セブンスソード

奏せいや

168

 日向ちゃんは俺の前に立った。ミリオットで肩を叩き揚々と目の前の仮面男に話す。

「私ヘビとかトカゲとかマジムリなんですけど。どっか行くか死んでくれない?」
「ずいぶん口の悪い女だな」

 仮面男も立ち上がる。不意打ちをくらったものの目立った傷はない。腕を切られてもこうして動いているし生命力がやはり人間とは大きく違う。

「使命あってここにいる。退くわけにはいかん」
「逃げないの? 別に戦いたいならそれでもいいけど、ボコボコだよ?」

 仮面男の戦意もすごいが日向ちゃんも負けていない。自信に溢れ堂々としている。

「腕を失った槍なんてできる範囲だいぶ狭いでしょ。言っておくけど手加減なんてしないし必ずぶち殺すから」

 なんか、すげー心強いな。

「ん?」

 その時遠くの空から音が聞こえてきた。見れば黒い霧のようなものが浮かんでいる。

「いや、違う」

 あれは、悪魔の群だ。それに十や二十じゃない。百ちかくいるぞ!

「ち」

 日向ちゃんが舌打ちする。さっき大部隊を足止めしていたと言っていたがもしかしてあれのことか?

「しつこいのは嫌なんですけど!」

 ミリオットの刀身に光が集う。日向ちゃんは振り返りミリオットの先を悪魔の群に向け撃ち放った。

「ミリオット!」

 白い線が空に向かって伸びていく。命中したミリオットの光によっていくつもの悪魔が落ちていくが残りは散開してこっちに向かってくる。

「日向ちゃん前!」

 さらに敵は上空だけじゃない。

 仮面男は日向ちゃんの隙を見逃さなかった。すぐさに飛びかかる。

 日向ちゃんもそれは読んでいたのかすぐに正面を向くとミリオットから光線を放った。レーザー銃のような細い光が仮面男に放たれるが、仮面男は尻尾で地面を蹴り宙を駆けながら無理矢理方向を変えてきた。そのまま間合いに入り槍を突き出してくる。片手を伸ばした構えの日向ちゃんでは防御が間に合わない。

 仮面男の槍が日向ちゃんに迫る。

 それを、日向ちゃんは取り出した赤い剣で防いでいた。

 突然現れたもう一本の剣に仮面の男も驚く。日向ちゃんは白と赤の二刀流で攻撃していく。激しい連撃に仮面男も防戦一方で急いで距離を取る。

 日向ちゃんが取り出した赤い刀身の剣。ミリオットと色違いの魔剣。そのスパーダは本来此方のものだ。

「カリギュラ……?」

 じゃあ、此方は……。

 その事実に体中の熱が引いていく。

 日向ちゃんは振り返ることなく仮面男を正面にとらえていた。その中でカリギュラを持ち上げ刀身を見つめる。

「まったく。大切な人を守りたくてもその時になったら使えないなんて。本当にお姉ちゃんは不器用で扱いづらいんだから。まあ、それが可愛いところでもあるだけどさ」

 その口調はまるで世間話のようだ。此方は亡くなった。もうこの世にはいない。なのに彼女の話し方にはそんな悲壮感は感じない。

「日向ちゃん」
「うん。お姉ちゃんは私を守ってさきに逝っちゃった。私の望みはずっと一緒にいることだったのに、分からず屋なんだよなー、お姉ちゃんは」
「日向ちゃん!」

 彼女は明るく言うがそんなはずがない。彼女を一番慕っていた日向ちゃんが最も悲しいはずなんだ。此方が亡くなって、彼女がどれだけ辛かったか、俺には想像もできない。

「お姉ちゃんはね、信じてたんだ」
「信じてた?」

 その日向ちゃんが、悲しみを乗り越えて戦っているんだ。

「いつか聖治さんが目を覚まして、この世界を変えてくれるって」
「…………」

 日向ちゃんはカリギュラを光の玉の状態にすると俺に向けてきた。カリギュラの赤い光が俺の体に入り溶けていく。

 日向ちゃんは横顔だけを俺に向け、口元を持ち上げた。

「かっこいいところ見せてよね、聖治さん」

 今、俺の体には二本のスパーダがそろった。あとはパーシヴァルを取れば三本になり能力が使えるようになる。

「ここは私が引き受ける。だから、聖治さんは先へ」

 日向ちゃんはすぐに正面を向く。こうしている今も後ろからは悪魔が迫っている。

「日向ちゃん、ありがとう」

 急がないと。ここで足止めを食らっているわけにはいかない。俺は彼女の隣に立つ。

「全部が無事に終わったらハーゲンダッツ奢ってよね」
「ああ、約束するよ」
「あり~」

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