セブンスソード
6
その時、内側から聞こえる声があった。かすかに。しかし力強く。
戦え、と。
胸の奥から、あり得ない答えが返ってくる。
戦え。殺せ。全身の血をまき散らせ。
暴力を。
それは錯乱した状態の人間が導き出す自暴自棄なのか。こんな怪物を前にして、戦えなど普通じゃない。返り討ちに遭うのが関の山。
なのに、
なぜ、
こんなにも。
自分の心は、暴力を欲しているのか。
そのとき、怪物の手が止まった。さらに悪魔は駆から目を逸らすとすぐさにどこかへ走り去っていく。
逃げたのか? 助かったのか?
「……はあ……はあ……」
心拍がうるさい。大きなつばを飲み込んだ。
あれはなんだったのか。なぜ消えた。助かったのか、まだなのか。
時間が経つにつれ息は落ち着きを取り戻す。心臓の音もおとなしい。駆はようやく恐怖から解放された。水面から顔を出したような解放感を得る。
それにしても、あの怪物はいったいなんなのか。それに、自分はなにを考えた? 戦え? 馬鹿な。蛮勇を越えて呆れるばかりだ。自殺志願者と変わらない。駆は呆れて額に手を当てる。
「ほう」
そこへ、声が響いた。
すぐさに振り向く。
そこにいたのは白のスーツを着込んだ白髪の老人だった。そして白のタイトスカート姿の金髪の女性もいる。
声を出したのは老人か。背は百八十センチほど。杖を両手で持ち地面に突き立てている。セミロングの白髪はきれいであり、白のスーツは高級品だと一目で分かる品がある。
なにより、老人が漂わせる高貴な雰囲気と精悍な表情はただ者ではない。
強大な存在感を秘めた藍(あい)色の瞳が駆を見つめていた。
その視線に駆は目が離せない。
なぜなのか。あれほど探し回った人間がここに二人もいるというのに、まるで、全然安心できない。親しみがまったく感じられない。
なぜなのか。
この老人が、さきほどの怪物よりも強大に見えるのは。
「陛下、この少年がどうかなさいましたか?」
二十代後半ごろの女性が声をかける。きれいな女性だ。老人の秘書のように背後に控えているがタイトスカートから覗く白い足に長く綺麗な金髪はモデルのようだ。纏う雰囲気はどこか冷たく、赤紫の瞳は冷酷な輝きを発しており人間離れした美しさだ。
老人は女性の問いには答えず、駆を見つめ続ける。
そして口を開く。重く、厳かな声で。
「少年。君の内に巣くうもの。それがもたらすのは破滅か否や」
老人は話す。駆のことを。内に秘めるものを。
「その罪は、力か否や」
老人は言う。それがなにを意味するのか。
「その身に宿す罪業は何者でも救えない。己を犯し、他者を害する悪辣と甘美の猛毒。これから、君には過酷な試練が待ちかまえている。そこで君は選択を迫られるだろう。己と。生まれながらに抱えた罪科(ざいか)が」
駆は目を逸らすことも耳を塞ぐこともできなかった。老人の一字一句が鼓膜と脳をすり抜けて心に届く。
駆は、震えていた。
「裁きの時は近い。そこで、君がどうなるか見届けさせてもらおう」
裁き。その言葉に駆は真に恐怖した。
来ると言われた。ついにその時が。
「君が己に立ち向かう覚悟を持った時、また会おう。その前に」
老人の指に嵌められている指輪が光を発する。それに呼応して隣に怪物が現れた。
四足の獣。虎やライオンほどの大きさをしたそれは背にはワシに似た翼を生やしていた。その怪物が光の玉へと変わり空間に浮遊する。
「これは、私からの贈り物だ」
それが駆の胸へと放たれる。
「ぐっ!」
直後、襲うのは全身を擦り潰す激痛だった。
「ッ! がああああああ!」
叫ぶ。声が自分の意思とは関係なく発せられている。信じられないほどの痛みだ。今まで経験したことのない痛み、痛み、痛み。感覚が痛みで飽和する。
戦え、と。
胸の奥から、あり得ない答えが返ってくる。
戦え。殺せ。全身の血をまき散らせ。
暴力を。
それは錯乱した状態の人間が導き出す自暴自棄なのか。こんな怪物を前にして、戦えなど普通じゃない。返り討ちに遭うのが関の山。
なのに、
なぜ、
こんなにも。
自分の心は、暴力を欲しているのか。
そのとき、怪物の手が止まった。さらに悪魔は駆から目を逸らすとすぐさにどこかへ走り去っていく。
逃げたのか? 助かったのか?
