セブンスソード

奏せいや

待て、駆はリンボにいるのか?

 話してくれるのか。俺たちは知らないことが多くある。それを教えてくれるなら有難い。

 いったいこの女はなにを知っているのか。

 それが話される。

「最初の人類たるアダムとリリス。その後に作られたイヴ。あなた方はそのアダムとイブの子孫なのです。ですが私は違う」

「違う?」

 改めて彼女を見る。そこにいるのは人間だ。悪魔と契約している異端な存在だとしても人であることに変わりないはず。

「かつてこの宇宙で最も優れた場所、壊れた宇宙で唯一無事を誇った楽園、エデンにて、二人の男女が作られました。それがアダムとリリス。二人はこれからの人類を担うための大いなる使命を与えられていました。ですがリリスは逃げ出したのですよ。その使命を不服としたので。楽園から逃げたリリスの向かった先はあろうことか敵対関係である悪魔の住む次元、魔界。そこで彼女は悪魔と結び子を生んだのです。それこそが」

「まさか」

 彼女は人間だ。だから人類なのは間違いない。

 だが人類は一つだけじゃない。アダムとイヴの間に生まれたものだけじゃなく、リリスと悪魔の間に生まれたもの。

「私たち、リリンなのですよ」

 リリン。それが彼女だというのか。

「我々は同じ人類ですが別の起源を持つ者同士。どちらが正しい人類だったのか、この地上の所有者としてどちらが相応しいのか。その決着を付けねばなりません」

 それは大昔、二つに分かれた人類の決着。それを現代で行おうとしている。

「あなた方イヴンか、それとも我らリリンか。その勝負に打ち勝ち、その後我らは悪魔と共に挑むのですよ、真の敵へとね」

 ジュノアの瞳に熱い意思が宿る。この戦いへと賭ける思い、そしてその先へ馳せる願いが彼女を奮い立たせている。

「この地上とサードグレイトウォーの挑戦権。それは我らリリンのもの。よって、あなた方イヴンへ戦いを申し込みます。デビルズ・ワンはいわばその下準備。本番はこれからなのですよ」

 強い意思。それを感じさせる視線を向ける。その後、

「わたし個人としてはここで戦って差し上げてもよろしいのですが、しかし残念。あなたたちは招かれざる客でありながらも駒としては優秀。よって、デビルズ・ワンに参加される魔卿騎士団の方々へご挨拶に伺いました次第でして。では私はこの辺で。皆様方のご健闘をお祈り申し上げます」

 彼女の周りに赤い揺れが現れ始める。おそらくリンボへと移動するつもりだ。

 それで思い出した。

「待て、駆はリンボにいるのか?」

 ここにいないなら駆はリンボにいるはず。

「彼はこの儀式とは関係ない。巻き込まれただけだ。彼は解放しろ」

「いえ、関係ありますとも」

「? どういうことだ」

 駆が関係している? 一花にさらわれリンボに閉じ込められたのは事実だがそれだけだ。なぜ解放しない?

「彼はもうこの儀式の参加者ですよ。棗駆様はつい先ほど七人目のデビルサモナーとなったのです。デビルズ・ワンへ参加の意向も示されました」

「馬鹿な!」

 駆が? 悪魔召喚師になっただと?

「どうして? なぜ駆が!?」

「彼もまた願いを叶えるためにさ迷う子羊。そのために魂を悪魔に売ったのです」

「いい加減なことを言うな!」

 そんなことあるわけがない!

「あいつは優しいやつだ。その駆が誰かを犠牲にしてまで願いを叶えようとするはずない。俺を!」

 信じられない。駆が悪魔召喚師になるなんて。

「裏切るはずがない!」

 駆は俺を助けてくれた。友達なんだ。それが敵である悪魔召喚師になるはずが。

「ふふふ。ずいぶん彼がデビルサモナーになったことが辛いご様子ですが真実ですよ。この場で信じられずともいずれ分かることでしょう」

「そんな……」

 体から力が抜ける。そのまま崩れ落ちそうだ。

 駆が、悪魔召喚師……? 駆が、俺の敵になったっていうのか?

 気持ちがぐらりと揺れて、胸に穴が空いていくようだ。

「あなた方にはとても大きな魂が宿っております。そのため参加者たちはこぞって狙ってくるでしょう。どうかこのデビルズ・ワンを盛り上げてくださいね」

 揺れが一層激しくなる。このままではジュノアが消えてしまう。

「行かすと思うのかよ!」

 そこで星都が攻める。エンデュラスを取り出し切りかかる。光帝剣の速攻。目にも止まらない速度だ。

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