セブンスソード

奏せいや

78

 そうだ、駆はまだ日曜日の記憶を思い出していない。そしてそのことを言い当てられた。彼女はそのことを知っている。

「どうして日曜の記憶がないのか。そして、あの日なにがあったのか教えましょうか?」

 一花や他の二人も教えてくれなかった事実。あの日なにがあったのか、その真相は当然知りたい。

「止めろ!」

 しかし一花が叫んだ。必死にジュノアが言おうとするのを止める。

 だがジュノアは止めず話し始める。

「あの日、あなたはここにいる三人と遊びに出かけました。ですが」
「止めろ! それ以上言うな!」

 一花は制止する。本当に必死で、なんとしても駆には知らせまいとしている。

 なぜそこまで知られることを避けるのか。

 あの日なにがあったのか。

 ついに、真実が告げられた。

「あなたはトラックに轢かれて、死んだのですよ」
「――――」

 ジュノアから告げられた真相に、駆はただただ茫然とする。自分が死んだ。あの時。トラックに轢かれて。

 抱える一花を見下ろす。彼女が言ったことは本当なのかと。

 一花は顔を伏せ駆の視線から逃げていた。それは答えたくないという姿勢で、肯定の証だった。

「…………」

 愕然とする。全身から力が抜ける。自分が死んだ? すでに死んでいる? 衝撃の事実に悲しむ気持ちも出てこない。

 だがおかしい。彼女は死んだと言うが、現に駆は生きている。

「しかし、死んだのならなぜ自分は生きている、そう思うでしょう? それはですね、そこの一花さんのおかげなんですよ」

 駆は見上げた視線を一花に向ける。一花が? そう思う中彼女は説明を続ける。

「デビルズ・ワン。もっとも多くの生贄を捧げた者だけが願いを叶える儀式。けれど彼女の場合は特殊でして、召喚した悪魔が死者の魂を呼び戻せる力があった。だからすぐに願いが叶えられました。とはいえデビルズ・ワンを勝ち残らなければ当然悪魔は消滅しいずれその効力も切れてしまいますから、どの道勝ち残らなければならなかったですが」

 彼女が召喚した悪魔。ガミジンには別空間を操る能力だけでなく死者を蘇らせる力があった。むしろガミジンにとってはそっちの方がメインだ。

 駆は死んだ。けれどこうして生きているのは、一花のおかげだったのだ。

「実はあなたが死んでから二週間が経っているんですよ」
「?」

 さらにジュノアから衝撃の内容が話される。どういうことか表情で尋ねる。

「けれどあなたは蘇った。それにより時間が巻き戻りました。悪魔との契約は継続したままね。多少複雑でしょうけど、でもそういうこと。重要なのは」

 駆が死んでから本当は二週間経っており、今は彼、彼女らにとって過去なのだ。駆が蘇ったことにより世界は改変された。けれど悪魔との契約はそれで解約されるほど甘くはない。時間が巻き戻ろうと契約は継続。そのため一花、秋和、千歌は当時の記憶を持ったまま現在を生きている。

 なぜ、自分たちが悪魔召喚師になると決めたのか、その理由を覚えたまま。

 彼らが決意したきっかけ。それこそが――

「あなたは死んだのですよ、あの日にね」

 駆が死んだ。それに他ならなかった。

 駆は一花を見る。一花は、悲しそうに駆を見上げていた。

「ごめんね、駆……」

 彼女が背負った後悔と罪悪感が、彼を前にして溢れ出す。

「あの時、私はなにもできなかった……。ただ、見ているだけだった……」

 あの時、駆が交差点で轢かれる時。彼女はそばにいた。その時一度でも振り返っていれば駆は死なずに済んだかもしれない。

 けれど、あんな悲劇を誰が予想できる? 出来るわけがない。彼女はなにも悪くない。
 だとしても。

 思ってしまうのだ。

「ずっと後悔してた。駆を救えなかったこと。苦しんで、悲しんで、後悔して、ずっと泣いていた」

 あの時、なぜ自分は救えなかったのだろうと。

 後悔が、胸を埋め尽くす。

 そう、駆が死んでから二週間、三人は後悔のどん底にいた。

 あの日、あの時、彼が亡くなるところを彼らは目撃してしまった。トラックに轢かれ、助ける間もなく即死した彼の姿を。

 固い絆で結ばれていた。なによりも大切な仲間だった。ずっと一緒だと、どこかで信じていた。

 それは唐突に終わりを告げる。

 それから、三人は変わっていた。

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