セブンスソード

奏せいや

81

 決意した。覚悟した。願いが叶うなら、それ以外なにもいらないと。自分の未来も、命も、大切な仲間との絆さえ。

 すべて、そう、すべて。捨てると覚悟した。

 けれど、負けてしまった。

 一花の瞳から涙が零れ出す。うるんだ目で駆を見上げる。

「ごめんね、駆……わたし、がんばったけど……」

 本人を前にして、謝罪しか出てこない。

「これなら駆を救える。あの時できなかったことができる。そう思ったんだけど」

 悔しさと、申し訳なさしかない。

「ごめんね、駆……」

 だけど。

「!」

 駆は顔を大きく振った。謝るのは自分の方だ。自分のせいで、ここまで悲しませて、追い詰めて。

 謝るのは自分の方なのに。

 そんな駆を見つめ、一花はゆっくりと笑みを浮かべる。

「約束、したもんね」

 約束。そう言われ思い出す。

 四人で遊びに出かけたあの日。将来を話し合い、なにになりたいか語り合った時。

 将来。そこでなにがあるか、なにが待っているかは分からない。

 けれど交わした言葉がある。

 不明瞭な未来だけど、変わらないものがあると。

 約束の言葉が、今と過去で重なり合う。

「『私たち、ずっと一緒だからね』」

 あの時の約束を守るため、彼女は命を賭けた。人間を止め、未来を捨てた。

 すべて、駆のためだった。

 あの時の約束を果たすためだけに。

 そう言って、彼女の体は灰になっていく。

「!」

 腕から彼女の重みが消える。目の前から、腕の中から、彼女が消えていく。いなくなってしまう。

 誰よりも大切な人が。

「あああああああああ!」

 駆は叫んだ。大粒の涙を流して。失った悲しみに。心の激痛に。泣いて、泣いて、叫んでいた。

「イ! いぃ! いっ……! チ、ちぃ……! か、ああぁあ!」

 彼女が消えていく。なのに、名前を呼ぶことすら出来ない。

「ああああああ!」

 悔しくて、悲しくて、涙が止まらない。

「彼女は契約により今後永遠の責苦を受けるでしょう。これからずっと。救いのない苦痛を受けるとは、悲しいですねえ」

 そんな駆を見下ろしながらジュノアは淡々と説明していく。

「でも、たった一つだけ彼女を救う方法があります」

 顔を上げる。駆を見るジュノアの表情。笑みすら浮かべ彼女は言う。

「そして、それはすでに君も分かっているはず」

 望みが叶う。どんな願いでも。それは自分のために亡くなった彼女を生き返らせることも。

 悲痛が、後悔が、別のものになっていく。

「では、確認します。棗駆君」

 立ち上がる。

「君は、悪魔召喚師になる覚悟はありますか?」

 涙を拭う。最後の一滴を親指で弾き、悪魔の笑みを浮かべる彼女を見つめる。

 その両目はすでに、決意に満ちていた。

 たとえなにがあろうと構わない。苦しんで、悲しんで、後悔して。それでも願いが叶うなら。

 望むもの。それ以外、なにもいらない。

 駆は、頷いた。

 さあ、進め。悪辣と甘美の道を。

 そこで知れ。己が何者なのかを。
 
 これは、後に『殺戮王』と呼ばれる少年の物語。

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