ばれる中立地域に来ていた。
そして僕はまぁうんざりしていた。
何がうんざりかというと・・・


「大丈夫っ!私に任せてっ!」
「あ、ありがとうございます。」


人助けがうんざりだった。


☆ ☆ ☆


事の起こりは別に今、始まったことではない。
彼女、ティキ少女はよく言えばお人好し。
悪く言えばおせっかいだった。
もとい、困った人がいたら助けずにはいられない、少年漫画に出てくる主人公のような正義感を持っていたのである。
スラム街を助けようとか言い出すことから、正義感の強さは概ね予想してはいたのだが、予想以上というのが僕の今の思いである。




いや、別に人助けが悪いわけではない。
目の前で見かねるほどに困っていた人がいたら助けるという選択肢もありだろう。その程度なら僕だって別に気にしない。
仮にも日本人なのである。
面倒だと思うものの、別に嫌な気分になるわけではないし。
が、何事も程度があると思うのだ。


助けてと叫んで困ってる人を見かけて助けるのはやりすぎか?
いや、それくらいならいい。たまたま見かけて、なおかつ助けることができるのなら別に助けておいても構わないだろう。


目の前で動物に襲われて悲鳴をあげてる人を助けるのはやりすぎか?
これもいいだろう。困ったときはお互い様という言葉とてある。
助ける縁があるなら助けておいてもいいはずだ。当然自分も食べられるほどの相手であるなら助けるのが正しいとは一概には言えないし、そもそも自分から動物たちの縄張りに入っておいて手に負えなくなったからと言ってほかの人間に助けをこい、それを助けるのはどうなのだろうという気持ちもある。が、とりあえず置いておく。


わざわざ困ってる人を探して助けるのはやりすぎか?
やりすぎです。


「巻き込まれ型主人公という言葉があるけれど・・・自分から巻き込まれるのもどんなもんかね。まったく。」


ちょっとでも困った風の人を見ると意気揚々と助けに行くのはどうかと思うのですよ。僕は。
お金を丸々あげるってどういうことなの?
ん?


というわけで触腕で縛り上げて、お仕置き中です。




「ねぇ、どういうことなの?」
「いだだだだだっ!?
ちょ、ちょっと、本気で痛いっ!?痛いよっ!?」


当然僕は大人だ。
多少の子供のわがままくらい聞いてあげないこともない。
付き合わされることにうんざりしつつもまぁ、許せる。
それもまた人生であり、経験だ。
ぐちぐち言わずに付き合ってやろうではないか。
いや、ぶっちゃけ助けずにすぐに目的地に行きたいとは思うんですけどね。
外道と呼ぶならば呼べ。豊穣の森において弱肉強食に身をおいていた僕にとっては実際、めんどうだと感じているのだから仕方ない。




が、持ち金・・・もとい旅の資金までやるのはどういうことだろうか?
どう考えてもやりすぎである。
彼女が稼いできた金ならばともかく、旅の資金は彼女を同伴させる報酬として、スバルさんから受けたサポートの一つであり、いわば僕のものだ。
当然彼女の食費や消耗品にかけるお金なども含まれているが、その分だけを使うならばのちのち彼女が後悔するだけで済んだだろう。
約100万ルピー。
そう100万ルピーをこいつはすべて使い切りやがったのである。


15前後の子供にムキになるのは大人としてどうかなと思うものの、これはさすがに見過ごせないだろう。


きっちり理解させておく必要がある。
とりあえず触腕を離し、どれだけ馬鹿なことをしたのかを話してやるとしよう。


「まずは理由を聞こうか?」
「・・・私悪いことしてない。
日々の食べ物に困る人にご飯をあげて何が悪いのっ!?」
「悪い悪くないはこの際おいておく。
とりあえず、それには意味がないと言いたい。ゆえにもう無駄にお金をばらまくのは止めて。」
「・・・意味がないってどういうこと?」


