タコのグルメ日記

百合姫

もはや羊皮紙の話

「すいませ~ん。」
「はい、なんですか?
っと・・・貴方ですか?
釣り針とやらの作成依頼を?」
「はい、それとルアーの作成も――」


金物屋に行くと愛嬌の良いおじさんが顔を出す。
ドワーフ族だと言う彼にお金を渡した。
手間賃、材料費などを含めて55000ルピーほど。ついでに釣竿自体も作ってもらおうと思ったのでさらに10000ルピーほど支払って、ここを後にする。


手持ちのお金の6割が減ったけれどもともと、街で暮らすつもりはないので節約する理由も無い。
残りは甘味と羊皮紙とリュックをつくるための糸か。
まぁ糸は無くても問題は無いな。
森に戻ってから作ればいいのだ。


大通りの露天商を歩いて目的のものを探す。
甘味は手に入った。糸も手に入った。
甘味は砂糖が混ぜ込まれたアメのようなものだが、正直それほどおいしいものではない。
ただ甘ったるい。
それだけである。
これならなんかの果物を食べたほうがおいしい甘さを味わえるだろう。
一応、何個か買って帰るけれどこれを求めていたのかは不明だ。
他に調理された甘味は無い。
調理といえば、塩コショウなどの調味料と砂糖粉末を買って、さらに包丁も買った。
これで今度から一工夫加えて、おいしいご飯が食べられると言うものである。
ご飯。
いや、料理と言うべきか。
料理とは人間が行った発明、文化の中で他種に誇れる一番の長所なのではないか?と僕は勝手に思っているけれど、それはさておき。
あとは鍋と、穀物類と、いや、穀物は森にあった。けれどそんなに多いわけでもないし、帰ったら自分で畑を作るのもいいかもしれない。
いや、でも森のど真ん中じゃ他の生物がうっとうしいことこの上ない。やはりやめておこう。


釣り針とルアーの完成に5日ほどかかるというので、その間に僕は必要なものをどんどんそろえていった。
とりあえず両手に抱えるくらいに荷物を持ったままでは何も出来ない。
そろそろ一度宿に戻るべきだろう。
そして糸と葉を使ってリュックを作るべきだ。


「ええと・・・この糸を・・・」


縫い針はすでに購入済み。
宿でしばらく休んだ後に作業を開始する。
簡単な裁縫程度なら誰にでも出来るだろう。小学校、中学校の家庭科で習うから。
そう考えると義務教育も馬鹿には出来ない。


葉を縫い合わせて肩から提げる大き目のポシェットを1つ。
腰からぶら下げるような腰布型ポシェットを1つ。
そして残ったものを上手くつなぎ合わせて作った背負うタイプのリュックを1つ。


思ったよりも簡単に作ることができた。
強度を増す為に継ぎ目には当然タコ墨注入である。


リュックに鍋やフライパンなどの大きなものを入れて、細かいもの、塩や包丁などは腰のポシェットのほうに入れる。
肩からかけるポシェットはたたんでリュックのほうに入れた。


肩バンドポシェットを持っていって、もっとたくさん必要なものを買おう。
あと必要なのは解体用のごついナイフとかかな?
皮をはぐのに使えそうだし、露天で買ったリンゴのようなものを股の間にある口で食みながら明日の予定を考えて、その日の僕は寝た。


次の日。
まず朝に起きたら人への擬態である。
擬態は寝ているときでもできないことは無いが、肩がこるのだ。
できるだけタコ状態でいたい。


服を来て、肩ベルトのポシェットを持って宿をでる。


「おんや?
今日もご飯要らないのかい?」
「はい、すいません。」
「別に謝る事じゃないさ。」


この宿には食堂があるのだが、言わずもがな僕が人前で物を食べるなんて到底無理である。
女将さんには申し訳ないけれど、ご飯は自分で用意することにしていた。
ただ、味自体は気になるので部屋に持ち込んでもらおうとしたのだが、部屋を汚されると困るってことで断られちゃったのでもう諦めるしかない。


「いってらっしゃい。」
「はい、いってきます。」


そのまま僕は宿を出て、またもや露天商を見て回る。
紙だけが見つかっていないのだ。
紙が無いと意思疎通が出来ない。
今の宿だって、15件目にしてようやく魔力の持つ女将に出会えたわけであり、万が一人間の街に長期滞在することを考えると緊急用の連絡手段はあるに越したことは無い。
文字が分からなくても絵で十分だし、むしろ下手に文字を習うよりそっちの方が正確な意思疎通が可能かも。


いや、でも言語は学びたい。
その辺の人に文字を教えてくれる酔狂な人はどこかにいないものかね。


とにかくなんにしても紙が必要だ。
いっそのことその辺の人に話しかけようか?
また言葉が通じる相手探しからはじめないといけないのかもしれない。
だとすると、面倒な・・・と思ったところでふと気が付いた。
金物屋に行って、聞いてくればいいだけじゃないの!とな。
で、聞いたところ紙は紙を作る専門の職人が居て、その人たちの紙職人ギルドで購入するらしい。
露天に紙が売ってないのは紙のギルドがここにはあるから。
この街、ミドガルズは近くに森があり、冒険者がたくさん行き交うことから羊皮紙が一番の名物だという。
そんなのも知らないでここにいたのか?と怪訝な顔をされたが、知らなかったものはしょうがない。
ただのタコに求めすぎだろうと思う。


なにはともあれその羊皮紙を作る専門のギルドに向かってみると、なかなかの大きな店が構えられていた。
この世界の建築技術的にどうなのか分からないけど、回りの家を見る分には比べ物にならないほどの大豪邸である。
そんなに儲かるのかな?


