タコのグルメ日記

百合姫

タコが魔法を使うなんて無理があった。

魔法。
それは・・・風を操るものである。
完。




って、ばかぁっ!!
ありえないわ、ほんとありえない。
あれからかなりの月日が・・・具体的に言うと半年は経っている。
半年間、考え付く限りのことを試した。
適当な言葉を唱える・・・ことはできなかったので魔法を使える妄想をしたり、魔力を感じ取れないかの訓練をしてみたり。
瞑想をしたりと色々と試した。
しかし、結果できたのがちょっと風の刃を作るだけ、となんとかして風を使って音を発生、喋れないかの試行錯誤。
あとはご都合よろしく人化とかできないかなぁとか思っていたのだが。


ぜんぜん成果があらわれなかった。
炎の玉。もといファイアボールを使ってみたくてもまるで使えない。
水を発生させたくてもできない。タコなのに。海の生物なのに。でも今は陸上生物か。
瞬間移動や、光を発生なんてのも不可能。
影を操ったり、氷や雷を発生させるというのもできなかった。
唯一できたのが風の刃と発声できたこと。
発声においては大成功である。
余裕で喋れた。が、この世界の言語が理解できないので無意味な代物であることに気づいたのがここ最近。
風の刃。これはそのまま風が対象を切り裂くのだ。
なかなか使える。
よし、この調子でもっと大規模な魔法を!と思って小さな竜巻あたりを発生させようとしたのだが、風の刃を発生させることくらいしかできなかった。
どんなにがんばっても無理だった。
せいぜい、風を体にまとって飛び道具を逸らすくらい。
なんかド派手な魔法は魔力が足りないとかではなく、単純にセンスが無いようで微塵も使える気がしない。
これでチート無双ができると思ったのに。
いや、別にいいんですけどね。
これでも十分便利ですし、狩りには役立ってくれて‐無いけれど!!うまく範囲が絞れずに獲物ごと木々を切り刻んでしまうので木々が倒れ、他の生物に無駄な迷惑をかけてしまうのだ。
さらには自身の位置を知らせることになる。
自身の位置を知らせるわけには行かないので、ろくに使えないのである。
そして肝心の獲物は内臓がでろんと出て、土が付いてせっかくの獲物がまずくなるというデメリットばかりの魔法。
使いづらいことこの上ない。


そうそう都合よく魔法が使える分けないよネ~。
そんなことを身にしみて理解した僕である。


当然、人化ができないとなれば、人と話すこともできず。
精神は人間であるからして、はっきり言って孤独が相当堪え始めた今日この頃です。
ヒッキーだって2チャンネルやオンラインゲームで多少のコミュニケーションはとっているだろう。
寂しい。
なにより侘しい。
ならば寂しさを紛らわすためにペットを飼おうとして羽ウサギを捕まえてみたものの、すぐに逃げられてしまう。
当然である。
こっちは捕食者なのだから。
何もしなければすぐに逃げるに決まってる。
そして、いくら8本の触腕を使おうとさすがに飼育カゴなんていう細かいものは作れなかった。
木を風の刃、もといエアスラッシュと今後は呼ぶが、エアスラッシュで良い感じに木をカットした。
ここまでは良かった。
触腕の先っぽを人間と同じように五指にすることだって気合と根性と年月を使えばできた。
骨なんて無いので、がんばればたいていの形は作れる。
当然、たとえ指の形だけまねても指と同じような動きをするような筋肉まではさすがに存在してないので、それから毎日指を動かすトレーニングをして、指を型作り、動かすための筋肉をつけたまでは良かった。
タコの体、ぱないと思いながらもそこまでは上手くいっていたのである。
ここで大きな問題が発生したのだ。


木材を組み合わせるためのクギがない。
これが一番の問題だった。
いや、言わなくても分かるよ?諸君。
無いならないでやりようはあったろ?といいたいのだろう?


それが無かったのだよ。


まず考えたのがヒモで縛ること。
色々考えたさ。
ギンタ達、狼の尻尾をちぎってそれで縛ろうとか、ツタを持つ植物を探すとか、毛皮を細くまとめて縛ろうとか。ヨロイグモの糸を使おうとか。ゴブリンの住処に何かあるに違いないとゴブリンの集落に盗みに入ったことだってある。
色々考えた。のだけれど。
それぞれ問題があった。


まず尻尾。
普通に腐る。腐って強度が落ち、とてもじゃないけど木材なんて固定できない。
却下である。
次に毛皮。毛皮は柔軟性が高すぎて、きつく縛れない。
きつく縛っても徐々に緩んで、勝手にほどけてしまうのだ。
そしてツタ。
一番、良さげだったのだが、うっそうと生い茂る草花の中には一種たりともツタを持つ植物が存在しなかった。
これだけの植物があって、ツタを持つ植物が一種も無いとは逆に都合が良すぎると思ったけれど無いものは無い。もしかしたら見逃したということもあるが、いまだ見つけたことが無い。
そしてヨロイグモの糸。
やつらは徘徊型のクモである。前世で言うならハエトリグモやアシダカグモのように自ら積極的に獲物を探すタイプ。
巣を作って待ち伏せするタイプのクモではないので糸の回収なんて出来なかった。
では最後の望み、とゴブリンの住処に入って行ったのだがすぐに見つかった。
なんと・・・やつら!
忌々しいことにギンタ達を家畜化して、狩りのパートナーとして扱っていたのである。臭いですぐにばれてしまった。


