セブンスソード

奏せいや

173 第十章 約束

 決意と覚悟。これまでの旅でいったい何回この言葉を胸に抱いただろう。困難な目に遭う度にさまざまな形でそれを抱いてきた。

 けれど、今回ほど使命感に燃える時はなかった。

 俺は未来を知った。そこで起きている悲惨な現状を肌で感じ多くの思いを知った。そこに生きる仲間たちや亡くなった仲間たちの思いがバトンとなって今の俺がいる。その思いを俺が届けなくちゃならないんだ。

 平和な世界というゴールに向かって。

 そのためにはこの時代でセブンスソードを完成させなくちゃならない。魔堂魔来名。あの男を倒して。

 絶対に達成してみせる。そう強く思いながら俺は目を覚ましていた。

「ここは」

 いつもどこで目を覚ますかはその時になってみないと分からないからな。今回はいったいどこなのか。

「え?」

 寝起きのぼんやりとした意識で周りを見渡す。そこにある光景に俺は急いで立ち上がった。

「ここは」

 俺は道路の真ん中で寝っていたらしく周りには古い建物が並んでいる。ビルが並ぶようなそんな都会の街じゃない、打ち捨てられたような廃墟がいくつもあって夜の街に俺はぽつんと立っていた。他には誰もいない。夜だとしても静か過ぎる。街灯すらなく月明かりの光だけが街を照らしている。

「まさか、失敗したのか!?」

 ここはまだ2035年で悪魔に滅ぼされた後……?

 目の前が真っ暗になる。

「あれは」

 だがある看板が目に入る。

『水戸漁港ここを直進』

 そこには矢印付きで漁港の行き先を案内していた。

「水戸漁港って」

 たしか水戸市を代表する産業の一つだった場所だ。都市開発の影響もあってかなり漁業人口が減ったためゴーストタウンになったと聞いた。そういえば周りにも昔の民家が目立つ。

 俺は歩き出し視界が開けた場所に出た。そこから街を見渡せば遠くに水戸市の中心部が見える。街の光だ、人がいる証拠だ!

「ふぅー」

 ちょっと焦った、始まって早々ゲームオーバーなんて洒落にならない。毎度のこととはいえ目覚めるこの時は慣れないな。というか携帯はどうなんだ?

 俺はポケットに手を入れ引っ張り出す。画面を見れば六月一四日。セブンスソードのあの日だ。年代も確認するが二〇一九年。よかった。とりあえず成功のようだな。

 胸をなで下ろす。だがいつまでも安心していられない。戻って来れたのは喜ばしいことだが目的を達成できたわけじゃないんだ。

 とりあえず街に向かおう。ここにいても仕方がないしみんなと合流しないと。まさか、もうセブンスソードが始まっていて早まったことになっていないだろうな。それか魔来名がすでに。くそ! なんでよりにもよって今回はこんな辺鄙な場所でリスポーンなんだ!

 建物に挟まれた道を走る。いつ到着できる? 道が分からん。とりあえず道なりに走るしかない。

「これは驚いたわ」

 その時、どこからか女の声が聞こえてきた。

「まさかこんなところまで逃げてきた者がいるなんて」

 上から聞こえる。廃墟となった三階建ての屋上、満月が見える空に一人の影が立っている。

 外套の端を夜風に揺らし、黒いフード服がそこにいた。

「魔卿騎士団!?」
「あら、知っているの。ならあいつらちゃんと仕事はしているようね」

 そう言うと彼女は柵を軽々飛び越え正面に着地した。ずどんという重い音を立てるが平然としている。

「けれど逃亡を見逃すなんて勤勉とは言えないわね。ロハネスあたりかしら。まったく」

 彼女はやれやれと顔を振っている。

 やはり魔卿騎士団、それも俺の知らない相手だ。声からして二十代か三十代ほどでロハネスたちと比べるとシルエットが細い。くびれもあるし服の上からでも胸の膨らみが分かる。

 まさかこのタイミングで会うなんて。まずい。ここで負けるわけにはいかないのに。

「俺をどうするつもりだ」
「どうする? 分かってるはずよ」

 ふっと女が笑う。まるで物わかりの悪い子供を笑う様そのものだ。

「逃亡すれば処刑される。分かっていたはずでしょう?」

 どこか妖艶な雰囲気を漂わせる。蠱惑的な声で殺害を宣言してくる。

 くそ、どうすればいい。戦うか? いや、今の状態で管理人を相手に勝てるはずがない。なんとかして逃げないと。

「ち!」

 俺は走った。相手に背を向け建物の角を曲がる。

「あらあら。かくれんぼ? それともうさぎ狩りかしら」

 まずい、まずい、まずい! 

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