セブンスソード

奏せいや

76

「はあああ!」

 一花は空間転移で悪魔の群の前に現れるとニ体の悪魔を掴み握りつぶす。すぐに別の場所に転移して他の悪魔に攻撃していく。

 体が痛む。気力も尽きそうだ。激闘の後の激戦、多大な負担が圧しかかる。

 それでも一花は攻めた。勝つために。願いを叶えるために。並みいる悪魔たちを殲滅していく。

 秋和を倒すならまずは取り巻きを倒してからだ。邪魔をされるというのならさきに潰すまで。体力も残りわずか、あとどれだけ動けるかも分からない。

 一花の猛攻に悪魔が次々と灰となって消えていく。悪魔たちも負けずと攻めてくるが地力が違う。数が多くてもしょせんは下級悪魔、一花の力には及ばない。

 一花は正面にいる悪魔をかかと落としで倒し、前方両側から攻めてくる悪魔を両手の裏拳で吹き飛ばした。

 次の瞬間、すべての悪魔たちが一花めがけ飛びかかってきた。それぞれが羽を広げ、爪を突き立てる。ざっと十体もの悪魔が一花に迫った。

「闇送り!」

 しかし、如何に向こうが数で上回ろうとも一にして無限である空間を前にしては無意味。

 現れる暗黒の深淵が迫り来る悪魔たちを飲み込んでいく。そのまま闇は消え去り悪魔たちは別空間に幽閉される。これぞ攻防一体にして強力無比な空間能力、地獄の大侯爵ガミジンの力だ。

 敵を見事一網打尽にし、一花は秋和めがけ駆け出した。

「終わりだ秋和!」

 もう一花を止める者はなにもない。秋和を守る悪魔はいなくなり、一花は秋和の正面から手を伸ばす。

 これで決まりだ。

 その時。

「がっ、はっ!」

 強烈な痛みが胸部を襲う。なにが起こった? すぐに胸を見ると後ろから腕を貫かれていた。胸から生える腕を見下ろし、一花は振り向く。

 それは、

「千、歌……?」

 そこにいたのは、千歌だった。彼女の右腕が背中から一花の胸を貫通している。

「ごめんなさいね、一花さん」

 千歌は片腕を勢いよく引き抜き付いた血を払う。それにより一花は地面に座り込んだ。

 致命傷だった。痛みに体が動かない。流れていく血が止まらなかった。

「ぐ、う!」

 胸に手を当て痛みに耐えるが一花から血と共に意志がみるみると流れていく。

 絶望的だ。助からない。戦えない。願いは、叶わない。戦意は失っていき、絶望と悲しみに包まれていく。

 そんな彼女を千歌は見下ろしていた。

「私にとって一番の脅威はあなただったの。あなたを倒そうと思えば共闘が一番いいと考えてね」

 そう言う彼女の口調は淡々としている。

 敵を倒すなら一人よりも二人の方が確実だ。攻撃をするという意識的な隙を突き倒す。合理的で、血も涙もない戦法だった。

「ごめんなさい。恨み言なら死んでから聞くわ」

 千歌は抑揚とした口調で話していたが、この時になって目をつぶる。そこに後悔は感じられない。己の行いを恥ずかしがる様子もない。目的のために確実な手段を取ったに過ぎないと静かな姿勢は語っている。

 ただ、小さな寂しさがあった。

「そ、っか……」

 千歌の謝罪に一花は傷口を片手で押さえながらつぶやく。その表情は苦しそうであったが、その次には穏やかなものに変わっていた。

「……ううん」

 口を開くのも辛い。そんな中でも一花は言った。

「なんでだろ、不思議な感じ……。あんなに必死に頑張ってきたのに、いざ、この時を迎えると悔しいとか、出てこない。千歌を、恨む気にもなれない……」

 一花の敗北。それは決定的だ。聖治と戦い、直後に秋和に襲われ、最後に千歌からトドメの一撃を刺された。残念だが一花はもう戦えない。

 あれほど必死に頑張ってきた戦いは、叶わぬまま終わってしまった。

 なのに、一花の胸には願いを阻まれた憎しみは生まれなかった。

「なんでだろうね」

 あんなに必死だったのに、敵である二人を前にして素直に諦めている。

「決まっているさ」

 素直な諦観に不思議がるが、秋和は平常な口調で言った。その理由は言うまでもないと態度で示している。

「道は違えど、俺たちは分かり合っているんだ」

 秋和の言葉に、誰も口を挟まなかった。

 一花は二人の願いを知っている。

 そして二人も一花の願いを知っている。

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