タコのグルメ日記

百合姫

高慢ちきな彼女3

「ふははははっ!!
弱い、弱すぎるぞっ!!」


ヘスペリオス洞穴の前についた一行。5日もかかったわけであるが・・・(理由は言わずもがな彼女の体力が無かったからだ。)
エンデリアさんは調子良く、ノリにノッっているご様子。
ここまで弱いと感じたのは僕がいることで動物が警戒してあまり寄ってこなかったのと、じいやさんの活躍が主である。
じいやさんが注意を引き、時にはぶった切り、そこに邪魔するかのように魔法を適当に撃ち放つ。
途中でちょいちょいじいやさんごと吹き飛ばすつもりなの?とツッコミたい軌道の魔法を打ち放ったエンデリアさんだが、さすがはじいやさん。
こんなこと日常茶飯事だとばかりにかわしていた。
自分の体で動物達の視界を防いで、ぎりぎりまでひきつけてから避けるという芸当まで行う始末。
これで不意撃たれた動物はまず避けられない。


「いよいよ、ついたの。
ここにくるまで5日もかかったものだが、なかなかどうして面白い道のりであったぞ。」


よく言うわ。
もう来たくないとか、羽虫がうざったいとか、足が痛いとか散々騒いでいたのに。
おかげで疲労回復として使ったメープルシロップがあと一瓶しかない。
まったく、困ったものだ。
正直、この子居ないほうがリグレットホースとやらを安定して狩れるのではと思う。見たこと無いし、もしかしたら彼女が必要な理由があるかもしれないが。


ま、ともかく。


「お嬢様、私は少し洞穴の様子を見てくるので・・・」
「よい、分かっておる。
待てと言うのだろ?問題ない。むしろとっとと行け。」
「・・・くれぐれも襲いましぇぬように・・・」
「はっ、当然だ。そもそも必要が無い。
いまやデレデレなのだからな。」
「・・・タコ殿、おきをつけて。有事の際には、ひっぱたいてくれてもかまいましぇぬ。では・・・」


心配そうにこちらを何度も振り返りつつ、洞穴の斥候に行くじいやさん。
そんなに心配しなくてもこれだけ動物を狩っていれば、その血が染み付いた僕達に襲い掛かってくる動物はめったに居なくなる。
それこそ襲い掛かるのはタイガーウルフとか大熊なんかの大型肉食動物ぐらい。
が、地球と同じで大型の肉食動物ほど個体数が少ない。
そう都合よく会うなんて事はないだろう。
仮に来ても、旅の冒険者には必須だとか言うバリアのような結界を張る陣式の魔道具まである。
こんなものがあったとは知らなかった。
今度買っておいて、家に置くのもいいかも。
なんてことをぼんやり考えてると明かりの魔法が刻まれた魔道具を掲げて洞穴に入っていくじいやさんを見送った。
すぐにこちらをちらちら見てくるエンデリアさん。


「なんですか?」
「・・・いや、別に。」


すぐにそっぽを向く。
ちょっと頬が赤いようだ。
本当に僕に一目ぼれしちゃってるようで。


「そのなんだ?
下着の色は何だ?」
「は?」
「い、いや、別に他意はないのだぞっ!
ただふと気になっただけだ!!」


ふと下着の色が気になるってどうなんだろうか?
というかこの5日で多少距離感が縮まったとはいえども、いきなり下着の色を聞いてくるとは変態さんめ。


「私個人として白か黒、その二つが特に似合うと思うのだがな。」
「・・・緑ですが。」


まぁ隠すほどのことでもないし、教えることに羞恥心を覚えるほど乙女というわけでもない。
少なくとも中身は男である僕にとって別にかまわないことだ。


「そ、そうか、意外だな。私は黒なのだ。」
「ぶっ。」


聞いとらんがなっ!