僕の言葉に何らかの琴線が触れたのか、声に怒りがまじる。


「食べ物を与えて、それでこれからどうなるの?」
「・・・お腹いっぱいになって幸せになる。」
「その先だよ。」


この世界、村によって餓えていたりするのは珍しくない。
現代のように災害や虫に強い品種改良が進められているわけでもなければ、ビニールハウスが存在して多少寒くても大丈夫なんてこともない。
ゆえにちょいちょい凶作の年があり、運悪くそれが続いた小さな村なんかは即お陀仏である。
そういうところに立ち寄っては恵んで、立ち寄っては恵んでを続けた結果、僕が気づいたときには100万ルピーが財布から消えていた。
財布というかスティックさんとアイスさんに別れ際もらったリュックサックにお金の収納スペースがあったのだが、そこをある日ふと見たら空っぽだったのである。
一緒にいながらも気付けなかったのは一生の不覚。
そもお金に対する執着が今世ではあまりないのだからしょうがないとも言える。
人助けだって別に一から見ていたわけじゃないし、僕は基本的にタコの姿、もとい魔獣とされる存在なので基本、村の中で買い物ができるはずもない。
それで事足りたというのもあった。
一応、お金が入用になったときのために僕はそのへんで狩ったものを丸ごと食べるという手間だってかけていたのになんの意味もなかった。


「たしかに食べ物を与えて一時的に助けることができたとしよう。
でも根本が解決したわけじゃない。その先はどうするの?
またすぐ飢えることになる。」
「また、お金を・・・」
「だからそのお金をどっから持ってくるのさ。
一人の人間が稼げる分なんてたかが知れてる。
それこそ農業改築とかでもしない限り、本当の意味では救われたなんて言えない。
むしろ苦しみを長続きさせたというだけの結果に終わる。
とっとと死んだほうが苦しまない・・・という考え方もできるね。」
「そ、そんな言い方ないでしょっ!
それに・・・それでも・・・それでもほうっておけるわけがないっ!!」


でた。
少年漫画におけるトップ3とも言える頻度で出てくるセリフ。
『それでもっ!』だ。
多少の矛盾や、困難があっても『それでも』で済ませてしまう。
いや、たしかにそういう気持ちはわからないでもないさ。
実際にお金があれば助かるけれど、でもお金がないからもろもろで死にそうです!みたいな人たちを生で目にしたら、どんな冷たい人間でも多少は心が揺れ動くだろう。
フィクションや、映像越しでは絶対に伝わらない生々しさというのはたしかに助けたくなる気持ちを揺り起こす。
群れる動物である人間の本能かもしれない。
お金を恵んでやろうとはちょっとくらい思う。
けど世の中、単純なことは数あれど、単純でないこともそれと同じくらいかそれ以上には数あるのだ。
その場しのぎにお金を使ったところで焼け石に水。




そしてそういう現状に出くわした際に大人がやることは割り切ることである。




「納得できないかもしれない。でも、あえて言おう。
割り切れ。いちいち感情移入してたらキリがないし、意味もない。」
「・・・だからそんなこと、」
「あるよ。でなければここでお別れだ。
だだをこねる子供に付き合ってられない。」


契約違反だが、しょうがない。
人助けと称して害する存在を抱き込めるほど僕は物好きじゃない。


「・・・う、うるさいっ!
うるさいっ!うるさいうるさいっ!!
私は悪いことしてないっ!!
なのにどうしてそんなこと言われなくちゃいけないのっ!!
私は悪くないっ!!
悪いのはタコのほうだもんっ!
別れたければ勝手にすればいいでしょっ!!
・・・人助けは・・・私が・・・私だからこそ人助けをするのっ!!
そうやって割り切る人がいるから・・・そんな人しかいなかったら私は割り切らないことにしたんだからっ!!」