「……はあ……はあ……」
心拍がうるさい。大きなつばを飲み込んだ。
あれはなんだったのか。なぜ消えた。助かったのか、まだなのか。
時間が経つにつれ息は落ち着きを取り戻す。心臓の音もおとなしい。駆はようやく恐怖から解放された。水面から顔を出したような解放感を得る。
それにしても、あの怪物はいったいなんなのか。それに、自分はなにを考えた? 戦え? 馬鹿な。蛮勇を越えて呆れるばかりだ。自殺志願者と変わらない。駆は呆れて額に手を当てる。
「ほう」
そこへ、声が響いた。
すぐさに振り向く。
そこにいたのは白のスーツを着込んだ白髪の老人だった。そして白のタイトスカート姿の金髪の女性もいる。
声を出したのは老人か。背は百八十センチほど。杖を両手で持ち地面に突き立てている。セミロングの白髪はきれいであり、白のスーツは高級品だと一目で分かる品がある。
なにより、老人が漂わせる高貴な雰囲気と精悍な表情はただ者ではない。
強大な存在感を秘めた藍(あい)色の瞳が駆を見つめていた。
その視線に駆は目が離せない。
なぜなのか。あれほど探し回った人間がここに二人もいるというのに、まるで、全然安心できない。親しみがまったく感じられない。
なぜなのか。
この老人が、さきほどの怪物よりも強大に見えるのは。
「陛下、この少年がどうかなさいましたか?」
二十代後半ごろの女性が声をかける。きれいな女性だ。老人の秘書のように背後に控えているがタイトスカートから覗く白い足に長く綺麗な金髪はモデルのようだ。纏う雰囲気はどこか冷たく、赤紫の瞳は冷酷な輝きを発しており人間離れした美しさだ。
老人は女性の問いには答えず、駆を見つめ続ける。
そして口を開く。重く、厳かな声で。
「少年。君の内に巣くうもの。それがもたらすのは破滅か否や」
老人は話す。駆のことを。内に秘めるものを。
「その罪は、力か否や」
老人は言う。それがなにを意味するのか。
「その身に宿す罪業は何者でも救えない。己を犯し、他者を害する悪辣と甘美の猛毒。これから、君には過酷な試練が待ちかまえている。そこで君は選択を迫られるだろう。己と。生まれながらに抱えた罪科(ざいか)が」
駆は目を逸らすことも耳を塞ぐこともできなかった。老人の一字一句が鼓膜と脳をすり抜けて心に届く。
駆は、震えていた。
「裁きの時は近い。そこで、君がどうなるか見届けさせてもらおう」
裁き。その言葉に駆は真に恐怖した。
来ると言われた。ついにその時が。
「君が己に立ち向かう覚悟を持った時、また会おう。その前に」
老人の指に嵌められている指輪が光を発する。それに呼応して隣に怪物が現れた。
四足の獣。虎やライオンほどの大きさをしたそれは背にはワシに似た翼を生やしていた。その怪物が光の玉へと変わり空間に浮遊する。
「これは、私からの贈り物だ」
それが駆の胸へと放たれる。
「ぐっ!」
直後、襲うのは全身を擦り潰す激痛だった。
「ッ! がああああああ!」
叫ぶ。声が自分の意思とは関係なく発せられている。信じられないほどの痛みだ。今まで経験したことのない痛み、痛み、痛み。感覚が痛みで飽和する。
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