セブンスソード
32
「だから殺していいって? だから利用していいって? クズの発想だな」
「ふふふ。クズ? そう、クズか。そうね、それでいいわよ。でもね、じゃあどこの世界にそうじゃない人間がいるって? まるでその他大勢が善良で人間という生き物は素晴らしいみたいな言い分ね」
「そのつもりだが」
「おめでたいわね」
なにも知らないと小馬鹿にするような笑みを浮かべる。
「人は裏切る。自分のためなら他人を平気で売り渡す」
「…………」
「人間なんて、いざとなれば他人を捨てる。そんな生き物よ」
そう言われ、俺の目線は若干下がっていた。
人は裏切る。売り渡す。それは、俺だって知っているからだ。
俺の知る未来。悪魔の侵攻によって生まれた人狩りの連中を思い出す。あれほど醜悪なものは見たことがない。思い出しただけで胸が重くなる。
「知ってるさ」
「嘘ね」
それを知っているから言うが否定されてしまう。普通は知っているなんて思わないだろう。それならそれでいい、証明しようだなんて思わない。しかしだ。
「お前はなにも分かっていない」
だからといって人を決めつけるこいつに言ってやる。
「人には残虐な面もある。救いがたいほどの悪だってある。でも、同時に素晴らしい人たちだっている。自分だって辛いのに、それでも相手を思いやる優しい人だって!」
「…………」
「俺は知っているんだ!」
知っている、人狩りの悪行を。同じ人間を悪魔に売った人間を。
同時に、自分の身を顧みることなく相手を思いやれる人を。
彼女は、地獄みたいなあの場所でも最後まで優しかった。それを、誰だろうと否定はさせない!
「お前は、そういう人たちすらも殺そうとしている。そんなことはさせない、絶対にだ」
こいつが人間にどれだけ絶望してるか知らないが俺はまだ諦めていない。俺がいる限りそんなことはさせない。
「……ふん」
つまらなそうに鼻を鳴らし一花は顔を逸らした。
人の命を奪うことを本当になんとも思わないのか? 普通じゃない。なんでそんな風に思える。なにより、そんなやつがどうして。
彼女を見るとその後ろに彼の姿を見てしまう。しかし俺にはこの二人が結びつかない。
「なぜ、駆にあんなことを言った?」
棗駆。あんなに優しい彼と彼女が友達だとはとても思えなかった。
「お前もあいつの友人なら駆が優しいやつだって知ってるだろ。その駆がお前を友達だと言っていたんだぞ?」
一花が俺を見る。
「なのになんで駆を悲しませることを言ったんだ?」
「別にどうでもいいでしょ」
「どうでもよくない」
「なに熱くなってんの、駆はあんたと関係ないでしょ」
「あるさ」
「なにが?」
「駆は俺の友達だ」
「はあ?」
一花が驚いている。でもそんなに驚くことか?
「友達? あいつの? 嘘でしょ? あいつに友達なんて出来ないわよ」
「本当だ! むしろどうしてそんなこと言うんだ、お前はあいつの友達じゃないのか?」
「…………」
聞くが一花はすぐには答えなかった。少し間を置いている。
「今は違う」
そういえば廊下でも似たようなことを言っていたな。駆は悲しんでいたが彼女にとって駆はもう友達じゃないのか。
「あいつ喋らないでしょ。どうしてか知ってる?」
「病気だと本人から聞いた」
「ふん。あいつそこまで言ったんだ」
俺が知っているのがなんだかつまらなそうだ。
「確かに駆は喋れないかもしれない。だけど誰よりも優しい人だ。俺は駆に助けられた。だから友達になっている。そしてその友達がお前のことを友達だと、いや、家族みたいだと言ったんだ。優しいあいつがそこまで言ったお前が、自分のために人を犠牲にしようって?」
「黙って」
「俺よりも付き合いの長いお前なら駆がどんなやつか知ってるだろ? これ以上あいつを悲しませるような真似は止めろ」
「黙ってッ」
同じ言葉を繰り返す。その声は一度目よりも大きい。
「知ってるわよ、知ってるに決まってるでしょ。あいつがどんなやつかなんて。とことん間抜けなあの馬鹿のこと。そうよ、いったい誰のせいで……」
「…………」
「でもね、そんなの関係ない。私はもう後には退けないの。私は私の願いを叶える。そのために、私は魂を悪魔に売ったのよ」
一花の表情が変わる。それは決意。改めて覚悟を決めた顔だ。
「忠告するわ、これは私たちの戦い。私たちの儀式。それを止めるというのなら遠慮無く叩き潰す。これ以上関わらないで。それと駆にもね。あいつはこれとは関係ない」
彼女の決意は固い。ここでどれだけ言っても止められない。それだけのものを彼女は背負っているんだ。
だけど。
「なら、お前が止めるんだな」
俺だって止めない。ここに生きる人を、そして未来を諦めたりしない。
「フン」
そう言うと一花は背を向け歩き出した。
「さっきも言ったけど予定があるの。ここで終わらせてもらうわよ」
「おい」
「止めたいなら」
足を止める。振り返り彼女の横顔が俺を睨み付ける。
「その時は力づくよ」
そう言って今度こそ一花は去ったいった。
ここには俺だけが残されている。問題はなにも解決していない。分かったことも少ない。だがなにもしないという選択肢は俺にはない。一花がなにかしようとしているのは確かなんだ。
なんとかするんだ、俺が。
まだ見えない脅威に、俺は静かに決意を固めていた。
「ふふふ。クズ? そう、クズか。そうね、それでいいわよ。でもね、じゃあどこの世界にそうじゃない人間がいるって? まるでその他大勢が善良で人間という生き物は素晴らしいみたいな言い分ね」
「そのつもりだが」
「おめでたいわね」
なにも知らないと小馬鹿にするような笑みを浮かべる。
「人は裏切る。自分のためなら他人を平気で売り渡す」
「…………」
「人間なんて、いざとなれば他人を捨てる。そんな生き物よ」
そう言われ、俺の目線は若干下がっていた。
人は裏切る。売り渡す。それは、俺だって知っているからだ。
俺の知る未来。悪魔の侵攻によって生まれた人狩りの連中を思い出す。あれほど醜悪なものは見たことがない。思い出しただけで胸が重くなる。
「知ってるさ」
「嘘ね」
それを知っているから言うが否定されてしまう。普通は知っているなんて思わないだろう。それならそれでいい、証明しようだなんて思わない。しかしだ。
「お前はなにも分かっていない」
だからといって人を決めつけるこいつに言ってやる。
「人には残虐な面もある。救いがたいほどの悪だってある。でも、同時に素晴らしい人たちだっている。自分だって辛いのに、それでも相手を思いやる優しい人だって!」
「…………」
「俺は知っているんだ!」
知っている、人狩りの悪行を。同じ人間を悪魔に売った人間を。
同時に、自分の身を顧みることなく相手を思いやれる人を。
彼女は、地獄みたいなあの場所でも最後まで優しかった。それを、誰だろうと否定はさせない!