「ど、どんな下着なのだ?
見せてくれないか?」
「は?」


ふーふーと鼻息荒くじりじり迫ってくるエンデリアさん。
こ、この変態めっ!
別に見られてもかまわないのだが、こうぐいぐい来られると反射的に引いてしまうのが人間だ。・・・タコだが。


「い、いや、その・・・」
「別に減るものでないし、女同士だ。恥ずかしがる必要は無い。
そして周りにもこちらを注視する男どもはいない。それに私も見せようではないか。ほら、ほら。これでおあいこだ。」


といって自分のドレスのスカートをたくしあげる彼女。
そこには軽く透けるような黒い下着にニーソックス、ガーターベルトのエロ下着コンボがあった。
心なしなしか、下着が湿っているように見えないことも・・・っと、何をマジマジ見ているのかっ!?
こう・・・なんだ。
エロイ下着を見せられてそれに目が行かないのは男じゃないだろうっ!?
などということを言ってる場合でもなく。
あれ、ちょっとムラムラ来てない?
ようやく性欲がっ!?
なんてことを思ってる場合でもない。


「ちょ、ちょっとまってっ!」
「ほう?
敬語が抜けたな。
これからもタメ口でよい。特別に許す。
さて、それではタコよ。その・・・わ、私の胸でも触ってみるか?」
「いや、だから、なんで僕のパンツを見せるという話からなぜそんな話に・・・いや、そもそもなんでこんなことを・・・」
「あ、そうだったな。では見せてくれ。
生涯忘れぬように記憶に彫りこもうではないか。」
「う・・・やぶへびをしてしまった。」
「ほう?
なかなか良いにおいがするな。」
「は?ちょっとっ!?」


いきなりスカートの中に頭を突っ込んでくるエンデリアさん。
なんだ、この人、変態すぎる!?
とりあえず飛びのいて、文句を言おうとしたところで、


「ただいま戻りましたぞっ!!」
「ちっ。もっと遅く帰ってくればいいものを・・・」
「・・・お嬢様、やはりやらかしましゅたな。」


僕とエンデリアさんの服装が乱れてるのを見て、頭を抱えるじいやさん。
まじで助かった。
こんな押しの強い女性ひと、どう接すればいいか分からなかったところである。
無碍にするのも、仮にもここまでつれてきてもらってる訳だし・・・いや、正確に言えば彼女よりもじいやさんに二人そろって守ってもらってるという形に近いのだが。


「お嬢様っ!!
今度ばかりは・・・」
「説法など犬にでも食わせておけ。
それよりも、洞穴はどうだった?」
「いや、今回ばかりはそうはいきましぇぬっ!!いい加減――」
「うるさい、じいや。
とにかく、どうだった?」
「・・・くぬう・・・屋敷に帰ってからしっかり言い聞かせますので、今回はご容赦願いごじゃりましゅる。タコ殿。」
「は、はい。別にかまいません。」


じいやさんも周辺に獣のいるところで説教をしてる場合じゃないと考えたのか、とりあえずは話を進めることにしたようだ。


「軽く気配を探ったところ、リグレットホースらしき魔獣は見当たりませんでしゅた。」
「ふむ、そうなると・・・まぁよいか。
入るだけ入ってそれっぽい、強そうな魔獣をしとめてくればよかろう。」
「・・・それで旦那様が納得してくれるでごじゃりましょうか?」
「してくれる、ではない。
させるのだ。私がな。」
「・・・はぁ、分かりました。では早速行くので?」
「ああ。当然だ。
そして彼女を連れて帰る。」
「・・・まだそのようなことを・・・」
「何、肌着を見せ合った仲だ。最早同衾もすぐであろうて。」
「・・・何をもってそのようなことを・・・タコ殿、重ね重ね申し訳ごじゃりませぬ。」
「ははは。」


苦笑いするしかなかった。
僕は見せたというより見られたというほうが正しいのだけれど。


「ではいくぞ。タコ、そなたは私が守ろう。大船に乗ったつもりで付いて来るとよい。」
「・・・よろしくお願いします。」
「先と同じように敬語は不要だ。名も愛称であるエンデと呼ぶが良い。」
「・・・そ、そう。」


それがお望みなら別に敬語なしでもいいけど。
どや顔で言ってるところ悪いけど別にきゅんきゅんしたりしない。


「・・・では、一番強そうな魔獣が居た場所まで案内を・・・」
「いらぬ。」
「は?」
「要らぬと言ったのだ。」
「いや、何を・・・」
「・・・耄碌したか、じいや。
前にも言ったであろう?
私が自らの手でやらねば意味が無いと。」
「・・・で、ですがっ!!」
「では、いくぞ!」


そう言って、手を引きながら僕を洞穴の中へ引き込むエンデリアさん。
え、まじで二人で行くのっ!?


