タコのグルメ日記

百合姫

そろそろ鍛えていこー

森に戻って早速。
第二の獲物狩り作戦を決行する。
横取りは労力に対して得られる成果が高いものの、人間を敵に回してしまうというリスクがある。
この世界では一匹の動物に対して人間がパーティを組んで複数人で倒すというが常套手段であり、僕が相手とてそれは例外ではない。
下手に殺されそうになる前に止めるのが賢い選択というものである。


「・・・ま、予想以上に早かったけれど。」


取り出したのはギザギザとした金属板。
まるでサメの顎のような形状をしていて、他に細かいギミックがついている。
もといトラバサミである。
家からちょっと離れた場所に、僕しか分からない人為的な目印をつけて一晩待つことにする。


横取りできず、かといって正面から戦うのは無理、小さい動物相手では忍び寄るしかないもののそれもやまいがいては無理。となれば罠で獲ってしまえば良い!
なんてすばらしい柔軟性だろうか。
我ながら我が頭脳を褒め称えてやりたいものである。
別に自分で褒め称えたところでむなしいだけ、実際にはしないけれども。


やまいはトラバサミを見たことが無いのか、不思議そうに見ていた。


次の日。


「ふふふ、かかってるかなぁ。久しぶりにトンボウサギあたりでもかかってくれていれば・・・Oh。」


おぅまいがー。
昨日罠を仕掛けていた場所をみるとそこには何も居なかった。
罠が「発動している」のにも関わらずである。
どうして何も居ないのか罠を調べてみると、別に何もいないわけではなかった。
トラバサミにはさまれたのであろう何かの生き物の足が。
毛が生えているところから、何かの獣系だろう。
ウサギっぽく見える。


ウサギの足と思われるものは途中で食いちぎられたようになっており、血がにじんでいた。
小さな昆虫が群がって足を食べている。


こいつはもしかしなくても、ウサギ罠にかかる→つかまったウサギ暴れる→音で他の動物を呼び寄せる→ウサギ動けずにまんまと食べられる。
ということに違いない。
なんて間抜けなこった。
しかも目印にしていたメープルシロップの跡がこれまた小動物に舐め取られたのだろう。
分かりづらくなっていた。次から漆を使ったほうがいいかもしれない。
確か家のどこかに置いていた気がする。
最近使わないのでどこにおいてあったか忘れてしまった。


やまいがまたもや不思議そうに、さも「何がしたかったの?」と言う目で見てくるのでこれこれこういう罠だよ、ということを言うと―


「・・・かわいそうだよ。」
「これも生きるためだか―」


―から、と言おうとして今まで動物を狩っていてもそんなことは言わなかったやまいに疑問を抱く。
この世界は日本と違って日々の狩りはそれなりに経験してる人も多いだろうし、身体能力が高いという亜人ならなおさら狩りで生計を立てているだろう。
子供には台所で動物をさばく部分を見せない、なんてことをする意味もあまり無い。ゆえに今さら何をと思ったのだが―
多分、つかまってすぐに絞めるならともかく、トラバサミにつかまるとずっと体に金属の刃が食い込む状態が続くと言うことに対してかわいそうだと言っているのかもしれない。
当然僕も食べられるそのときまでずっと腕にトラバサミを食い込ませているなんてこと、御免こうむりたいし、そのことについてはかわいそうだと思ったのだが、そういうときに便利な言葉。
弱肉強食ですから、で片付けていた。


子供だからこそそういう部分も気にすることができるってところかな。
何はともあれ、どのみちもう使うことは無い。
食べられちゃうんじゃ、かける意味自体なくなるし。


余談であるが―


「いっだあああああああっ!?」
「たこっ!?」
「と、トラバサミがっ!?
とらばさみがばちんてっ!!
ばっちグザってっ!!超痛いっ!!」


かけていた罠の5つのうち、目印が消えていたのが二つほどあり、その二つとも自分で踏んづけてしまい物凄い痛い思いをした。
大型動物がかかってもいいようにとかなり高級な魔道具としてのトラバサミも買ったのである。
それが二つ。運悪く二つとも僕が踏んづけてしまった。
思いっきりぶっささりました。
さらに激痛によってつい身を思いっきり引いてしまい、余計に食い込む。
こいつはもがけばもがくほど食い込んで痛くなるもんだ。
トラバサミ、舐めていた。


