セブンスソード

奏せいや

170

「一つを奪えば完成することもないと楽観したが、そのつけを十六年後に払うことになるとはな。だがこれで終わりだ」

 男がディンドランを振り上げる。桃色の刀身が頭上高く掲げられる。その光景から目が離せない。

 男は首めがけ、ディンドランを振り下ろした。

 桃色の刀身が首に向かって軌道を描いていく。

 それが、突如として方向を変え地面に突き刺さった。

「なに?」
「…………?」

 なんだ? どうして軌道を変えた? 

 男はディンドランを持ち上げようとしているが抜けないのか手こずっている。

 さらにディンドランの刀身からは光が漏れていたがその輝きがなくなっていった。まさか。

「香織?」

 もしかして、お前なのか? 

 スパーダはその人の魂そのものだ。スパーダを手に入れたから俺は香織の記憶を思い出せた。ディンドランは香織でもあるんだ。

 まさか、俺を庇ってくれたのか? スパーダになってなお。

 香織……!

「死してなお抗うか。セブンスハートに選ばれるだけはある」

 ディンドランの輝きが消えたことで回復がなくなりカリギュラの減衰が有効になる。男はディンドランを消すと舌打ちした。

「グラン!」

 俺はグランを消し再度空間に召喚する。グランを宙で操り両腕を縛る柱を破壊した。

「香織を放せ!」

 カリギュラとグランで切りかかる。男は高速移動で後退し空振りに終わってしまう。

 絶対に勝つんだ。絶対に勝って、香織を救出する!

「ふん」

 カリギュラは有効なんだ。持久戦にもっていけばそれだけ優位になる。なんとか時間を稼いでいけば俺にだって勝機はある。

 男は大剣の形を普通の剣の形に変えた。

「お前のような者に本気など出したくはなかったが」

 男が腕を横に向けたまま持ち上げていく。緩慢な動作なのに俺の危機感が激しい勢いで警鐘を鳴らしていく。

 そもそもとして、こいつが自在に光を操り、自身もまた光であるというのなら、こいつは光速で移動ができるということだ。

 そんな相手に、どうやって勝てる? 力とか、異能とか、そんなの関係ない。

 先手必勝。相手になにもさせないまま、目にも止まらぬ速さで相手を絶つだけ。

 多彩な技に気を取られていた。完璧なまでのステータスに見落としていた。

 こいつで最も警戒しなければいけないのは、その速度なんだ。

 それは俺の認識の外。知覚すら許されない超次元の戦い。

 だから、直後起こった現象に俺はただ唖然となるだけだった。

 俺の目の前には光の剣で切りつける白い男と、それを防ぐ黒いフード服の姿があった。

 魔卿騎士団の黒い服。その背中が俺の前に立つ。ロハネスや半蔵じゃない。あの二人は倒されたしそもそも光速に対応できない。

 誰だ? 白い男の全力を防ぐなんて。

「そこまでにしてもらおうか、ハードライト卿(きょう)」
「あんたは!?」

 その聞き覚えのある声に思わず声がもれる。

 この時代、俺に五つのスパーダと使命を与えた、あの時の!

「貴様」

 黒いフードを被った男の手には白い男と同じように赤い光の剣が握られていた。それで白い男の白剣を受け止めている。

「死んでなお我らの邪魔をするか」
「それはこちらの台詞だ。あなた方の計画通りにさせるわけにはいかない」

 白い男が下がる。間合いを取り二人がにらみ合っている。

「行くがいい」
「え」

 背中越しに話しかけられる。驚きっぱなしですぐにまともな反応ができなかった。

「彼の相手は今の君では荷が重い。君は君の使命を果たすがいい」
「逃がすと思うか?」

 白い男の言葉の後、この場を爆発のような突風が襲った。

「うわあ!」

 あまりの風圧にその場に尻餅をつく。いきなりのことで踏みとどまることもできなかった。俺は前を見るが驚愕する。

「な」

 さきほどまでなかった傷が地面や壁のいたるところにできていた。まるで嵐が過ぎ去った現場のようだ。
 今の一瞬で、なにが起こった? いや、何回斬り合ったんだ?

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