「あの・・・」
「はい、紙を買いに来られたのですか?」


さっそく門番らしき人に話しかけて中に入ると、そこそこ綺麗な内装が広がっている。
その中央に受付があるようだ。
ただ、見かけるのは商人のような人が多く、冒険者然とした僕のような人は僕以外にはみない。
まぁ普通に過ごす分には必要ないもんね。
うむ、また1つ賢くなったようだ。


「そうです。それで・・・」
「はい、どんな紙をお求めでしょう?」
「ええと・・・」
「当店では腕利きの職人による高品質な羊皮紙と、そのお弟子さんが作る品質の低い紙とで大まかに分けて扱っています。―とは言え、販売に足るものではあるのでご安心ください。
―ああ、羊皮紙とはいえど名前のとおり必ずしも羊の皮を使っているわけではないのでその点に関するクレームは受け付けかねますのでその点はあらかじめご了承のほどを。」
「・・・えと・・・」
「もともと羊皮紙というのは商人が広めた商品名のようなものでして、たまにそのことでクレームをつけてくるお客様が居るのですが、そういったクレームには対応してないということです。ご理解されましたでしょうか?」


僕がいきなり流暢に話し始めた受付に対して戸惑っていたのを理解していないとみなされたらしい。
無駄に詳しく似たようなことを二度言われた。


「だ、大丈夫です。」
「それは失礼しました。
では商品の説明に戻らせていただきます。
高品質な羊皮紙の中でも獣の皮によって値段や質感、使い勝手が変わり、これは低品質のほうでもそうです。
お客様の使用用途はなんでしょうか?
後世まで記録に残すような物をお書きになられるのであれば高品質な物の中でも特に高級品とされる牛皮を。
特別こだわりがあるのでなければ羊の皮を。
本の材料にとあるならばアルモネラの皮を使った薄く、そこそこの強度を持った羊皮紙をお勧めいたします。書いたものを持ってきてくれればこちらで製本することも可能です。
長期保存のつもりがないのであれば低品質のオナガネズミや、フェザーラビット(羽ウサギのこと)の皮が一番かと。」
「・・・結構種類があるんですね・・・えと、安くて水に強いものをお願いしたいです。」
「水に強い?」
「えと、書いたらすぐ水で洗い流したいんです。」


僕はインクとして自前のタコ墨を使おうと思っている。
タコ墨はイカ墨に比べて水に溶けやすいという特徴を持ってるようで、染みるようなものでなければ普通に水で洗い流せるはずだ。
乾いたら、ゴムのような触感を持つ接着剤にはや代わりな不思議な墨なんだけれどね。


「・・・?・・・でしたら・・・」


書いたそばから消していく。
別に水に強い紙を求めるというのは分かる。
水による汚れや侵食に強いのも羊皮紙の特徴だ。それをより特化させたものだって需要がある。
しかし、書いたそばからというのは奇妙奇天烈。
用途が読めずに、受付は怪訝な顔を浮かべながらも僕の要求に合う紙を探してくれる。
手元のサンプルを見比べて、1つの羊皮紙を取った。


「こちらはテッカイウオと呼ばれる60センチほどの魚の鱗を削り落とした皮を剥いで加工したものです。
陸上を歩く魚、という見た目なのですがなかなか見つからないことから希少性が高く、また、魚の皮は他の陸上生物と比べて薄いために、扱える職人も限られています。
そのため値段は牛皮よりもかかるのですが表面をこするだけでインクが落とせるという仕様になっており、繰り返して紙を使う方々に重宝されています。
強度も腕利きの職人の加工技術がふんだんに扱われていますので、通常使用で10年は使える一品です。冒険者のようですので、そうした生活サイクルにも十分耐えられます。」
「で、でもお高いんでしょう?」
「はい。
一枚に付き17500ルピーです。」


高い。
べらぼうに高い。
今は色々な調理器具、ルアーなどですでに85000前後。
持っていたのが約105000ルピー。
一枚買ってしまえばそれで終わりである。
まぁ一枚買えば十分とも思えるが・・・宿代も怪しくなる。(宿入りに3500ルピー。それから一日延長するごとに1000ルピー)
普段ならば宿にこだわる意味はタコゆえにあまり無いが、今は大量の荷物がある。
いったん森に戻るにもあれらの荷物はその辺においておけばすぐに駄目になってしまうだろう。


そうだ、いまさらだけど今着ている服なんかもタコ状態のときにその辺においておいたら他の動物に持っていかれたり、葉っぱせいなので下手したらやたらと美味しかったけど毛が腕に突き刺さりまくった毛虫なんかに食べられるかもしれない。


持っている道具や装備の保存場所が必要だ。
そのための大工道具も買って帰らないといけないのではないか?
これはキツイ。
全部でどれほどの荷物になることやら。


あくまでも犬小屋より大きいくらいの小屋を作る程度だから僕にも出来ると思うが、木材も買っていったほうがいいだろうか?
でももてないだろうな。
いや、しかしエアスラッシュは細かい作業が出来ないから森で木材を作るというのも難しい。
難しいだけで不可能ではないけれど。


とりあえず何をするにしてももう少し冒険者組合のお世話にならないと駄目だ。


「えっとそれじゃあ一枚だけ。」
「ありがとうございます。
では・・・17500ルピー。確かに頂戴しました。」


一枚だけ購入して、紙職人ギルドを後にした。
もう少し・・・もう10枚くらいは欲しいかな。


「明日からお金稼ぎだな・・・いっそのこと王族的な立ち居地の人が盗賊に囲まれてピンチになってくれないだろうか?」




そうしたらそれを助けて、お礼にお金を頼むのに。
早々都合よくは行かないものである。





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