セブンスソード

奏せいや

67

 一花は戦闘態勢だ。いつでも開始できるよう闇を展開し翼を大きく広げている。目は戦意が充満し表情は烈火の気迫を放っている。

 叶えたい願いがあると告げた。

 殺すと宣言した。

 自身を悪魔に変えてまで、今までの人生を捨ててまで、一花はこの儀式にかけている。
 その必死さは、極大の殺意となって聖治に襲いかかる。

 聖治も感じていた、一花から向けられる強烈な敵意を。気を抜けば殺される。まるで逆風でも吹いているかのようなプレッシャーを感じる。

 だが、そんな彼女に送った聖治の返答は、予想外のものだった。

「俺に殺すつもりなんてない」
「? それでどうやって駆を救うつもり?」

 一花は本気で聖治を殺すつもりだ。だが聖治に殺す気なんてない。それが一花には分からなかったが、聖治にしてみれば当然のことだった。

「哀れだな、本当に分からないのか?」

 分からない。疑問符が顔に出る。

 なぜ一花を殺さないのか。その答えを、聖治は言った。

「お前がそばにいなくちゃ、あいつを救うことなんて出来ないんだ!」

 仮に駆が元の日常に戻れても、そこに一花がいないのでは意味がない。駆はずっと悲しんだままだ。

 だから殺さない。これは駆を救うための戦いだ。だから一花を殺すのではない、止めるのだ。

 聖治の言い分に一花は押し黙る。

 対して、聖治は叫んだ。

「勝負だ一花! お前のデビルズ・ワンは、今夜で終わりだ!」

 聖治は片手を突き出す。その先に虹が集う。

「来い、スパーダ!」

 光は剣の形をなし、現れる。

「神剣ホーリーカリス!」

 聖治の右手、そこには七色に輝く剣が握られていた。神性を宿した異能の剣。それを構える。

 両者戦いの構えを取る。七本もの魔法剣を扱う剣士。錬成七剣神の生き残り。

 片や悪魔を使役する悪魔召喚師。さらには悪魔と融合し、己そのものを強化した半魔半人。悪魔が強くても本人は倒しやすいという悪魔召喚師の弱点を克服し、異形の力で立ち塞がる。

 魔卿騎士団団長候補、剣島聖治。

 デビルズ・ワンの魔人、一花。

 両者の戦いの火蓋が、落とされた。

「この戦い、すぐに終わらせる。来い、光帝剣エンデュラス!」

 ホーリーカリスの色が水色に変わる。高速移動を可能とする時計の長針。それが高速で回り出すように聖治は駆ける。

 その速度、瞬間移動すら思わせる移動に一花も内心では驚愕していた。

 だが、驚きの声をあげたのは聖治だった。

「なに!?」

 聖治が一花を切りつける直前、一花の足下の闇が彼女を覆い隠す。直後消えたせいで聖治の攻撃は空振りに終わる。

 その後、距離を置いた場所に影は現れた。そこから一花が出てくる。

「さすがね、一度見てたからなんとかできたけど。複数の能力を持った魔法剣。魔術と武術を融合させて発展した魔術組織、魔卿騎士団、か。なるほど、私たちとは勝手が違う。魔術界でも異端とされるわけね」

 ゆっくりと一花が振り返る。

「あなたは強い。それは分かる。けれど聖治、あんたが挑むのは闇そのもの」
「闇?」

 聖治の眉がつり上がる。思案する聖治をよそに一花は攻勢に移る。

 一花は翼を広げ飛んだ。聖治を見下ろし片手を向ける。

「私は負けない。ガミジンの力、その身で思い知れ!」

 瞬間、聖治の足下に影が広がった。そこから影が立ち上がってくる。

「まずい!」

 この異常事態に直感が危険を告げる。

「グラン!」

 重力を無くしすぐに跳躍する。

 一花が片手を握り込む。

「闇送り」

 さきほどまで聖治がいた場所は大きな影が広がっている。影は校庭のほとんどを覆い全体集会で先生たちが上る台やサッカーのゴールポストの下にまである。

 それらが、影に飲み込まれていった。まるで底なし沼に沈んでいくかのように台が、ゴールポストが消えていく。

 聖治は影が伸びていない校庭に着地するが、もしあのまま立っていれば聖治まで飲み込まれていた。その結果どうなっていたのか。

「ち」

 聖治を取り逃したことに一花が舌打ちする。

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