セブンスソード

奏せいや

171

「見逃すとでも?」
「ふん」

 次元が違う。荷が重いなんて話じゃない、なにが起こったのかすら分からないんだぞ。

「心を持たぬくせに、なぜそこまでする」
「心から生まれる強い意思は時に魂にまで刻まれる。それが分からぬ卿(けい)ではあるまい」

 会話をいているだけなのに、二人が話すと声にまで重圧を感じてしまう。

「相手を見くびり手を抜くのが卿の悪いくせだ、ハードライト卿」
「ふん。魔卿騎士団こそがこの世界を統べ、救済するに相応しい。その大儀に比べればそれ以外のものなどみな等しく矮小に過ぎん」
「卿にその名を語る資格はない」
「ふ……、こちらの台詞だ」

 会話が終わる。静寂な空気の中で二人の戦意が静かに高まっていく。

「立つがいい」

 言われ、俺はまだ自分が座り込んでいることを思い出した。すぐに立ち上がる。

 目の前にはあの時の男がいる。普通に考えればいろいろ聞かなくちゃいけないことがあるはずなのに、唖然としていたまったく浮かばない。

 そんな俺に、男は静かに聞いてきた。

「あれから君は多くの旅を巡ってきた。そこには多くの困難や悲劇があっただろう。それでもまだ君は旅を続けるか?」

 男が聞いてくる、俺に剣と使命を授けた男が。

 俺に、まだその旅を続ける意思があるのかを。

「その意思は、どこに向かっている?」

 あれから多くの世界を巡ってきた。辛いこと、苦しいこと、悲しいこと、たくさんあった。二度とあんな目には遭いたくないって思う。

 だけど、そんな思いがちっぽけに思えるほどの強い思いが俺の中にはある。

「そんなの、決まってる」

 今も、胸の中で燃えている。

 彼の背中に向かって、俺は叫ぶように言う。

「俺の心は、いつだって仲間たちと共にある! 一緒に笑える未来に向かっているんだ! 諦めたりなんかしない。俺の旅は、これからだ!」

 こんな世界を変えてみせるって、そう誓って俺は旅を始めたんだ。そしてその目的はまだ果たされていない。

 旅はまだ終わらない。こんなところで終われない。みんなの思いと共に、俺はこの世界を変えてみせる。

「よろしい」

 俺の答えに男は静かに応えた。

「では、往くがいい。苦難と辛苦のその果てに、君は己の答えを知るがいい」

 男の言葉に俺は力強く頷いた。

「往け」 

 走った。男の隣を通り昇降口へと向かい全力で走っていく。

 瞬間、この場を再び突風が襲った。

 姿が見えない。音が聞こえたかと思うとまた別の場所で聞こえてくる。なんの前触れもなく地面が砕け飛び散った。走る途中、突如頬を風に殴られる。きっとハードライトと呼ばれていたあの男が切りかかり、男がそれを防いだんだろう。その時の余波が頬にぶつかる。歩調が乱れたがなんとか体勢を整え走り続けた。

 予測なんてできない。そんな死地を踏破し俺はなんとか校舎へと入ることができた。

 校舎の中は静かだ。外から聞こえる爆発じみた音も遠ざかっていく。俺は必死に廊下を走り教室へ向かっていく。

「ハア! ハア!」

 息が荒い。体が重くて喉が痛い。

 でも、そんなの気にならなかった。

 走れ、走れ、走れ! もう、二度と止まらない。みんなの思いが溶けて一つになる。

 世界を変える。人類を救う。

 星都、日向ちゃん。力也、此方。この時代に生きる人々と俺を守るために命まで張ってくれた女の子の思い。

 それだけじゃない。

 香織。

 俺を守ってくれた。死んでなお、その意思は俺と繋がっている。みんなの思いが俺の中で生きている。

 絶対に、諦めたりしない!

 俺は廊下を走るがついに自分の教室が見えてきた。勢いよく扉を開け中へと入る。

 その光景に、俺はまたも気を取られることになった。

『未来へようこそ、聖治』

 この教室だけカーテンで閉められ、中はまるで誕生日パーティのように飾り付けがされていた。丸めた紙をつなぎ合わせた鎖が天井や壁に繋がって、黒板には大きな文字で歓迎の言葉が書かれている。さらに星都や力也、日向ちゃんや此方の似顔絵まで描かれていた。保育園かここは。

「は、はは……」

 その光景に、さっきまであんなにも燃えていた気持ちが拍子抜けしていった。

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