「お、おまちを―ぬあっ!?」
「ふふ、拘束用の魔法もたまには使えるな。」


追ってくるじいやさんに向けて光り輝く鎖が巻きついた。
ここから先は楽ができなさそうである。


☆ ☆ ☆


「つ、ついてきておるか!?」
「大丈夫だよ。」


暗い洞穴。
目論見どおり洞穴の中には水溜りでもあるのか、湿気がすごい。
それによって天井に雨粒が出来、それがぴちょんぴちょんと落ちるという雰囲気あるまさに洞穴という感じの場所だ。
かさかさと昆虫が這いずり回っている。


光が無い場所に住んでいるだけあって、それっぽい虫、もといムカデやゲジゲジ、ウデムシというカニとクモを混ぜて二で割ったような昆虫などがいる。
どれもこれも不味そうだが、確かゴキブリなども地域によっては美味しい食材となるらしいし、あれらも一応一匹は取っておこうか。
と思って、捕りにいこうとすると―


「きゃぁああっ!?」
「げふっ!?」


エンデリアがいきなり抱きついてくる。
というかタックルしてきた。
いや、こういう暗い場所ではありきたりな反応であるが怖いものは無いという顔の彼女が、ここまで普通の反応をするとは思いもよらなかった。
動物を狩ってた時も、虫にまとわりつかれたときも特別大げさな反応はしてなかったからだが、まったくもって予想外。
抱きつかれて突っ込んだ先は、ただの壁。
彼女と壁に挟まれて非常に痛い。


「ど、どうしたの?」
「い、いや、別に・・・なんでもない。水滴にちょっとびっくりしただけだ!!」
「そ、そう。」
「お二人ともっ!!後ろをっ!!」
「むっ!?
じいや、何度言えば分か――」
「ちっ!!」


彼女を押し倒した。


「んきゃっ!?
だ、大胆だな・・・その、別に嫌と言う訳ではないのだが、もう少し心の準備を・・・」
「いや、何を言ってるの。そういう場合じゃなくて・・・」
「あ、ああ、私も我ながらそう思うのだが、その・・・いざとなるとこう、体が火照って・・・あの・・・恥ずかしいの。」
「いや、そういうことじゃくて・・・あっち見てくれる?」
「・・・あ、あっち?
み、見てる間に急にエッチないたずらとかは駄目だからなっ!?」
「しないから。」


僕と彼女はあっちといった方向を見る。
そこには少し拾い空間があり、白い何かが居た。
光のとどく範囲ぎりぎりなので白い何かの物体としか見て取れないが・・・


「私のミスでごじゃります。
お逃げくだされ。こいつこそ・・・ぐっ!?」


白い影から大きな火の玉が飛んできた。
それがじいやさんに直撃する。


「こいつこそ?
なるほど、こいつこそリグレットホースか?
ふふん。
ならばちょうど良い。
こいつをこの場で殺して私はタコと結婚するのだ!!」


それ、なんて死亡フラグ?


その声でこちらにも注意を向けたのだろう。
弱いところからつぶすのは基本である。がゆえに。
うち放つ魔法。
それは地面を揺るがす魔法だった。


「きゃぁっ!?」
「このっ!?」


触腕を展開しようとしたところで、人が居るのを忘れていたことに気づく。
いや、亜人って認識だし、亜人特有の技能だよ!ってことで押し通そうと思ったところで、いや、人間と名乗ってたのを忘れていたことに気づく。
そんな迷い迷いの行動で対応できるはずも無く、あえなく地面を揺るがす魔法であけた穴に転がり込んでいく僕とエンデリア。
なるほど、しとめられるか分からない魔法を放って魔力を無駄にするより、一人ひとり分断しながらしとめることにしたのかもしれない。
地属性の魔法で周りの岩盤を動かしたというところだろう。
多分。見たこと無いからこれが地属性の魔法というべきかは分からないけど。


「お嬢様っ!?」


エンデリアの身を案じるじいやさんの声と彼女の悲鳴を子守唄に僕の意識は無くなった。




☆ ☆ ☆


「・・・ぐ。」


意識をなくすなんて久しぶりのことである。
跳ね起きて、あたりを見渡す。
幸い、擬態が解ける前に起きれたので気絶した時間は体リラックスして弛緩する間もなかったことになる。
長くても5分と経っていないだろう。