そのまま泣きながら走り去っていくティキ少女だった。


「・・・まったく。」


ため息しか出ないぜこんちきしょう。




☆ ☆ ☆


どうしてわからないのか?
たしかに意味が、効果が薄いということはわかっている。
文武両道にユーマに叩き込まれた知識から鑑みれば、タコに言われるまでもなく見捨てるべきだというのはティキにはわかっていた。
べき、というよりはそれしかないのである。
それはわかっている。
わかっていて、しかし放っておけるはずもない。
飢え苦しむ人々をどうしてほうって置けるのか?
魔獣に襲われる人を助けるのにどうして理由が必要なのか?
困っている人がいるならば助けて当然なのではないか?
キリがないのはわかっている。
根本的解決にならないのもわかっている。
それでも・・・それでも、それが助けない理由・・・・・・にはなりえない。


「た、助けてくれぇっ!」
「っ!?」


ティキが泣きながら走っていると、いつの間にか路地裏に来ていて、そこには一人のローブを着た少年が柄の悪い男に絡まれていた。
どうも金品の略奪が目的のようである。


「あ、あなたたちやめなさいっ!!」
「あんっ?
んだぁ?
女、なんぞ文句でもあんのか?」


頭の悪そうな返答をよこす男A。
というよりも事実、頭が悪いようである。文句がなければわざわざ声をかけることはないだろう。


「人からお金をとってはいけないと習わなかったのかしら?」
「はっ!
目を赤く晴らしながらとはなかなか気丈なお嬢ちゃんだこと。」


そう言って笑う男たち。


「こ、これは別に怖がってるわけじゃないわよっ!!
失礼なっ!!」
「ぐははははっ!」
「笑うのをやめなさいっ!!」
「げえはははははっ!!」
「だから笑うなとっ!!」
「ぐはははははっ!!」
「もういいっ!!
切り捨ててやるんだからっ!!
・・・って、あれ?
あれ?
・・・えと・・・剣・・・おいてきちゃった。」
「お前さん馬鹿だろ?
ま、準備はしてたが、それが無駄になって喜ばしいやら、残念やら。
おら、やっちまえ。」
「ウスッ!」
「な、舐めるんじゃないわっ!
剣なんてなくてもあんたらくらいながっ!?」


ティキ少女がかばうようにしていた少年がニヤリとしながらティキ少女を殴りつけた。


「ど、どうして・・・?」
「鈍い嬢ちゃんだな。
ハナからグルだったんだよバーカ。最近、人助けにせいを出す美少女がいるってことでな。ちと策を張ってみた。ここまで簡単にいくとは、まったく笑いしか出ねぇよ。」
「さすが、ボスっ!!あったまいいっ!!」
「そ、そんな・・・」


結果的に出来上がったのは弱った美少女に群がる柄の悪い男たちという図。
ともすればファンタジー的にやることは決まっている。


「おめぇら。
今回はなかなかの上玉だ。
壊れない程度に遊べよ。」
「おっすっ!!」
「い、いやっ!
やめてっ!!」


嬉しそうに返事をした男たち。
その中でも幹部的な立ち位置にある男がティキの服に手をかけて、服を脱がそうとしたところで、男の体が突如跳ね上がった。


「はっ?」


素っ頓狂な声をあげる男A。


周りの男たちも何事かと空を見るとそこには不気味な黒い骨格が浮いていた。


「ひぃぃぃいいっ!?
な、なんだこいつはっ!?」


その不気味な黒い骨格の周りに浮いていた青く輝く球体が剣の形を型どり、それが男を串刺しにしていた。
高熱を発してるらしく肉の焼ける良い香りがあたりに充満するが、焼けているのは人の肉である。
周りの人間、誰もが恐怖に顔を引きつらせる。
ティキもあっけにとられていた。




「もちっと考えて行動して欲しいよね、ほんと。
ていうか何度も言うけど僕は不用意に宿屋から出られないんだ。
漆黒・・・ではなく、最近は青々と輝いて、漆黒と呼ぶべきか迷って・・・まぁそこはいいや。とにかく、漆黒に感謝しなよ。
服だって着なくちゃいけないんだから、普通にわかんなかったからね。」


