セブンスソード
57
「ッ!」
急いで手を引っ込める。片手を胸の前で掴む。
「んー?」
不審な兄を不思議そうに見上げる妹に駆もすぐに笑みに切り替える。
ポケットに手をいれる。そこからあめ玉を取り出し苺の手のひらに乗せてあげる。緑色のメロン味だ。
「お兄ちゃんありがとーす!」
駆は微笑み、頷いた。
苺はどんぐりを慌てて隠すリスのようにあめ玉をポケットにしまうと再び小さな手を差し出してくる。
「お兄ちゃーん、お兄ちゃーん! ガム食べたい!」
大声が玄関に広がる。
ポケットに手を入れ今度はガムを取り出す。銀紙に包まれたブルーベリー味。それを苺の手の平に乗せる。
「お兄ちゃんありがとーす!」
無邪気に喜ぶ姿が微笑ましい。その後人差し指を口に当て内緒のジャスチャーをする。
「秘密ー! 誰にも言っちゃだめ!」
「こら苺! またお菓子もらってだめでしょう!」
「バレてたー!」
「そんな大声出してたらバレるに決まってるでしょ!」
母親が玄関に現れ苺からお菓子が取り上げられていく。
「奪われたー! くやしーす!」
「もう、その変なしゃべり方やめなさい、恥ずかしい」
苺は母親の手に握られたアメやガムを取り戻そうと手を伸ばすが幼稚園児ではさすがに届かない。無駄な抵抗に情熱を燃やす娘を見て母親は嘆息している。
「駆も。無闇にあげちゃだめでしょ」
母親からの注意に駆も申し訳なさそうに肩を落とす。
「これはまた後でね」
「ううう~!」
妹の悔しそうな眼差しが母の背中に注がれるがそのまま母親は消えてしまった。苺はしょんぼりとうつむいている。
「かなしーす……」
悲しそうだ。
そんな苺の前にしゃがみ込み、彼女の口に人差し指を当てる。
「?」
苺がきょとんとする。
人差し指を当てたまま、もう片方の手でブルーベリー味のガムを取り出した。それをそっと苺に手渡してあげる。
「おお~(小声)」
歓喜! 恍惚! 至福のガム!
人差し指を放し立ち上がる。
「ありがと~す(小声)」
妹からの感謝に嬉しそうに頷き、今度こそ家を出て行く。
外に出れば青空が広がっている。色素の薄い澄んだ青。妹とのやりとりもあって笑みが浮かぶ。
しかし、持ち上がった口元はすぐに下降していた。
これから行く場所。そこに重要な問題が置き去りにされている。それを解決しなければらない。
自分にやれること。できること。それはまったく分からない。
それでも。
一花。
ここで止めてしまったら、彼女のことを諦めてしまう気がして、駆は引き下がろうとは思わなかった。
立ち止まってなんていられない。
やってみなければなにが起きているか分からない。
進め。自分の掛け替えのないもののために。
駆は歩き出した。
友との絆を取り戻すために。
*
駆が学校へ出かけた後、苺は着替えるために部屋にいるためリビングには父と母しかない。
母は台所で食器を洗っている。それも一段落し背後にいる夫に気になっていたことを聞いてみた。
「ねえ、駆のことなんだけど、変じゃなかった?」
「変って?」
妻の質問に夫が振り返る。彼女は食器を洗い終え手を拭いている。
「ううん、なんとなくなんだけど」
その声には元気がない。疲れているように見える。言葉とは裏腹に心情ではかなり気にしているようだ。台所に両手を付け頭を下げる。
急いで手を引っ込める。片手を胸の前で掴む。
「んー?」
不審な兄を不思議そうに見上げる妹に駆もすぐに笑みに切り替える。
ポケットに手をいれる。そこからあめ玉を取り出し苺の手のひらに乗せてあげる。緑色のメロン味だ。
「お兄ちゃんありがとーす!」
駆は微笑み、頷いた。
苺はどんぐりを慌てて隠すリスのようにあめ玉をポケットにしまうと再び小さな手を差し出してくる。
「お兄ちゃーん、お兄ちゃーん! ガム食べたい!」
大声が玄関に広がる。
ポケットに手を入れ今度はガムを取り出す。銀紙に包まれたブルーベリー味。それを苺の手の平に乗せる。
「お兄ちゃんありがとーす!」
無邪気に喜ぶ姿が微笑ましい。その後人差し指を口に当て内緒のジャスチャーをする。
「秘密ー! 誰にも言っちゃだめ!」
「こら苺! またお菓子もらってだめでしょう!」
「バレてたー!」
「そんな大声出してたらバレるに決まってるでしょ!」
母親が玄関に現れ苺からお菓子が取り上げられていく。
「奪われたー! くやしーす!」
「もう、その変なしゃべり方やめなさい、恥ずかしい」
苺は母親の手に握られたアメやガムを取り戻そうと手を伸ばすが幼稚園児ではさすがに届かない。無駄な抵抗に情熱を燃やす娘を見て母親は嘆息している。
「駆も。無闇にあげちゃだめでしょ」
母親からの注意に駆も申し訳なさそうに肩を落とす。
「これはまた後でね」
「ううう~!」
妹の悔しそうな眼差しが母の背中に注がれるがそのまま母親は消えてしまった。苺はしょんぼりとうつむいている。
「かなしーす……」
悲しそうだ。
そんな苺の前にしゃがみ込み、彼女の口に人差し指を当てる。
「?」
苺がきょとんとする。
人差し指を当てたまま、もう片方の手でブルーベリー味のガムを取り出した。それをそっと苺に手渡してあげる。
「おお~(小声)」
歓喜! 恍惚! 至福のガム!
人差し指を放し立ち上がる。
「ありがと~す(小声)」
妹からの感謝に嬉しそうに頷き、今度こそ家を出て行く。
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しかし、持ち上がった口元はすぐに下降していた。
これから行く場所。そこに重要な問題が置き去りにされている。それを解決しなければらない。
自分にやれること。できること。それはまったく分からない。
それでも。
一花。
ここで止めてしまったら、彼女のことを諦めてしまう気がして、駆は引き下がろうとは思わなかった。
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やってみなければなにが起きているか分からない。
進め。自分の掛け替えのないもののために。
駆は歩き出した。
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