確かにこれをつけて一晩はさぞかし辛いに違いない。
よっぽど狩りが上手く行かない時のみ使うことにしよう。


幸い食われなかった一匹のトンボウサギのみ持ち帰って、ウサギ鍋にした。


それから早いもので1ケ月が経過。
結局狩りはあまり上手くいかず、取れるたんぱく質は魚のみ。
もともと肉食動物である僕の体は野菜や果物を食べ過ぎるとお腹を壊すため、基本的に魚魚魚魚と魚三昧。美味しかろうとさすがに飽きが半端ない。
自分の腕をぶった切って食べようかと考えてしまったほどである。
なかなかに大変な一月であった。


そろそろやまいを鍛え上げようかなということで今日はやまいにお話してもいいだろう。
あれからやまいとはさらに打ち解けれた気がする。


「やまい。強くなりたいとは思わない?
やまいが一人で動物から身を守れるようにね。」


痛いことは子供ならなおさらいやだろうし、十中八九断れるだろうなと思った僕であるが―まぁ断っても強制的にやらせるのだけれど。


「なりたいっ!!」
「お、おう・・・そ、そう?」


だっこしながら聞いてみたところ、すごい勢いでこっちを向いてきたのでついのけぞってしまった。
最近では僕の膝の上がやまいにとってのベストポジションらしい。


「多分、辛いよ?
痛いよ?」
「うん。でも、たこはいっつも私を気にしてるでしょ?」
「ええっと・・・」


こっちの気遣いを分かっていたようで。
子供って時に鋭いことを言うからびっくりするよね。


「それだといつか嫌われるかもしれないもん。」
「嫌わないよ。別にもう少し大きくなってからでもいいし。」


僕は何を言っているのだろうか?
そんなことになればさらに魚生活が続いてしまう。
正直勘弁。
ついノリで言ってしまった。
ただね。
一月もいるとそこそこ情も沸くし、こうして逆に気遣われていたと思うといじらしくて愛いではないか。
もうちょっと我慢しようと思うもの。――1週間くらい。


ていうかこの子がいずれ森を出ると言ったとき、ちゃんとこの子を見送れるだろうか。
泣いちゃうかもしれない。タコなので涙腺無いけど。


「それにね、見て。・・・くろもやさん。」
「おおう・・・」


やまいの手から黒いいつぞやのオーラが出てきた。
それは竜の手をかたどっており、それが目の前においてあったやまいのコップを持ち上げる。


「ちゃんと使える様にがんばった!」
「いつの間に・・・ふふふ、凄いな。」


こちらを褒めて褒めてとばかりに見上げるやまい。
今までやってきたことの成果を見せるために興奮してるのか、緊張してるのか頬が赤くなっている。
詳しい話を聞いたときにはこの力は上手く使えないといっていたのにもかかわらずこの短期間でコントロールするとは凄い―のだろう。
実際はどれだけ難しいのかも良く分からないけど、なんにせよ出来なかったことを出来るようにしているのだ。
少なからずがんばったと言うことになる。が、保護者としては叱らねばなるまい。
家出して、暴走したときコントロールできてない力で自分の服をぼろぼろにしていた。
それが体に影響しなかったとは言い切れないのだ。
こっそりやって驚かせたかったのかもしれないし、わざわざ人に努力しているところを見せつけろとは言わないが一言断りを入れるべきだった。
触腕で巻きつければ押さえ込める。
僕が監督していない間に何かあったら惨事を招きかねない。
それを叱ろうと口を開いたのだが―


「ご、ごめんなさい。
で、でもドードが見ててくれたよっ!!」
「ドード?」
「・・・?
ドードはドード。」


すぐにピンとはこなかったがグリューネ・ドドリアのドドから取ったのだろう。
監督してくれる存在なんて僕かグリューネしかいないのだから。
・・・そんな慈悲あふれる感じは仮にも自然界で常に生きてきた彼女らしくないじゃないと思ったけど、なんだかんだで面倒見の良い彼女らしいともいえる。


「そう。一人だけ仲間はずれか。」


ただ、グリューネには言って、僕には隠されていたのがちょっと気に食わない。
そんな気持ちが表情に出て、口にもぼやいたがゆえにまだ怒っていると思われたのかやまいはあわてて弁解する。


「お、怒ってる?」
「いや、別にそんなことは・・・」


ちょっとむっとしただけで。グリューネに対して。


「ドードが秘密にしておいたほうがたこが喜ぶって。喜ばなかった?」
「喜ぶと言うか、驚いたかな・・・」
『あら、嫉妬?使いつぶそうとしてた貴方が何を―』
「だまらっしゃい、ツンデレめ。」


