セブンスソード

奏せいや

189

「魔来名、大丈夫か?」

 天黒魔を納刀している魔来名に駆け寄る。勝ったはいいが傷だらけだ、危ない状態に変わりはない。

「なんとかな」

 そうは言うがその表情に余裕はない。深刻そうだ。

「行くぞ」

 魔来名は安定しない足取りで歩き始めた。

「待ってくれ」

 そんな状態で動くなと言いたいがこの男はきっと止めたりしないだろう。案の定俺が呼び止めても魔来名は止まらない。

 自分勝手で、頑固で、人の言うことを聞かない。

 そんな背中に、俺は言っていたんだ。

「ありがとうな」

 初めて魔来名が歩みを止めた。そしてゆっくりと振り返る。

「まだ言ってなかっただろ? 一応、礼は言っておかないといけないと思ってさ」

 魔来名には何度も助けられた。敵同士なのに魔来名は俺ではなく管理人を倒し俺を庇いもしてくれた。その理由は教えてはくれないけれど、俺を助けてくれた事実は変わらない。

 魔来名と出会っていなければ、俺は今頃管理人に殺されていたはずなんだ。

「そうか」

 俺の感謝を聞いてどう思ったのか、魔来名は一度俺を見ると視線を逸らし、そうつぶやいた。

 この男がなにを考えているかなんて分かったためしはない。今もなにを考えているかなんて分からない。

 でもいい。こいつはこういうやつだ、それでいい。そう思えていた。

「それにしてもすごいよな、管理人は今ので全員だろ? それをたった一人で倒すなんてさ。て、ちょっと待て、もしかしてセブンスソードってこれで終わりなんじゃないのか?」

 今更気づいた。連戦続きの管理人戦に気を取られていたが俺の知ってる管理人はこれで全員。これなら逃げ出しても襲われない。セブンスソードは終わったんだ!

「あとはみんなと合流すれば」

 すべてのスパーダが揃う。未来ではこのスパーダが欠けていたから悪魔の侵攻に対抗できなかったけれど、これならなんとかなるはず。

「期待するな」

 が、そんな俺に魔来名は冷たい声で言ってきた。

「どうなるかなどその時になってみなければ分からない。すべてが終わったと浮かれていると足下を掬われるぞ。それに、スパーダは一つにまとめなければ意味がない」

 痛みにひきつる表情の中、その目はまだ戦いを見据えていた。

「一つになるまで、この戦いは終わらない」

 魔来名は最後まで続ける気だ。最後の一つになるまで。この男は自分が残るまで全員を殺す気なのか?

「そんなことにはならないし、させもしない」

 魔来名が俺を見るが、負けじと俺も見る。

「みんなで生き残る。俺はそう決めたんだ。みんなは仲間だ。誰一人死なせないし、それをしようっていうなら俺が止める」

 冷たい瞳が俺を見る。だが興味をなくしたように魔来名は顔を動かした。

「甘いな」
「なんとでも言え。これは絶対だ。これから先どんな問題が起きたって、俺はみんなと一緒に乗り越える」
「スパーダは一つにならなければ力を発揮できない。お前の言ってることは単なる願望だ」
「試してもないのに望みを捨てるなんてするわけないだろ。みんなには手を出させないぞ。そして、あんたも守ってみせる」
「なに?」

 俺は魔来名の隣に立ち腕を取る。その腕を俺の肩に乗せた。俺も魔来名の体に腕を回し腰を掴んだ、身長差があるのでバランスが悪いがないよりはマシだ。

「香織のいるところに行こう。彼女なら傷を癒せる」
「お前」
「いいから黙って歩け。怪我人のくせに、いつまでも強がるなよな。くそ」

 魔来名の体を引っ張る。無理矢理にでも歩かせ俺は二人三脚のように夜の町を歩き始めた。観念したのか魔来名もしぶしぶながら歩き出す。

 それから俺たちは新都を目指し一緒に歩き出した。

 こうして密着して歩いていて実感するがやはり魔来名は弱っている。体がふらつくのをしっかりと支えてやらないといけないし苦しそうな息づかいも聞こえてくる。表面上ではそんな素振りは見せなかったけれど無事ではないんだ。俺は時折顔を盗み見ては心配してしまう。

 歩いている間はずっと無言だった。気が気ではないが管理人がいないのはまだいい。襲われるかもしれないと身構える必要がなくなる。ただ隣にいる魔来名がいつ歩けなくなるか分からない。早く香織に看てもらわないと。それだけが心配だ。

「なあ」

 そこで、魔来名から話しかけてきた。
 意外だった。まさか魔来名から話しかけてくるとは思わなかったし、次の言葉はさらに予想外だった。

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