あたりを見渡すと、同じく気絶したのだろうエンデリアがいた。
そして明かりの魔法具が弱弱しく光っているが、なんとかまだ使えそうだ。


「エンデリア、エンデリア。」
「う、ううん・・・愛称で呼べと言ったはずだが・・・エンデで良い。」
「そう、で、エンデ。大丈夫?」
「う、うむ。か、顔が近いぞ。」


言うほどでもないと思うのだが、彼女はどうも完全に押すタイプで押されるのが苦手のようだ。どうでもいい情報だが。


「ここに居てもあいつがくるだけだ。
出口を探そう。」
「・・・う、うむ。・・・っ!?」
「どうしたの?」
「いや、少し足をくじいたようだ。
が、案ずることは無い。」
「メープルシロップなら無いよ?」
「なんだとっ!?」
「今の衝撃でポシェットが・・・ほら。」


と、手を掲げて見せると愛用のポシェットのヒモの先が無い。
先の局所的な地盤沈下の際にどっかの瓦礫に埋もれたのだろう。
僕達のどちらかが埋もれてもおかしくなかった。
地味に命の危険だったといえよう。


「な、なんということだ・・・これでは歩けないではないか。」


僕が抱えるという選択もあるのだが、ここはさまざまな動物のすむ洞穴。
何があるか分からないのに、人一人分の重さを抱えていいものか・・・
ここは彼女が留守番して僕が探索にでかけるのが無難だろう。
もしくは痛みを我慢してもらうしかない。


「というわけで僕は先に・・・」
「だ、だめだっ!!」
「・・・分かってると思うけど、別に置いて戻ってこないなんてことは・・・」
「それでもいやだっ!!」
「じゃあ無理にでも歩いてもらわないと・・・」
「すごく痛いんだぞっ!!
無理に決まってるっ!!」
「・・・はぁ。それじゃあおいていく。」
「ま、まてっ!!
まってくれ!!」
「待たない。おとなしくしててよ。真っ暗になるんだから動けないと思うけど・・・」


若干涙目だ。いや、そりゃ心細いとは思うけど、そんな甘えたことを言ってる場合でもない。
ここは厳しい自然界なのだから。
明かりを拾い上げると――


「あ、明かりも持っていくのかっ!?」
「そりゃそうだよ。さすがに明かりもなしじゃ行動できない。夜行性の動物と言えどもまったく光が無いんじゃ意味が無い。」
「夜行性の動物?」
「い、いや、なんでもない。とにかく、おとなしく待ってるように。動物が来たら下手に魔法を使っちゃ駄目だよ。
多分あの白いのがいじってると思うけど、落盤しないとは限らない。」


せっかくの餌を土に埋めるようなことはしないだろう。
もちろん餌とは僕と彼女のことだ。
僕達が脱出しようと暴れても埋もれないように周りの土は適当に強化してあるはず。
地属性の魔法でそれが可能であるならばだが。
とにかく彼女のわがままを聞いている場合ではない。無視して先に進むのであった。


「まてっ・・・まって・・・おねがいだから・・・」


すごく後味が悪かったとだけいっておく。


なので。


「くそっ!!くそっ!!
私は貴族だぞっ!!
貴族の私を置いておきおってっ!!
あやつめっ!!あやつめっ!!
人が優しくしておればつきあがりおってぇえええっ!!
打ち首にしてくれるっ!!
帰ったら打ち首に・・・ひぃっ!?
な、なんだっ!?なぜ明かりが・・・帰ってくるのが早すぎるっ!?
ま、魔獣かっ!?」


ぶつくさ文句言ってた彼女を何も言わずに抱きかかえた。
そしてはじめは膨れていた彼女も10分ほど歩いていくと、口を開いた。


「・・・どうして?
さっき自分で・・・足手まといがいたらどっちも死ぬかもしれない・・・から・・・って。」
「・・・別に。おいていって欲しいの?
そりゃ、そっちを薦めるよ。お互いのためにも。」
「こ、これでいい。い、いや、これがいい。」
「そう。なら打ち首は勘弁してもらいたいかな。」
「・・・そ、それは・・・じょ、冗談だ。気にするな。」




たまには人間らしく非合理的な行動もいいじゃないか、と思い、彼女をおんぶして先に進むのだった。
情にほだされたのではない。と思う。
ただの気まぐれだ。
うん、気まぐれ。


後で後悔することにならないかなぁと一抹の不安を抱きつつ、暗闇の奥へと遠慮なく突き進むのであった。

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