セブンスソード

奏せいや

15

 それはそのまま昼食や下校中の出来事が当てはまる。最近の聖治はずっとそんな調子だ。

「ああ。加えてさっきのあれだ。それで思い出したんだよ」
「思い出したって?」

 香織が聞き返す。

「あいつの症状だよ」
「症状?」
「ああ」

 聖治の症状。そう言われみなが星都の言葉に集中している。聖治の異変の原因とはいったいなんなのか。

 それを答える星都は表情を暗くさせ、その病名を言った。

「PTSD。心的外傷後ストレス障害。未来でだが部下に似たやつがいたのを見たことがある。おそらくだが間違いねえ」
「そんな」

 星都から言われる病名。PTSD。そう言われ香織はショックを受ける。

「PTSDって、精神疾患の一つだよね? でもどうして? セブンスソード中はそんなことなかったのに」

 PTSDは強いストレスを受けることで発症する心の病だ。交通事故や事件で怖い体験をする。戦場で死ぬかもしれないという恐怖を受け続ける。そうしたトラウマがPTSDのきっかけになる。

 聖治はセブンスソードという殺し合いに巻き込まれた。そういう意味では発症してもおかしくないがそれでも彼は普通だった。彼の様子がおかしくなったのはセブンスソードの後だ。

「きっとだが」

 星都にはその心当たりがあるらしく、言葉を置いてから確認するように言い出した。

「俺たちは未来へ行ったよな。2035年じゃない。62年だ。そこであいつはもう一人の自分と出会った。本来の自分とな。その未来にいた聖治はお前を守るために戦っていた。傷ついたお前を守るために一人未来に残って悪魔と戦っていたんだ」

 星都の話にみなが表情を険しくさせていく。

 以前、未来から来て香織をさらっていった悪魔がいた。しかし、それはもう一人の聖治だった。否、むしろ彼こそが本物の剣島聖治だ。

 あの後聖治と香織から話を聞いていたので三人は知っている。

 未来で五本のスパーダを与えられた聖治は香織と二人でロストスパーダを探す旅を続けていた。悪魔の襲撃をかいくぐり、それでも二人は頑張っていた。ロストスパーダを見つけ世界を変える。そのために。

 しかし、それも長くは続かなかった。

 香織は悪魔に襲われ重傷を負ってしまった。治したくてもディンドランはロストスパーダ、治すことはできない。

 そこで聖治は香織の時間をエンデュラスで止めた。さらに魔卿騎士団の施設でホムンクルスを見つけると自分の魂を二つに分け、その半分をホムンクルスに宿し、香織の魂も別のホムンクルスに移し一緒に過去へと送ったのだ。ロストスパーダを未来へと持って帰るために。

 しかし香織の肉体は未来にある。聖治は香織の肉体を守るため未来に残りずっと一人で戦っていたのだ。

「三十年もの間、たった一人でだ」

 いつの日か、二人が帰還しロストスパーダを持ってきてくれると信じながら。

 しかし計画に狂いが生じてしまう。

 過去で目覚めた聖治は記憶がなくセブンスソード中に香織も失ってしまう。そのためセブンスソードは終了しても一向にロストスパーダを未来に持って来なかったのだ。

 仕方がなく分身の魂を頼りに過去へと戻り香織をさらってきた。

 その結果、自分の分身に破れ本人である聖治が負けてしまった。

 それが剣島聖治。ロストスパーダ探求を任された少年の物語だった。

 だが今いる聖治もまた聖治本人だ。分かたれた魂は再び一つになり本物となった。

 とはいえ、本人が戦ってきた三十年もの時間はあまりにも過酷なものだ。

 その時のことを想像し、星都の表情は悲痛に歪んだ。

「いつ襲われるか分からない、そんな恐怖をずっと味わい続けていたんだ。一瞬も気が緩まない、一時も落ち着けない。ずっと悪魔たちからの襲撃に備えていた。それがどれだけ辛いことか、俺が想像する以上の辛さだったと思う。だからあいつは力を求めた。カリギュラの上位能力を使えば心や記憶、そいつが持つ大事なものをすり減らして力に変えることもできる。その結果、悪魔になろうともな。それくらい追い詰められていたんだ。それか、そうなりたかったのかもな」

 未来の聖治が悪魔の姿をしていたのも自我喪失していたのもカリギュラの副作用だ。そのせいで彼は身も心も悪魔になってしまった。

 そうでもしなければいけないほど、彼の戦いは想像を絶するものだったのだ。

「お姉ちゃん、ほんとなの?」

 日向ちゃんが此方に振り返る。

「……カリギュラは減退が基本だけど、段階が上がっていけばそれは吸収になる。自分の心や記憶なんかを代償にして魔力に変換できるのよ。その分力は増すけれど、代わりに心も体も悪魔となっていく。いずれは自分も滅びるわ」
「そんな」

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