セブンスソード

奏せいや

24

 日は暮れカーテン越しの窓からでも夕日の光が分かる。

 電気の点いていない薄暗い部屋。ベッドと机、可愛らしいぬいぐるみが並ぶ女の子らしい部屋だ。壁に貼られた歌手のポスターにしゃれた雑貨が置いてある。

 そこに一花は壁にもたれていた。考えているのはさきほどしたばかりの戦いのことだ。その場に座り込み初戦の緊張を吐き出す。小さな息が暗闇に漏れる。

 相手は知らない相手だった。たまたま見かけた異能の使い手。身内じゃないのは明かでたたき台としては好都合。自分の手の内を競争相手に知られることもない。やり方は分かった。静かな自信が湧き上がる。

『独断か』
「ガミジン」

 しかし彼の相棒が水を差す。一花は顔を上げるが相変わらず姿は見えない。

『なにを考えている。一人で戦うなど』
「あんたこそなんで止めたのよ、あのままやってれば勝てたでしょ」
『それは早計だ。お前はまだ未熟だ、一花。最後まで敵を侮るな。その油断が隙となり反撃を許せばお前はさらにライフを払うことになっていた』
「別にこれくらい」
『一花』

 戦いは自分が優勢だった。一人で戦ったのにも理由はある。なのに指摘ばかりされ言い返せない不満が溜まる。

『お前らイヴンにとってライフは有限。使えば減り、いずれ尽きる。それは分かっているはずだ』
「知ってるわよ」

 一言自分の言い分でも言ってやりたいが勝手に動いたのは事実なので言い訳も出来ず、あるとすれば少しでも不機嫌を悟られないよう目を瞑るくらいだ。

「あんたには感謝してる。それはほんと。相談もなしにしたのは悪かったわ。ただ、あんたの手を煩わせたくなかっただけ」

 口うるさい相棒だ。言いたいことは分かったからさっさと終わって欲しい。

 それを聞いてこの悪魔はなんと思うだろうか。反省を認めて退いてくれるかさらに言葉を重ねるか。

『一花』

 ため息が出そうになる。

『私はお前の願いを知った。なぜそれを願ったのかも知っている。だからこそお前の願いに応じたのだ』
「それは」

 相棒の言う言葉、それは説教ではなく自分への理解だ。

『命を粗末にするな。それは、お前の願いとは違うはずだ、一花』

 そして心配だった。

 この悪魔は自分の身を案じ、その願いの成就を応援してくれている。

 頼もしき、パートナーなのだ。

「……ふん」

 一花の顔に笑みが浮かぶ。厄介な性格に辟易を、その優しさに感謝を混ぜて。

「まさか悪魔に説法をされるとはね」
『悪魔とていろいろだ。お前たちイヴンとて善人しかいないわけではあるまい』
「それもそうね」

 言えてる。悪魔召喚師になって分かったことがあるが、それは人間だからとか悪魔だからとかで人格を区別出来るわけではないということだ。人間にだって残酷な者はいる。ならば、悪魔にだって慈悲深い者はいるかもしれない。この悪魔とは出会ってまだ久しいが、人よりもよっぽど信用できる。一花はそう感じていた。

「ありがと、ガミジン。つくづくあんたが私のパートナーでよかったわ」
『なりよりだ』

 相棒の思いは受け取った。彼の言うとおりこの願いを叶えるために彼女は戦うことを選んだのだ。

 顔を上げ正面を見る。広がる虚空にまだ見ぬ明日を見て。その暗がりをにらみ付けた。

「勝つわよ、絶対に」

 決意に満ちた瞳。それがそこにはあった。

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