毎度のことながら急にぽっと出るグリューネ。
やまいが驚きで軽い悲鳴をあげていた。


『し、失礼ね。私のどこがツンデレなのかしら?』
「やまいを嫌ってたんじゃなかったの?」
『別にどうでもよかったわ。』
「どうでもよかったわ・・・・・?」


過去形である。


『あっいえ、あうあっ!?
な、何を勘違いしたのかしら?
今のはちょっとした言葉の綾よ。この程度で鬼の首を取った気になったつもり?
少し表現を間違えただけじゃない。』
「にやにや。」
『そのセリフを口で言わないでくれるかしら。無性に腹が立つわ。』
「け、喧嘩は・・・」


なきそうになりながらやまいが間に入る。
自分が好きな人同士が喧嘩する姿は見たくないといったところ?
ほんとうにいつの間にグリューネと仲良くなってたんだか。


『け、喧嘩じゃないわよ、やまい。
これはただの・・・そう、ただの痴話喧嘩・・・』
「結局喧嘩になってるよね、それ。」
『あ、あげあしを取らないで頂戴っ!!ていうか誰が痴話喧嘩よっ!!』
「まさかの一人ツッコミとは。」
『うるさいっ!!』


ズカカッ!って音が背後からした。
と思ったら彼女の髪の毛から生えてた葉っぱから蔓が伸びて僕の背後に突き刺さった音のようだ。
早すぎて反応できなかった。
なにこれ怖い。
見かけによらずかなり強い感じです。


『次は刺すわ。』
「・・・やーい照れ隠しぶっ!?」


刺された。
が、効かんっ!!
確かに身じろぎ一つも出来ないほどの早さだが、しかし筋肉を締めることくらいは出来る!!
僕の筋肉の鎧にスキはなかった。
ので、普通に穴あけられました。


「いたいっ!?」
『・・・まったく。』


それを見てやまいが僕に心配そうな顔を向けていた。
ごめん。
実は言うほど痛くないんだよ、やまい。


☆ ☆ ☆


時は少しさかのぼり、これはやまいと街に行く前の朝のこと。


「そう。力が無い正義ほどむなしいものは無いのさ。」
「・・・分からないけど・・・分かった。」


タコのその言葉はやまいの胸に響いていた。なんて事はなく、ある切欠を作っていた。
タコの言葉の分かるところだけをまとめるに、要は力があればいいらしい。
そう考えたやまいは強くなりたいと渇望する。


そこでやまいは思ったのだ。
自分の体から出たあの黒い「何か」を操ることができれば強くなれるんじゃないだろうかと。
黒い何かは100パーセント思い通りに動いてくれるというわけではないものの、ある程度の意思を反映してくることは分かっていた。
これは村で自身の同属を殺したときと、この豊饒の森に来て獣に襲われたとき、タコにやつあたりしたとき。
そのどれも概ねは思い通りに動いてくれていたことを経験的に理解していた。
そしてそれを操ることが出来れば多少なりとも強くなれることも。


なによりも五歳児とは言えど、亜人、特に魔人は早熟な子が多い。あくまでも人間に比べて、というところであるがこれは動物もとい魔獣としての特徴が強い亜人他魔人の特徴の一つ。
動物が生きる厳しい自然界においては体の大きさ、誰よりも大きくなる、ただそれだけで生存確率が跳ね上がる。
大きくなればそれだけで自分より小さい相手は敵ではなくなる。
ゆえに人間のように何年もかけずに大きくなると言うのは動物にとっては一番簡単で効率的な生存戦略である。
魔獣よりの魔人にとってはこの特徴が一番強く、同じ五歳児と言えども人間に比べて2、3歳分、もしくはそれ以上の知能差がある。


そんなやまいにとって日々のタコの狩りは不自然に過ぎるものだった。


自分を必ず連れて行く意味が見出せないのだ。
特に手伝うわけでもない。
見ていろと言われるわけでもない。(むしろタコにとっては血なまぐさい現場を直接見せるのはもうちょっと経ってからと考えているため見えないような場所にやまいを置いていた。)
体色が変えられるのにもかかわらず、変えないで横取りと言う手法をとること。
わざわざ貴重らしい獣よけを使ってまでつれてくること。


