セブンスソード
79
駆が死んでから一週間後、秋和は生徒会室の会長席に座っていた。他のテーブルには役員たちが座っている。みなが会議をしている中、秋和だけは両肘を立て手の甲に額を乗せていた。
駆が亡くなって一週間、ずっとこの調子だった。
駆が死んだ。ずっとそばにいた彼が。
孤児院で育っていた時からの友人が、大切な仲間が、いなくなってしまったのだ。
何度も泣いた。何度も後悔した。
でも、彼はもう、戻って来ない。
秋和は突然立ち上がった。何事かと役員たちが慌てて振り返る。
秋和は机に乗っている書類を勢いよく両手で押し退ける。何枚もの紙が宙を舞う。
さらに秋和は椅子を引きずると窓際に近づく。役員たちはざわつくがなにも言えない。
秋和は椅子を持ち上げ、窓ガラスを叩き割った。
何度も、何度も、叩き割った。
秋和は泣いていた。そして叫んでいた。
駆が死んだ。ずっとそばにいた彼が。
死んだのだ。その時自分はなにをしていた?
なにが秩序だ、たった一つの理不尽で大切な人を守れないのなら、そんなものなんの価値もないではないか。
秋和は叩いた。窓ガラスを。秋和は壊した、役に立たない秩序を。
秋和は椅子を振り上げる。背中から男子生徒に捕まえられ、さらに男性教諭まで加わっても、暴れることを止めなかった。
あれほど秩序を作ることに心血を注いでいた男が、暴れていた。
駆が死んだ。それから、彼はおかしくなっていた。
駆が死んでから一週間後、千歌の母親はお盆に夕食を乗せて二階に上がっていた。見れば娘の部屋の前には朝食が乗ったお盆が手つかずのまま置いてある。母親は顔を伏せ部屋の前に置いてあるお盆を取り換えた。
「千歌。夕食、置いておくからね」
小声でそう言って一階へと降りていく。そこには父親がおり、目が合うなり母親は顔を横に振る。父親は朝食のお盆を見て落胆する。
千歌の自室。そこに、彼女は電気も点けずベッドの上で座り込んでいた。何日もろくに寝ていないのか、頬はこけ髪はぼさぼさで、目の下にはクマまで出来ていた。
駆が亡くなって一週間、ずっとこの調子だった。
駆が死んだ。ずっとそばにいた彼が。
孤児院で育っていた時からの友人が、大切な仲間が、いなくなってしまったのだ。
何度も泣いた。何度も後悔した。
でも、彼はもう、戻って来ない。
枯れたと思っていた涙が不意に零れ出す。音もなく一滴の涙が頬を流れていった。彼女は拭うこともせず、ただ暗闇の中でじっとしていた。
駆が死んだ。ずっとそばにいた彼が。
死んだのだ。その時自分はなにをしていた?
なにが自由だ、たった一つの理不尽で奪われるのなら、そんなものなんの価値もないではないか。
千歌はじっとしていた。自室で。千歌は捨てた、役に立たない自由を。
あれほど自由を叫んでいた彼女が、ふさぎ込んでいた。
駆が死んだ。それから、彼女はおかしくなっていた。
そして。
駆が死んだ時、一花は絶望の中にいた。
あの日、あの時、交差点で駆の死を目撃した時。
秋和は絶句していた。千歌は口に手を当て驚いていた。
一花は、その場にしゃがみ込んだ。あまりにも突然に訪れた別れに、唖然と目の前の光景を見つめていた。広がっていく赤が目から離れない。
頬を、涙が伝わっていく。
駆の葬式の日、彼女も参列していた。希薄な現実感にまるで悪い夢でも見ているようだ。周りにいる悲しそうな顔をしている人を見て、おかしく思うくらい。ひどく現実感があいまいだ。
けれど、彼女の番が来て駆の遺影の前に立った時、唐突に実感が湧いてくる。
駆が死んだ。ずっとそばにいた彼が。
遺影の中に映る彼の顔。
一花は泣き出した。突然に。大声で。気でも触れたように泣き出した。
「一花ちゃん」
その後、一花は駆の家族に会っていた。参拝に来てくれた方々への挨拶だ。
駆が亡くなって一週間、ずっとこの調子だった。
駆が死んだ。ずっとそばにいた彼が。
孤児院で育っていた時からの友人が、大切な仲間が、いなくなってしまったのだ。
何度も泣いた。何度も後悔した。
でも、彼はもう、戻って来ない。
秋和は突然立ち上がった。何事かと役員たちが慌てて振り返る。
秋和は机に乗っている書類を勢いよく両手で押し退ける。何枚もの紙が宙を舞う。
さらに秋和は椅子を引きずると窓際に近づく。役員たちはざわつくがなにも言えない。
秋和は椅子を持ち上げ、窓ガラスを叩き割った。
何度も、何度も、叩き割った。
秋和は泣いていた。そして叫んでいた。
駆が死んだ。ずっとそばにいた彼が。
死んだのだ。その時自分はなにをしていた?
