タコのグルメ日記

百合姫

トンボに乗って!

2週間ほどかけて、ミドガルズの街にやってきた僕達。
時間がかかったのはリタ達の足手まといっぷりと、やまいのぼっち能力によって嫌悪感のままに気性の荒い動物達が襲い掛かってきたからである。


「ミドガルズで補給?」
「いえ、その必要はありませんよ。ちょうどこの付近を歩いてますので。」
「は?」


というリタは迷い無くミドガルズ街中を歩いていく。
今更コメントするのもどうかと思うが、この街結構大規模で、近くにダンジョン、もとい金のなる木、すなわち豊饒の森があるために他の街よりもはるかに発展している。僕は北口から冒険者組合の道のりの範囲しか知らないので、こうして彼女達の後についていくと改めて広いことが分かる。
一言で言ってしまえばこの街は金持ちなのだ。
そんな金持ちな街では僕の可憐な見た目と現実的にはありえないほどの露出装備、フードで顔を隠したやまいが視線を集めることに少し気後れした様子を見せながらも彼女は街の南側に来た。


「・・・トンボ?」


大きな庭であろうか?
一見、牧場のような場所に出る。
見渡すと街の南部は殆どが牧場とそれに追随する設備のようで、牧場には大きな小屋が点在しさまざまな動物が居た。
やたらと皮膚が硬質で地球産よりも二倍は大きな牛、ダチョウを赤くしたもの、普通のトカゲを大きくしたものやカブトムシのようなゴツイ生き物もいる。
それぞれ4、5匹くらいの数がいて、小さめな車くらいの大きさの生き物がほとんどである。
点在する小屋のうち、屋上のある小屋の中に入ったリタ。
そこで見たのは大きな大きなトンボだった。
大人が一人二人は乗れそうである。


「はい、トンボです。」


僕のつぶやきに答えたリタ。
確かにトンボである。
強いて言うならシオカラトンボ、良く見かける青いトンボを大きくしたものだ。
そのままシオカラトンボと名づけようじゃないか。


「この子に乗って交易都市に行きます。」
「そんなに遠いの?」
「えっと・・・私が言うのもなんですが、交易都市バルゴってかなり有名なんですけど、もしかして何も知らないのですか?」
「ごめんね、引きこもりで。」
「い、いえ、そんなことはっ!」
「たこっ!こうえきとしはねっ!
動くから普通には入れないんだよっ!!」
「な、なんだって-っ!?」


何も知らない僕に教えてくれたのはやまい。
なるほど。分からん。


「もう少し聞かせて。どうして普通には入れないんだ?」
「動いてるから。」
「いや、だから動いてるとどうして、ていうか街が動くの?」
「だから・・・えっと・・・」


やまいはそのままうつむいてしまった。
母親から聞いただけで、実際に行った事のないやまいにとってはそれしか言えない。
ついやまいに聞いてしまったけど、この辺はリタに聞こう。


「それはですね―」
「あんたには聞いてないぞ。アル坊主。」
「・・・あの、この2週間思ってたんですけど・・・僕の扱いが結構ひどくないですか?」
「たとえばの話をしようか。」
「は、はぁ。」
「たとえば僕達のいるこの世界が小説の世界だとする。」
「えと・・・なんでですか?」
「たとえばの話だよ。そういう細かいことを気にするから君はアルなんだ。」
「え?あ、はい。・・・えっと、そうですね?」
「で、小説の世界だとすれば君の口調とリタの口調はかぶることになる。
どっちも似たり寄ったりなら、どっちもに話を振るよりどっちかとのみ話したほうが書く側は楽だろう?」
「・・・えっと・・・そうなんですか?」
「さぁ?」
「え?」
「たとえばの話だと言ったじゃない?実際に書いてるわけじゃないし、この世界が小説なんてことあるわけが無い。つまりそういうこと。」
「えっと・・・?」
「実際の理由は、そう細かいことを気にする性質の人間を僕が嫌いだからということに起因する・・・かもしれない。ゆえに君は悪くない。」
「えええええっ!?」
「君のような人間が嫌いな僕が悪いわけで、君は悪くない。僕が君を嫌いなのが悪いんだ!」
「な、なんでですかーっ!?」
「言ったじゃないか、細かい人間が嫌い、という設定にした。のかもしれない。」
「えっと・・・そのっ!?・・・結局、嫌いなんですかっ!?」
「あの、アルをからかうのはそれくらいにしてもらえませんか?」
「あ、分かる?」
「分かります。・・・その・・・彼は冗談が通じない子なんです。」


リタは苦笑。
僕は内心で満面の笑み。とはいえ表情筋をいちいち動かさないのでずっと無表情。
確かにリタのいう面もあるのだろうが、今回は僕が無表情で言っていたのが冗長さを感じさせなかったのかと思われる。




☆ ☆ ☆


大きなトンボに乗る料金は52000ルピー。街に行くまでの行きだけ料金がこれだ。やたらと高い気がする。
それをぼやいたら、牧場主が言うにはたまに乗り物として貸し出す動物達をろくに世話せずに死なせてしまったり、そのまま盗んだりする人がいるそうでそれの保障料金という意味でも一回の貸し出しがかなり高価らしい。
これだけのお金を出せるならわざわざ犯罪者になってまで盗む人はいないだろうし、ある程度お金に余裕があるということはそれなりに能力を持っている人間であることが分かる。そういう人なら大切な足である動物の世話も面倒くさがることは無いと言う考えもあっての料金設定だ。
手を出せる範囲で、しかし損害を補填するためのバランスを取った値段が52000ルピーである。
ちなみに端数の2000ルピーは借り出す期間中の餌や世話するための道具、手数料などのお金だ。


