セブンスソード

奏せいや

58

「私、気ぃ遣ってるのかな。今でも心配なの、あの子のこと」

 背中姿からでも彼女が落ち込んでいるのが分かる。心配からくる心労か、沈みそうな声が伝わってくる。

「また、あの子になにか起こるんじゃないかって」
「止めろ、縁起でもない」
「でも」

 夫からの制止にしかし止まらない。

「ねえ、あなた」

 聞いてみる。どこか憔悴したような、そんなしゃべり方で。

「どうして、駆はしゃべれなくなったと思う?」
「それは……」

 彼女からの質問に口が詰まる。

 答え自体は予想がつく。しかしそれを口にするのは躊躇われた。それに、言ったところで今更どうすることもできないことだ。

「仕方がないだろ」
「でも、左腕のあれは!? あんなの出会った時にはなかった! 相談どころか、見せてもくれないのよ!?」
「止めないか」

 耐えられない不安を叫ぶ。妻は両腕を重ねて台に置くと腕に額を当てた。

「もう、六年になるのに。信用されてないのかな……」

 弱音がこぼれる。それは夫にも分かる心情だ。

「それは分からない。でも、いつか教えてくれるさ。それに、これ以上あいつに嫌なことなどあってたまるか」

 語気が強くなる。自分の息子の人生に思いを寄せ、熱が出る。

「あいつは、幸せにならないとだめなんだ。せめて、これからの人生くらいはな」
「……うん」

 夫の言葉に、母親は小さく頷いた。



 翌日、俺は教室の扉を開け自分の席に座る。昨日は特に問題は起こらなかったけれど香織のことが気がかりだ。俺のせいなんだけど未だにどうすればいいのかはっきりしなくて。彼女は気にしなくていいと言う。でも、本当なんだろうか?

 人に迷惑をかけて生きるということが、果たしていいことなんだろうか。

 それを、今も気にしてる。

 ふと隣を見れば荷物はあるが本人である駆はいない。もしかしてまた屋上だろうか。

「ねえねえ」
「ん?」

 声を掛けられた。見てみれば女の子二人が机の前に立っている。

「剣島君って棗君と仲いいよね」
「え? まあ」
「その、一応伝えておいた方がいいかなって」

 駆のことで? なんだろうか。

「ほら、棗君って喋らないじゃない? でもそれは病気だかららしくて」
「剣島君のこと避けてるわけじゃないよって」
「ああ」

 そういうことか。

「大丈夫、知ってるよ。駆が教えてくれた」
「そうなの?」
「珍しい。棗君が自分から言うなんて」
「そりゃああんた、話したことないからでしょ」
「だって~」

 まあ、そうだよな。俺も教科書を忘れたというきっかけがあったから駆と話したが、それがなければ今でも交流はなかったかもしれないし。

「剣島君と棗君が友達になってくれてよかったよ。なんていうか、二人とも」
「教室に馴染めてない、か?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど!」
「いいよ、分かってる」

 ずいぶん気を遣ってくれているようだけど正直今更だしな。でも嫌じゃない。

「俺は別にいいんだ、自分のせいだし。ただ、駆は違う。駆は優しいしさ、もっと友達がいてもいいんだけど」
 喋れないっていうのはそれだけハードルが高くなるんだろうか。なんていうか、悔しいな。

「そういえばこのクラスじゃないけどよそにはいるよね?」
「そうそう、相川さんでしょ。あと生徒会長と副会長とも仲いいんだよね」
「三人は、どうして駆と友達なんだろうな」

 正直それは疑問だ。生徒会長と副会長の人は知らないが一花と友人というのはかなり違和感がある。どうやったらあの二人が友達になるんだろう。

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