なにが秩序だ、たった一つの理不尽で大切な人を守れないのなら、そんなものなんの価値もないではないか。
秋和は叩いた。窓ガラスを。秋和は壊した、役に立たない秩序を。
秋和は椅子を振り上げる。背中から男子生徒に捕まえられ、さらに男性教諭まで加わっても、暴れることを止めなかった。
あれほど秩序を作ることに心血を注いでいた男が、暴れていた。
駆が死んだ。それから、彼はおかしくなっていた。
駆が死んでから一週間後、千歌の母親はお盆に夕食を乗せて二階に上がっていた。見れば娘の部屋の前には朝食が乗ったお盆が手つかずのまま置いてある。母親は顔を伏せ部屋の前に置いてあるお盆を取り換えた。
「千歌。夕食、置いておくからね」
小声でそう言って一階へと降りていく。そこには父親がおり、目が合うなり母親は顔を横に振る。父親は朝食のお盆を見て落胆する。
千歌の自室。そこに、彼女は電気も点けずベッドの上で座り込んでいた。何日もろくに寝ていないのか、頬はこけ髪はぼさぼさで、目の下にはクマまで出来ていた。
駆が亡くなって一週間、ずっとこの調子だった。
駆が死んだ。ずっとそばにいた彼が。
孤児院で育っていた時からの友人が、大切な仲間が、いなくなってしまったのだ。
何度も泣いた。何度も後悔した。
でも、彼はもう、戻って来ない。
枯れたと思っていた涙が不意に零れ出す。音もなく一滴の涙が頬を流れていった。彼女は拭うこともせず、ただ暗闇の中でじっとしていた。
駆が死んだ。ずっとそばにいた彼が。
死んだのだ。その時自分はなにをしていた?
なにが自由だ、たった一つの理不尽で奪われるのなら、そんなものなんの価値もないではないか。
千歌はじっとしていた。自室で。千歌は捨てた、役に立たない自由を。
あれほど自由を叫んでいた彼女が、ふさぎ込んでいた。
駆が死んだ。それから、彼女はおかしくなっていた。
そして。
駆が死んだ時、一花は絶望の中にいた。
あの日、あの時、交差点で駆の死を目撃した時。
秋和は絶句していた。千歌は口に手を当て驚いていた。
一花は、その場にしゃがみ込んだ。あまりにも突然に訪れた別れに、唖然と目の前の光景を見つめていた。広がっていく赤が目から離れない。
頬を、涙が伝わっていく。
駆の葬式の日、彼女も参列していた。希薄な現実感にまるで悪い夢でも見ているようだ。周りにいる悲しそうな顔をしている人を見て、おかしく思うくらい。ひどく現実感があいまいだ。
けれど、彼女の番が来て駆の遺影の前に立った時、唐突に実感が湧いてくる。
駆が死んだ。ずっとそばにいた彼が。
遺影の中に映る彼の顔。
一花は泣き出した。突然に。大声で。気でも触れたように泣き出した。
「一花ちゃん」
その後、一花は駆の家族に会っていた。参拝に来てくれた方々への挨拶だ。
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