「うわぁ・・・」


乗るときこそかなりの緊張を見せていたやまいがその目を輝かせる。
確かにこの景色は圧巻だ。
どこまでも広がる空、それなりの高度であるにも関わらず眼前に広がる豊饒の森は地平線の果てまで続いている。


たずなを握っても居ないのに、僕とやまいが乗るトンボは迷わず飛んでいく。


「そろそろ見えると思います。」
「豊饒の森はまだ続いてるけど・・・は?」


ちょっとまて。まって。
遠くに見えていた山があったんだ。
いっこだけなんかぼっちで、つったってる山があるなぁと思っていた。
遠目には黒い突起物にしか見えない山っぽい何かが近づくごとにその全景を露わにする。


「ま、まさか・・・あれ、っていうかコレが・・・?」
「はい、ようこそタコさん。
交易都市バルゴへ。」


目の前に広がるのは巨大な山と見紛うほどの歩く・・街だった。


「・・・すっご。」
「すごーいっ!」


つい口から漏れる言葉。やまいは大声を上げて驚く。
その山並みの大きさを誇る鈍重な体はぎしぎしと音を発ててゆっくりと前に進んでいる。
中世風の街中があり、そこに点在する歯車が重なり合って動いてる鉄塔。それが街の外側を守るかのように円陣を組んでいた。


山のようにあるその巨躯には大きな大きなクモのような足があり、それが交互に動いてどこかへ行かんばかりに黙々と動き続ける。
その足音はその体の割には静穏で、掃除機程度の騒音でしかなく、厚い壁の家に入れば聞こえない程度だ。


そして山のように連なる家々の中心部にはここから分かるくらいに高い鉄塔が中心にあり、その存在を自己主張している。
あそこから周りを見て、街が行く方角を決めているのだろうか?
トンボは街の根元へと飛んでいくと、街の下にもぐりこむ。
この状態で街がいきなり機能停止したら僕達ぺちゃんこだな、とぞっとしながらも街の下に向かうとこれまた圧巻な光景が繰り広げられていた。
そこかしこに歯車があり、動いているのだ。そしてどこかしらから煙がでてギコギコプシュプシュと機械的な音を発てている。


まさにふぁんたじー。
こんな歯車を組み合わせたような山が動くとは地球では考えられない所業である。


下から潜り込んだトンボが進んだ先は円盤型母艦ユーフォーが小型の戦艦を出すような穴だ。
そこに入っていくとそこは牧場?だった。


「おう、いらっしゃ――って、お前たちはっ!!」
「あ、ゲンさん。」
「このっ!馬鹿やろうどもがぁっ!!」
「あうっ!?」
「いたぁっ!?」


ゲンさんと呼ばれた人はいきなりリタ達の頭にゲンコツを食らわせた。


「バルゴの旦那がどれだけ心配したのか分かって――っと、それどころじゃねぇか。失礼した客人。こいつらと一緒にいるってことは・・・多分こいつらに面倒をかけられた、と思うんだが・・・」
「いいえ、そんなことないですよ。」


謙虚な日本人魂でここは無難に答えておく。いや、けどやまいがそれを見て真似ても―いいか。
程度こそあれどある程度の謙虚さは美徳である。
誰にでも正直にぶつかっていければそれは良いことだが、それだけで世の中回るはずも無い。
そういうことを教えていきたいね、僕は!
いや、まぁ学校なんかがあればそういう場所の集団生活で自然と学べることなんだけどやまいの場合は特殊だし。
いずれ解決できればなんとか通わせたいな。


「そうか。そう言ってくれるとありがたい。すまんがこいつらを借りて良いか?
客人はこの街に来るのは初めてだろう?」
「どうして分かるんです?」
「こんな別嬪さんに出会えば忘れるわけないだろ?」
「それもそうですね。」
「くくく、なかなか言うな!」


ま、容姿は自由自在。
容姿をほめられると自分が作った作品を褒められる感覚なのだ。
別に誇っても問題ない、と思う。主観的には。


「まぁ迷惑かけた謝礼もいずれ話すとして、とりあえず街を見て回った後に旦那の―この街の市長であるバルゴの屋敷に来てくれ。時間は君達の都合で良いし、明日でも構わない。」
「いえ、そう言われても―」
「仕事中とかだと申し訳ないみたいな気遣いか?
くくくく。あいにくと今はいらねぇんだ。なんせ仕事してないからな。」
「は?」
「ま、詳しい話は詫びするときにでも。とりあえずのんびり街を見てくれや。案内をつけるか?」
「ええと・・・大丈夫です。気ままに街を見て回るのも楽しそうなので。」
「そうかい。んじゃ、旦那の屋敷で待ってるぜ。オラッ!こいっ!
馬鹿ガキどもっ!!」
「ちょっ!?げ、ゲンさんっ!?いたっ!?いたいっ!?」
「そうだよね、やっぱり怒られるよね。まったく、だから私は止めたっていうのに・・・タコさん、また屋敷で会いましょう。その時になればちゃんとした御礼も出来ると思います。」




そう言って去る三人を見送るしかなかった僕だった。





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