そう言って姿を表したのは一人の美少年だった。
美少女とも美少年とも言える中性的な容姿でありながら、男と判断したのはその目つきに宿る意思の強さと言葉遣い。服装はまるでそのへんの窓にかかってるカーテンを破って、それを適当にくるんだようなもの。
いや、事実そうなのだが、それであってもどこか気品さを感じさせるほどに綺麗な顔立ちである。


「久々の擬態だから上手く出来てるか不安だが・・・まぁ大丈夫でしょ。
ていうか・・・普通に変形できるんだね、漆黒さん。というか今更だけどほんとこれなんなの?今は置いておくけどさ。」
「な、なんだ・・・おまえ?」
「その子の保護者ってところが・・・妥当だと思う。もうこれで懲りたでしょ?
人助けをしたいっていう人間の心情すら食物にする人間だっているんだ。
悪い悪くないとかそんな問題じゃない。
そんな生き方。
いずれ辛くなるよ。」
「・・・うるさい。私はこうして生きていくって決めてるの!
ユーマ父さんみたいに・・・誰からも感謝されるような人にっ!!」
「・・・そうかい。そこまで言うならもう何も言うまい。
ただお金を使い切るのだけはやめい。」
「・・・ていうかあなただれ?」
「おいおい、大した保護者様もいたもんだなっ!
子供から覚えられてないってことは・・・なんだ、てめぇもこのバカの仲間か?
助けに入ったってところだろうが、残念だったな!!
その得体のしれない生き物ごと吹き飛べやっ!!」


不気味な漆黒の姿にビビっていたのも束の間。
男はよほどの自信があるのか、何やら道具を取り出した。


「とある国による秘密兵器が横流しされたものをたまたま手に入れたこれなら、その得体のしれない化けもんだってぶち殺せるぜっ!!
そんでもってお前の体も頂いてやるよっ!!」


といって取り出したのはマスケット銃のようなものである。


「おらっ!
死ねっ!!」


と言って打ち出された弾丸は、普通に漆黒にはじかれた。


「なっ!?」
「いや、どう考えてもそんな豆鉄砲で漆黒みたいな不思議生物は殺せないでしょ?」


持ち主(?)である僕ですらイマイチよくわかっていない代物であるが、一応剣なのだ。
彼の持つ銃が通用したとしても、点の一撃で倒せたかはわからない。


そのあとは漆黒によるブレイドダンスで、切り刻まれた男たちである。




「・・・あの・・・ありがとうございます。
このご恩は一生忘れません。」


少し頬を赤らめながらもそう言うティキ少女。
あれ、わかってないのか?


「いや、何をかしこまってるの。
旅仲間でしょ。
・・・それよりもさっきのことで・・・」
「ああ、そうですよね。結局誰も困ってなかったってことで、良かったです。」
「・・・いや、そうじゃなくて・・・なんでそんなこと言えるかな?」
「別に襲われたことはたしかに酷いと思いますけど、あくまでもたまたまそういう人がいただけ。それが人助けをやめる理由にはならないです。
誰かはわかりませんが、忠告は受け取って、それでもなお、私は人助けをやめることはしません。」
「・・・はぁ・・・こりゃ筋金入りか。
もういいさ。付き合うよ。とことん付き合わせてもらいます。
どうせ森につくまでだしね・・・うん。」
「あの・・・さっきから何を・・・」
「つかそろそろ気づけよ。
僕はタコだよ、タコ。」
「・・・たこ?」
「そう、タコ。
ほれ、この触腕に見覚えはないか?」


破り取ったカーテンの中から触腕をにょろっと出す。


「え・・・えっと・・・え、え?
ええええええええええええええええええええええええっ!?」




そんなに驚くことかな?

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