セブンスソード

奏せいや

悪魔召喚師編 プロローグ 1

 窓から外を覗けば心地よいほどの青空が広がっている。

 今日は日曜日。学生にとって労働に等しい学校はお休みだ。心ゆくまで眠るもよし。ゲーム三昧に耽るもよし。楽しい一日の始まりではあるが、しかし棗(なつめ)駆(かける)は火でも点けられたように慌てていた。それこそサイレンで起こされた消防士のように急いでベッドから起き上がる。

 今日は友達と遊びに行く約束だ。しかし時計を見れば針が思った以上に傾いている。やばいと自分で自分を急かす。遅刻というのはよくないし、なによりあの幼馴染みを待たせた日にはなにを言れるのか分からない。

 壁に吊してある高校の制服を無視して私服に着替え鏡の前に立ち自分の顔を簡単に確認する。耳まで隠れた黒髪は男子にしてはやや長めだ。前髪も下がっており全体的に丸みのある髪型をしている。服装はジーパンにグレーのパーカーとラフな格好で駆はすぐに家から飛び出し待ち合わせの駅前へと走っていく。

 走る、走る。息が上がって少しだけ休むがすぐに足を動かす。

 そうして待ち合わせ場所のある駅が見えてきた。休日ということもあり駅前の広場は人が多い。待ち合わせスポットの時計塔の下には塔を囲むように人がぐるりと並んでいる。

 そこに、駆を探す女の子はいた。

「駆おそーい!」

 まだ距離がだいぶ離れているのに彼女は大声で急かしてくる。片手を大きく振り彼女の赤い長髪が揺れる。

 駆は彼女へと近寄りすぐに頭を下げる。

「遅れてくるってどういうつもり? あり得ない」

 だが彼女は簡単には許してはくれなさそうだ。

 相川(あいかわ)一花(いちか)。駆とは幼なじみで髪は腰まで届き鮮やかな赤色をしている。快活で気が強く、英語の文字が書かれたカジュアルなTシャツにホットパンツを履いている。首元で光るペンダントが可愛らしい。自分とは正反対の性格の彼女だがこうして一緒に遊びに行くのもひとえに昔からの付き合いがあるからだ。

 駆はなにかと彼女には頭が上がらない。今も遅刻について罵詈雑言の嵐である。

「普通さ、こういうのって男の方が早めに待ってるもんじゃないの? こっちは出かけるのにいろいろ準備やら時間掛かるっていうのにさ。それで待たせるとか何様? どういう思考してたらこんなことできるの?」

 ちなみに遅れてきたのは五分だ。五分でこれだ。もし歩いて来たら刺されていたかもしれない。

「女を待たせるとかほんっと駆はなってないよね。そんなんでこれからどうするつもりよ?」

 彼女の大きな瞳が見上げてくる。身長は駆の方がやや大きい。小さい頃は駆の方が小さかったがそこは男女の成長期というものでいつしか駆が追い越していた。それで悔しがっていた一花の様子はまだ覚えている。

 これが上目遣いならさぞ可愛らしいのだが残念ながら睨み上げてくるのだから目を逸らしたくなる。したらしたてまたひどいことになりそうなのでしなかったが。

「そんなんじゃ一生彼女なんてできないわよ?」

 今度は呆れたようなジトで見てくる。その後腕を組んで語り始める。

「駆顔はいいけどさ~、女の子は一緒にいて楽しかったり安心できる相手が好きなの。あんた無口なんだからただでさえ不利だってのに」

 いつの間にか遅刻の件からしてもいない恋愛相談になっている。そうしたものに関心が低い駆としてはどうしてそんな話になるのか分からない。だが困った顔をしては火に油なので、まともに聞いても仕方がないと聞き流すことにした。彼女の怒った顔をテレビ越しのように見つめる。

「ちょっと聞いてんの!?」

 が、反応がないことに勘が障ったのか怒られてしまう。無視も許されないとは厳しい限りである。

「いい? 次遅刻したら五トントラックと相撲してもらうかんね」

 それは死ぬ。女の子と遊ぶのは命がけだ。

 仕方がないので顔を縦に振る。

「よーし」

 それで気を直した一花は満足げに頷くと歩き出した。

「さ、行きましょ。あいつらはデパートの前で待ってるってさ。きっともう着いてるんじゃない? それにあの二人をいつまでも一緒にしてたらまた口論に巻き込まれるだろうしさ」

 その通りだ。駆は内心で頷き一花の横に並んだ。

 大きなビルがいくつも立っている。休日の開放的な雰囲気が人々には溢れ談笑しながら道を歩く人が目立つ。

「ねえ、駆」

 そんな中、一花が声をかけてきた。

「駆はさ、進路どうするの?」

 進路。そう聞かれた駆は笑って誤魔化した。

「そうだよねー。まだ決まってないか。私もまだ迷っててさ」

 駆の表情から答えを察する。一花は両手を頭の後ろで組み空を見上げた。

「進学か就職か。なんていうか、進学するにしてもやりたいことが見つからないんだよね。いろいろあるじゃん? 学科。どうしよっかな~て」

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