セブンスソード
176
口では笑っているが苛立っているのが分かる。対して魔来名に動じている様子はない。
それどころか鼻で笑っていた。
「思い上がるだと? 滑稽だな。団長として君臨していた剣聖グレゴリウス。その座を継ぐどころか足下にも及ばない分際で他人を見下す余裕があることだけがお前の取り柄だ、エルター」
「貴様ぁ……」
挑発に挑発で返す余裕。なんなんだこいつは。
魔来名は強い。それは二度戦ったから分かる。俺たちは三人がかりでもこの男を倒すどころか返り討ちにされたんだ。この男の強さはスパーダでもトップクラスだ。
だが、その魔来名でも相手はあの管理人だ。エルターの言った通り一本の状態で倒せるような相手じゃない。それではセブンスソードが成立しない。
それはこの男だって分かっているはずなのに、なぜそこまで強気で出れるんだ。
「虫が私を侮辱するか」
「ふっ、いい顔だ。お前もセブンスソードには否定的な側だろう。いいぞ、こい。遊んでやる」
「ふん」
魔来名の挑発におもしろくなさそうにエルターが鼻を鳴らす。その表情にはさきほどの笑みはなく浮かべているのは殺気とともに放たれる強烈な視線だ。
「待て魔来名、そいつの能力は」
今にも戦いが始まりそうだ。だがあまりにも危険過ぎる。
「黙ってろ」
なのだが、魔来名は背中越しにそう言ってきた。
「お前の手など借りずとも十分だ」
なぜそこまで自信があるんだ。魔来名は知らないが相手は絶対命中の使い手だぞ。剣と弓じゃ相性が悪すぎる。エルターが矢を使うのは見てて知っているはず。
それでもなお、魔来名に臆する様子は見られない。
「そう、残念ね魔来名。あなたはどうやら我々を過小評価しているみたい。その認識を訂正する必要があるわ。それかそのまま間引きしてしまうかもね」
「御託はいい。合図がなければ殺し合いもできんのか?」
瞬間だった。
エルターは矢を発射した。一切の予備動作のない早業。どんな武器でも撃つには構えがいる。それを省略した攻撃。俺に使っていたお遊びのような射出じゃない、本気の攻撃だ。
だが魔来名をそれに応じていた。天黒魔を鞘から抜き矢を打ち落とす。完全に見切っていた。
いや、それにしても早すぎる。魔来名は間違いなくエルターが矢を出すよりも先に動いていた。
察知したのか? エルターの気配や目線から発射するタイミングと照準を推測し、先に迎撃行動に移っていたって? そんな馬鹿な!
だが安心するのは早い、エルターには絶対命中がある。
魔来名が弾いた矢が中を泳ぐ。くるくると回る矢だが急に魔来名へと先を向け迫ってきた。
「ん!?」
それを見逃さない魔来名だが天黒魔は振り抜いている。代わりに鞘で受け止めた。矢は再度宙を回る。
しかし追撃は終わらない。鞘で弾かれてもなお矢は勢いを取り戻し魔来名を襲う。それは獲物を執拗に狙う猟犬のようだ。
魔来名は三度目の襲撃に体を反らして回避する。しかしそれに合わせるように矢は軌道を変えた。
ついに矢が命中する。肩に矢を受けた魔来名から小さく声が漏れた。
「ッ」
刺さった矢を睨む。矢は光の粒子へと還り消えていくが傷跡はそのまま魔来名に刻まれる。魔来名は傷跡をしばらく見つめてからエルターを見た。
「遠隔操作……いや、それなら二度も防がれる必要がない。直前で軌道を変えれば済むだけだ。にも関わらず繰り返し追撃を行い回避行動には追跡までしてきた。なるほど、どうやらお前の攻撃は防ごうがかわそうが意味がないらしい」
「察しがいいのね」
緊張が張りつめる。いつ戦況が動き出してもおかしくない雰囲気の中で会話が行われている。
「その洞察力に関してはさすがだと言いたいけれど、その力をもっと前に発揮すべきだったわね」
エルターの絶対命中は防げない。放たれたが最後当たるという結果に収束する。
「因果律を操作することによる絶対命中。防御も回避も防ぐこと叶わず、結果は必然、死あるのみ」
相手の防御を無視した一方的な攻撃。対策もあったものじゃない。そうした過程に意味などない。言ってしまえばシュートを打てば必ずゴールが決まるサッカーゲーム。不利なのは言うまでもない。
「ふ、ふっふっふ、はっはっはっは!」
そんな圧倒的に不利な状況で、なぜかこの男は笑っていた。
「死あるのみ、だと? 笑わせるなエルター。今のが一番利いたぞ」
どこにそんな余裕があるんだ。正気か?