それだけのヒントがあれば漠然とでも気づく。
自分がタコのお荷物になっていることに。
このまま厄介者のままでは嫌われてしまうかもしれないと。
嫌われることに臆病になっていた――もしくは生来の性格でいじらしいだけか――ともかく、少女はがんばろうと決意する。
好きになってもらうためにはどうすればいいか。
褒めてもらうためにはどうすればいいか。
齢5歳でありながら自己の存在価値を示そうとするやまい。
ある意味悲劇的な結果と言えるやまいのその5歳児にしてはいびつな思いは黒い何かを使いこなしたいという思いに変わる。
使いこなせば。
獣をしりぞけたアレを使いこなせれば。
少なくとも足手まといにならない。留守番ができるだろう。


そして嫌われない、捨てられない。と考えて。


その日からこっそりと練習する日々が始まった。
こっそりとやったのはこの力が暴走したとき、もしもタコを傷つけて嫌われたらと思うとそれ以外の選択肢は無かった。


当然タコの気配探知タコレーダーに感知されているものの、ちょっと魔力がゆらぐだけなので、鋭いほうでもないタコにとっては誤差の範囲内と判断されて視認しない限り気づけない。


そんな特訓をしばらく続けていた時のこと。


「あうっ!?」


時たま暴走する時がある黒い何か。
それはいつもいつも決まって、心が荒んでいたときである。
黒い何かを見るとこれのせいで自分がこの境遇になったということを重い黒い何かに対して敵意を持つ。
だけれど、黒い何かがやまいの頭に侵食するように敵意を吸い取り、黒い何か自身の力へと還元され、一時的に爆発するように力が膨れ上がる。
このときに暴走するようである。
とてもじゃないが制御できない。
ただひたすらに力を振るうのみだ。
どんなに敵意を吸い取っても、黒い何かを使い続けてる限り目に入るのだから敵意がいつまでもあふれる。
多少は押さえつけることができても結局は暴発してしまうのだ。


「・・・いたい。」


暴走した黒い何かは周りの地面をえぐり、えぐったさいの土に混じったが飛び散ってそれがやまいの体を裂いた。
しかしすぐにふさがっていく。
小さな傷程度ならすぐに治すことができる。


加護が手に入る前は一度も無かったことである。
それもまた加護のせいだと思うと治ったばかりの傷を無性にえぐりたくなる。
が、この回復力についてだけは多少の感謝をしているけれども。
タコに隠れて特訓しているのがばれなくていい。
そしてあまりにも上手くいかずに泣けてくるやまい。
特訓を開始してからというもの、毎日毎日声を押し殺して泣いてばかりだ。
でも嫌われないためにも泣いていられない。
ひとしきり泣いたらまた立ち上がって力の制御をするやまいだった。
そして結局できず、また次の日、次の日こそはがんばろうとしてでも出来なくて、悔しくて、焦りからも泣いてしまう。
そんな日々が続いたある日のこと。


「うぅ・・・ぐず・・・くう・・・」


この日もまた泣きながらも練習をしていると唐突に声が響く。


『まったく、見てられないわね。』
「・・・っ!?」


やまいは驚いてついと暴走の結果起こったえぐれた土などを身で隠すようにした。
が、当然小さな子供の体で隠せるはずも無い。


『なぜ隠すの?』
「・・・き、嫌われるから・・・お願い、たこには黙ってて。」
『・・・別にわざわざ言わないわ。
それよりも、ほら、お願いしたとおりにして頂戴。』
『ククク、邪竜の加護を持った子供とはまた珍しい。』


そこにはグリューネと見覚えの無い人がいた。
いや、人ではない。
グリューネと同じ、けれど魔獣とも亜人とも魔人とも人間とも違う「何か」である。
まるで御伽噺に出てくるようなお茶碗をお風呂として使えそうなサイズの妖精がいた。
ただ羽だけはそれらの話に出てくるものとはちょっと違って、幾何学模様を描いた魔法陣のようなものを背負っているようにも見えた。
妖精、というよりも魔法陣を背負った小人と言ったほうがいいかもしれない。
顔は中世的で性別は分からなかった。


