セブンスソード

奏せいや

182

 俺を庇った? エルターの時もそうだがわざわざなぜ俺を庇う? それほどまで俺に人質としての価値があると踏んでのことなのか? 俺ですら分からないんだ、管理人である半蔵はもっと分からないだろう。なぜなら魔来名は強い。単体なら間違いなく最強だ。そんな男がなぜ人質なんかにこだわる? 慎重なのか臆病なのか。でも魔来名にそんなものがあるか?

 半蔵もそこは分かりかねているらしく珍しく質問している。

「君の体は特別だ。その器は七つの剣と魂を入れる本来の杯となっている。それを君に当てた我々の意図を察してもらいたい」

 だがそんなもの魔来名はお構いなしだ。誰であれ不遜(ふそん)な態度を隠しもしない。

「ふん、お前たちの意図か。器を満たし聖杯とする。それこそがお前らの望む剣聖の復活なんだろうが、くだらん。新しい宗教でも起こすつもりか? そもそも一度死ぬような弱者を生き返らせてどうするつもりだ。再び土に還るだけだろう」
「…………」
「俺の知ったことではないな」
「意外だな。君はこの儀式に理解ある者だと思っていたが」
「お前の知らないところでいろいろあってな」
「では聞くが、今の君はなにを望んでいる?」
「やはりなにも知らんか」
「なに?」

 気迫のある半蔵の顔だが眉間にしわが寄る。

「なにを聞かされて俺たちを受け入れたのか知らんが迂闊だったな。それかそれほどまでに信用できる筋からの贈り物だったのか? 俺の願いは最初から変わっていない。そして、そのためにはお前たちが邪魔となっただけだ」
「なるほど。誘い込まれたというわけか」

 二人の会話を聞いていたが俺は半分も理解できていない。だが最後の意味だけは分かった。

 俺の嘘を見抜いた上で外出させたのは管理人をあぶり出すためだったのか。そしてその管理人を狩るため。

 でもなぜ? 魔来名はなんのために管理人を倒そうとしている? この男の目的はなんなんだ?

「残念だ魔来名。君には期待していたんだが」
「他人に期待を寄せる時点で落ちぶれたということだ、半蔵」
「以後気をつけよう。君へ期待はもうしない」

 そう言うと半蔵の両手にナイフが握られる。指の間に挟まれた計八本のナイフが暗がりでも分かる。対して魔来名も天黒魔が持つ漆黒の刀身を持ち上げた。

 両者が対峙する。今までの追及をしているだけの空気ががらりと変わり、戦場の空気が流れた。

「君に用はないがその体には価値がある。返してもらおうか」
「言われて返すと思うのか? 悠長な問答などしたところで時間の無駄だ。こい。お前も武人なら力を示せ」

 魔来名が構える。半蔵も左手を前に出し反対の手を持ち上げた。左手で防御、右手でいつでも投擲できるよう構えている。見た目だけなら剣道の二刀流のようだ。

 互いににらみ合いが続き機を読み合う。

 そこで先に動いたのは半蔵だった。持ち上げていた腕が消えたかのように振り下ろされる。

 風を切るような半蔵の投擲。さらに左手も動き交互にナイフを発射した。その連続投擲の速度は二丁拳銃を撃つのと変わらない。俺ではついていくのもできない。ましてや見切るなんて不可能だ。

 それを魔来名は防いでいた。腰を落とし被弾面積を狭め、刀と鞘を使い全身をカバーする。わずかな動きで迫り来るナイフを受け止め地面へと落としていた。

 半蔵の八本目を防ぎ終え魔来名は天黒魔を投げつけた。お返しと言わんばかりの投擲が半蔵に迫るがその手にはすでに新たなナイフが握られており片手で防がれてしまう。すぐにナイフを投擲しカウンターをするが魔来名は天黒魔を消すとすぐに手元に出しそのナイフを防いでみせた。

 一瞬で決着がついてもおかしくない激闘の攻防。早業の応酬だった。一つでもミスをしていれば即、死に繋がる戦いがそこにはあった。

 やはり次元が違う。魔来名と管理人の戦いは俺たちがしてきた能力に頼った戦いなんかじゃない。技と経験がある。達人同士の戦い。そんな表現がぴったりとくる。

 だがこれだけの戦いをしていても二人にしてみれば小手調べ。まだ二人は能力を明かしていない。

 本当の勝負はここからのはず。

「やはり惜しいな。これだけの力を持ってしてセブンスソードをふいにするとは」
「必要のないものを捨てることになんの躊躇いがある」
「そうだったな」

 半蔵の両手にはすでに八本のナイフが握られている。いったいどんな手品か能力なのか俺には分からないが残数のない投擲というのは厄介だ。

 さらに半蔵の能力はこれだけじゃない。

「だが、それは君の思い上がりだとすぐに分かる」

 半蔵が再び投擲する。数は一本。速いが直線を描くそれを仕損じる魔来名じゃない。もはやそれが当たり前のように魔来名は天黒魔の刀身で打ち落としていた。

「んッ」

 その魔来名に苦しげな声が漏れた。見れば背中にナイフが突き刺さっている。

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