「お前の能力は確かに有用だが勘違いしているな。お前は自分が思っているよりも遙かに弱い」
「血を流しておいてよくほざく」
「事実だ。お前は弱者だ、根底からな。いいかエルター、戦闘とはすなわち殺し合い。相手の命を先に取ってこそ勝利へ繋がる。だというのに、お前の目的は動く的に当てるだけ。それで満足するような小心者だ。必中ではなく必殺であるべきだったな。確かなことが二つある。お前の矢が俺に当たったこと、そして未だに俺が生きている事実だ。ついでに未来についても語ってやる」
それどころか鼻で笑っていた。
「思い上がるだと? 滑稽だな。団長として君臨していた剣聖グレゴリウス。その座を継ぐどころか足下にも及ばない分際で他人を見下す余裕があることだけがお前の取り柄だ、エルター」
「貴様ぁ……」
挑発に挑発で返す余裕。なんなんだこいつは。
魔来名は強い。それは二度戦ったから分かる。俺たちは三人がかりでもこの男を倒すどころか返り討ちにされたんだ。この男の強さはスパーダでもトップクラスだ。
だが、その魔来名でも相手はあの管理人だ。エルターの言った通り一本の状態で倒せるような相手じゃない。それではセブンスソードが成立しない。
それはこの男だって分かっているはずなのに、なぜそこまで強気で出れるんだ。
「虫が私を侮辱するか」
「ふっ、いい顔だ。お前もセブンスソードには否定的な側だろう。いいぞ、こい。遊んでやる」
「ふん」
魔来名の挑発におもしろくなさそうにエルターが鼻を鳴らす。その表情にはさきほどの笑みはなく浮かべているのは殺気とともに放たれる強烈な視線だ。
「待て魔来名、そいつの能力は」
今にも戦いが始まりそうだ。だがあまりにも危険過ぎる。
「黙ってろ」
なのだが、魔来名は背中越しにそう言ってきた。
「お前の手など借りずとも十分だ」
なぜそこまで自信があるんだ。魔来名は知らないが相手は絶対命中の使い手だぞ。剣と弓じゃ相性が悪すぎる。エルターが矢を使うのは見てて知っているはず。
それでもなお、魔来名に臆する様子は見られない。
「そう、残念ね魔来名。あなたはどうやら我々を過小評価しているみたい。その認識を訂正する必要があるわ。それかそのまま間引きしてしまうかもね」
「御託はいい。合図がなければ殺し合いもできんのか?」
瞬間だった。
エルターは矢を発射した。一切の予備動作のない早業。どんな武器でも撃つには構えがいる。それを省略した攻撃。俺に使っていたお遊びのような射出じゃない、本気の攻撃だ。
だが魔来名をそれに応じていた。天黒魔を鞘から抜き矢を打ち落とす。完全に見切っていた。
いや、それにしても早すぎる。魔来名は間違いなくエルターが矢を出すよりも先に動いていた。
察知したのか? エルターの気配や目線から発射するタイミングと照準を推測し、先に迎撃行動に移っていたって? そんな馬鹿な!
だが安心するのは早い、エルターには絶対命中がある。
魔来名が弾いた矢が中を泳ぐ。くるくると回る矢だが急に魔来名へと先を向け迫ってきた。
「ん!?」
それを見逃さない魔来名だが天黒魔は振り抜いている。代わりに鞘で受け止めた。矢は再度宙を回る。
しかし追撃は終わらない。鞘で弾かれてもなお矢は勢いを取り戻し魔来名を襲う。それは獲物を執拗に狙う猟犬のようだ。
魔来名は三度目の襲撃に体を反らして回避する。しかしそれに合わせるように矢は軌道を変えた。
ついに矢が命中する。肩に矢を受けた魔来名から小さく声が漏れた。
「ッ」
刺さった矢を睨む。矢は光の粒子へと還り消えていくが傷跡はそのまま魔来名に刻まれる。魔来名は傷跡をしばらく見つめてからエルターを見た。
「遠隔操作……いや、それなら二度も防がれる必要がない。直前で軌道を変えれば済むだけだ。にも関わらず繰り返し追撃を行い回避行動には追跡までしてきた。なるほど、どうやらお前の攻撃は防ごうがかわそうが意味がないらしい」
「察しがいいのね」
緊張が張りつめる。いつ戦況が動き出してもおかしくない雰囲気の中で会話が行われている。
「その洞察力に関してはさすがだと言いたいけれど、その力をもっと前に発揮すべきだったわね」
エルターの絶対命中は防げない。放たれたが最後当たるという結果に収束する。
「因果律を操作することによる絶対命中。防御も回避も防ぐこと叶わず、結果は必然、死あるのみ」
相手の防御を無視した一方的な攻撃。対策もあったものじゃない。そうした過程に意味などない。言ってしまえばシュートを打てば必ずゴールが決まるサッカーゲーム。不利なのは言うまでもない。
「ふ、ふっふっふ、はっはっはっは!」
そんな圧倒的に不利な状況で、なぜかこの男は笑っていた。
「死あるのみ、だと? 笑わせるなエルター。今のが一番利いたぞ」
どこにそんな余裕があるんだ。正気か?
「お前の能力は確かに有用だが勘違いしているな。お前は自分が思っているよりも遙かに弱い」
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「事実だ。お前は弱者だ、根底からな。いいかエルター、戦闘とはすなわち殺し合い。相手の命を先に取ってこそ勝利へ繋がる。だというのに、お前の目的は動く的に当てるだけ。それで満足するような小心者だ。必中ではなく必殺であるべきだったな。確かなことが二つある。お前の矢が俺に当たったこと、そして未だに俺が生きている事実だ。ついでに未来についても語ってやる」
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