『ぼくはファンダルダルネ。
君達人種族が言うところのダンジョン「紅砂導く幻想郷」の―というとちょっと想像がつきにくいだろうけど、要は砂漠に住んでるんだ。お見知りおきを。不憫なお嬢さん。』
「・・・は、はい。」
『いやね、この子―嗚呼、そういえば名前をつけてもらったんだって?苗字までつけてもらってよかったじゃないか。ぼくやペヅェリなんて自分でつけた名前だからね。率直に言って君がうらやましいよ。
さらには邪竜の加護を持つ人まで近くにおいてるなんてまったく持ってうらやましい。ぼくのところなんてね、ほんと面白みなんてまったく無いんだよ。人間もほとんどやってこないし、今くらいの時期だとほとんど閑古鳥がないちゃってまぁかなしきかな。というかさびしいよ。で、やたらと無理して呼んでくれて何があったのやらと少し身構えていたらまぁまぁうらやましいことになっているじゃないか。ほんとうにうらやましい。大事なことだから3回ね。いや、4回目だっけ?まぁなんでもいいよね。むしろもう一回くらい言っておこうか?うらやましいって。これで5回目。ついでに言うと―』
『うるさい。少しは黙れないのかしら?』
『助けてあげたい子がいるって珍しいことを言うから面白半分で飛んできた―ごはっ!?』


ファンダルダルネを叩き落すグリューネ。
その動きはハエたたきのごとく。


『聞く、なんてことは貴方に対して愚行だったわね。黙れ、と命令してあげましょう。』
『いたたたっ・・・死ぬよ?ぼく。』
『・・・死ねばよかったのに。』


二人の会話に置いてけぼりになるやまい。
目をぱちくりとさせている。


『おおう・・・予想以上にマジトーン。もう少し話していたかったけどそろそろ真面目にいこうか。ちちんぷいぷ~―あうちっ!?』


またもや叩き落されるファンダルダルネ。


『真面目にやりなさい。』
『ま、真面目にやろうとしたよねっ!?』
『そんな珍妙な呪文なんて使ってなかったでしょう?』
『ちょっ、ちょっとくらいおふざけに付き合ってくれても良いのにぃ。
まったく・・・ええっと・・・はい、終わり。』


ファンダルダルネが手をぷいと振るとやまいの体が一瞬、薄く輝いた。


『ご苦労、かえってよし。』
『ヤったら終わり!?
これが俗に言うヤり捨てっ!?』
『下品よ。』
『げふっ!?』


またもや叩き落されるファンダルダルネ。


「だ、大丈夫?」
『おおう、優しい。
その優しさでお兄さんはもっとがんばれちゃうぞぉ!
あ、お姉さんでも可。ぼくに性別というくくりはないからね。雌雄同体みたいなもんさぁ。それはさておき優しい優しい不憫なお嬢さんに良いことを教えてあげよう。
ドドリアったら結構君のことをしんぱがっはっ!?』


またもや叩き落され、次に蹴っ飛ばされるファンダルダルネ。


『よ、余計なことは言わないでいいと言ったでしょうっ!!』
『まったく、相変わらず恥ずかしがり屋だなぁ。ぼくはさみしがりやだけど。
せっかく呼んでくれたのに、これで終わりだなんて・・・ていうかかなり無理してるけどペヅェリの方じゃなくて良かったの?
どうせ呼ぶ・・・いや喚ぶならペヅェリのほうが良かったと思うけど。』
『何よりもまずは力を使いこなせるようになってもらわないと困るでしょう。』
『そらそうだけども。それとうわさのタコ君に会いたいなっ!
今ならぼくの加護もサービスしちゃうよっ!?』
『別に会わなくてもやれるでしょう?』
『いや、せっかく来たんだかた会ってから―』
『そう、いますぐやらないなら貴方はもう用済みよ。』
『それはさすがにひどすぎる良いざまじゃないかなっ!?てっ!?
本気で戻す気っ!?ちょ、ちょぉおおおおっ!?くそ、ここでぼくを送還しても第二、第三のぼくが君の前にあらわ――』


空中に現れた魔法陣に飲み込まれて消えるファンダルダルネ。


そしてグリューネは一言。


『もう一度使ってみなさい。』
「え、えっと、は、はい。」


そして黒い何かを出すと今度は一切暴走しなかった。


「ど、どうして・・・」
『あとは上手く使えるように頑張りなさい。い、一応言っておくけれどこれはタコの・・・この森の生物のためであって貴方のためではないからね。』
「あ、ありがとうっ!!」
『き、聞いているのっ!?』




これがやまいとグリューネの仲良くなる切欠であった。
ちなみにファンダルダルネの与えた加護の効果は精神安定効果である。





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