「お前は、そういう人たちすらも殺そうとしている。そんなことはさせない、絶対にだ」
こいつが人間にどれだけ絶望してるか知らないが俺はまだ諦めていない。俺がいる限りそんなことはさせない。
「……ふん」
つまらなそうに鼻を鳴らし一花は顔を逸らした。
人の命を奪うことを本当になんとも思わないのか? 普通じゃない。なんでそんな風に思える。なにより、そんなやつがどうして。
彼女を見るとその後ろに彼の姿を見てしまう。しかし俺にはこの二人が結びつかない。
「なぜ、駆にあんなことを言った?」
棗駆。あんなに優しい彼と彼女が友達だとはとても思えなかった。
「お前もあいつの友人なら駆が優しいやつだって知ってるだろ。その駆がお前を友達だと言っていたんだぞ?」
一花が俺を見る。
「なのになんで駆を悲しませることを言ったんだ?」
「別にどうでもいいでしょ」
「どうでもよくない」
「なに熱くなってんの、駆はあんたと関係ないでしょ」
「あるさ」
「なにが?」
「駆は俺の友達だ」
「はあ?」
一花が驚いている。でもそんなに驚くことか?
「友達? あいつの? 嘘でしょ? あいつに友達なんて出来ないわよ」
「本当だ! むしろどうしてそんなこと言うんだ、お前はあいつの友達じゃないのか?」
「…………」
聞くが一花はすぐには答えなかった。少し間を置いている。
「今は違う」
そういえば廊下でも似たようなことを言っていたな。駆は悲しんでいたが彼女にとって駆はもう友達じゃないのか。
「あいつ喋らないでしょ。どうしてか知ってる?」
「病気だと本人から聞いた」
「ふん。あいつそこまで言ったんだ」
俺が知っているのがなんだかつまらなそうだ。
「確かに駆は喋れないかもしれない。だけど誰よりも優しい人だ。俺は駆に助けられた。だから友達になっている。そしてその友達がお前のことを友達だと、いや、家族みたいだと言ったんだ。優しいあいつがそこまで言ったお前が、自分のために人を犠牲にしようって?」
「黙って」
「俺よりも付き合いの長いお前なら駆がどんなやつか知ってるだろ? これ以上あいつを悲しませるような真似は止めろ」
「黙ってッ」
同じ言葉を繰り返す。その声は一度目よりも大きい。
「知ってるわよ、知ってるに決まってるでしょ。あいつがどんなやつかなんて。とことん間抜けなあの馬鹿のこと。そうよ、いったい誰のせいで……」
「…………」
「でもね、そんなの関係ない。私はもう後には退けないの。私は私の願いを叶える。そのために、私は魂を悪魔に売ったのよ」
一花の表情が変わる。それは決意。改めて覚悟を決めた顔だ。
「忠告するわ、これは私たちの戦い。私たちの儀式。それを止めるというのなら遠慮無く叩き潰す。これ以上関わらないで。それと駆にもね。あいつはこれとは関係ない」
彼女の決意は固い。ここでどれだけ言っても止められない。それだけのものを彼女は背負っているんだ。
だけど。
「なら、お前が止めるんだな」
俺だって止めない。ここに生きる人を、そして未来を諦めたりしない。
「フン」
そう言うと一花は背を向け歩き出した。
「さっきも言ったけど予定があるの。ここで終わらせてもらうわよ」
「おい」
「止めたいなら」
足を止める。振り返り彼女の横顔が俺を睨み付ける。
「その時は力づくよ」
そう言って今度こそ一花は去ったいった。
ここには俺だけが残されている。問題はなにも解決していない。分かったことも少ない。だがなにもしないという選択肢は俺にはない。一花がなにかしようとしているのは確かなんだ。
なんとかするんだ、俺が。
まだ見えない脅威に、俺は静かに決意を固めていた。
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