こっちがペットを飼おうと四苦八苦してる矢先にそんな光景を見せられ、いや、見せ付けられた僕の怒りが分かるだろうか?
集落を叩き潰してやろうか!!と危うくキレかけたものである。
元日本人としてはさすがにそれはどうかと思ったので、もちろん自重した。
寂しい生活によるストレスがどうも精神を荒廃させて行っているようだ。
我ながらキレ易くなっている。
このまますごしていたら精神がやばいことになりそうな気がする。


そんな僕の心境など露知らず。
彼らは「ぷっ、おいおい、ぼっちのタコさんがお通りだぜ。せっかくだ。で迎えてやろう!」、「そうだな。で迎えてやろうぜっ!」、「せめてここに居る間だけでもと一緒にいて寂しさを忘れてもらおう!」とかいいながらこちらをじろじろと見ていた。
ぞろぞろと武器を構えて集落の家から出てくるゴブリン達。
気のせいか『皆』という言葉を強調していた気がする。
こいつら皆、爆発すればいいのに。


僕は泣きながらいつもの住処へと帰って行った。
注*ゴブリンの言葉はいつもどおり適当エキサイト翻訳です。


だがそこで諦める僕ではない。
やつらに目に物を見せてやろうと!
立派なカゴを作って、そこに羽ウサギを突っ込み、それを見せびらかしてやろうと!!
そう考え、諦めずに作ろうとした。
縛れないならパズルのように組み合わせればいいじゃないっ、と!!


確か建築家のテクニックとして木に凹凸を作り、それを組み合わせて建築するという技術があったはず。
クギを一切使わないテクニックである。


さっそくエアスラッシュで‐‐‐




燃えたよ。燃え尽きたよ。真っ白にな・・・
先述したとおりエアスラッシュは細かな制御が利くようなものではなかった。
いや、地味にその技術は向上しているのだが、これでは何年かかるか分かったものじゃない。
余談であるが、この試みがあったからこそ攻撃魔法はエアスラッシュしか使えないということを理解したわけである。


だがっ!!
僕はまだ諦めなかった。
どっかの先生も言っている。
諦めたらそこで試合終了ですよと。


今度は根本から見直してみた。


寂しい。


それはなぜ?


何か他の生物との交流が無いから。


それを解消するにはどうすれば?


ペットを飼う。


それが無理であれば?


人間に会う。でも会話が出来ない。


つまり?


知的生命体に会う。


ゴブリンで良くね?


その手があったかっ!!




と、言うわけで。
ゴブリンを1匹狩ってきた。
木の上からぶら下がり、4~5匹で森を歩いているところを奇襲。
まずは一番後方の一匹を狙った。


通るであろうルートに保護色を使って待機して、待ち伏せをする。
後方の一匹が通りかかった瞬間、一本の触腕で口をふさぎ、もう一本でタコ脚キャノンを首筋に食らわせる。
人型の生物だと弱点が丸分かりで良い。


「っむぐっ!?」


ゴブリンの断末魔は小さく、それをかすかに聞き取った前方の四匹がどうしたのか?と後ろを振り返るがどこには誰も居なかった。
はぐれたのかと考え、彼らはいなくなった一匹を探すが当然見つからない。


僕はしとめた後、しとめた一匹をしっかり掴んで、すぐに木を登ったのである。
タコの立体機動力を舐めないでもらいたい。
彼らがもしも上を見上げればそこにはここ半年でさらに大きくなった胴体だけで1メートルの長さ、幅は約50センチという巨大なタコを発見し、さぞ驚くだろうが、彼らは気づかずに去っていった。
僕も誰かと一緒に出かけて誰かいなくなり、見上げればそこには一緒に出かけた人の死骸を抱えた人ほどの大きなタコがこちらを見つめている。


・・・下手なホラーより怖いと思う。


今回ゴブリンを狩ったのは、言わずもがなちゃんとした目的がある。
前にも話したと思うが、タコは擬態の天才である。
体の色を変えるだけならカメレオンにだって出来るが、他の動物の姿をまねるのはタコの専売特許。
ここまで言えばお分かりだろう。


僕はゴブリンに擬態する!!
もちろんゴブリンの言葉も分からないが、僕には安心安全の適当エキサイト翻訳がある。
空気呼んで適当にグアとかガァとか言っておけば大丈夫だろ。
きっと。


てなわけでゴブリンに擬態するにはゴブリンの姿をしっかり観察する必要がある。
てなわけでゴブリンを一匹、さらったのだ。




もちろん観察が終わった際にはスタッフがおいしくいただきます。









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