セブンスソード

奏せいや

165

 悪魔は依然五体。これじゃあとても。

 星都はグランを下ろしたまま立ち尽くしている。せっかくのエンデュラスも能力を封じられ沈黙している。

「終わりだ、人間」

 三頭の犬が言ってくる。唯一対等に戦えるのが星都だったのにその能力が使えなくなってはもう戦いにならない。スパーダを封じられた以上負けたも同然だ。

「ハッ、終わりだって?」

 なのに、星都は笑った。

「分かってねえな、お前等はなにも分かっていない」

 エンデュラスを持ち上げる。能力は使えないはずだがそれでも諦めなかった。星都はエンデュラスの剣先を悪魔に向ける。

「人間の強さは剣でもなければ銃でもない」

 絶望的な状況だとしても、それがどんなに困難でも前に向かって進んでいる。

「強がり言っちゃって~。手ぶらの人間なんて雑魚キャラじゃーん」
「ヤジは止めるズラー」
「いや、そいつの言うとおりだ。裸のイヴンなど取るに足らん。なにもないから作り出す連中だ」
「不憫だな、頭が三つあっても馬鹿は馬鹿かよ」
「なに?」

 こんな状況でなにを言っても虚勢にしか見えないかもしれない。相手もそれが分かっているからすぐには殺さない。勝負はすでについたと思っているんだ。

 だけど俺には分かる。星都は虚勢で言っているんじゃない。

 信じているんだ。希望を。

 俺のことを。

「いいか、人間の強さっていうのはな」

 その星都が声を張る。敵対する悪魔たちに向けて。背後にいる仲間にも聞こえるように。
 星都は、エンデュラスを自分に向けた。

「いかん!」

 それを見て仮面の男が動く。

「諦めない、意思があることだ! お前らはそれを見誤った」

 槍が星都に迫る。

 星都はエンデュラスの刀身を腕に当てる。そして、槍の患部ごと切り落とした。腕が肩から離れ地面に落ちていく。血がいきおいよく噴き出し星都の口から苦悶の声が上がる。その隙を狙って矛先があと一センチの距離まで迫る。

「おせえ」

 瞬間、仮面の片腕が宙を飛んだ。

「ぐおおお!」

 仮面の男が膝をつく。槍を持った手で反対の腕を押さえる。

 直後犬が吠えた。それにより異能が発動できなくなるが仲間たちが銃撃を加え牽制する。女の悪魔が防いでいるが数が多くやりにくそうだ。

「相棒!」

 犬の叫びが途切れた隙を突き星都が一瞬で扉の前に現れる。

「星都!」

 扉を開け星都を入れようとする。だが星都は入らなかった。

「受け取れ」

 星都の体から緑色の光が漏れ俺の体に入ってくる。

「これは」

 いや、分かる。これはグランだ。星都から俺の体に移ったんだ。

「お前はここから逃げろ。悪いがここはもう駄目だ。お前たちだけでパーシヴァルを取りにいけ」
「お前はどうするんだよ?」
「できるだけ時間を稼ぐ」
「そんな!」

 それって、ここに残るってことか? そんな大怪我じゃ死んじまうだろ!

 星都は俺にグランを渡すと扉を閉めた。

「星都!」

 声を掛けるが星都はすでに後ろを向いたあとだった。のぞき穴から大きくなった後ろ姿が見える。

 その星都が、背中越しに言ってくれた。

「聖治! お前は過去に戻れ、あの日に戻るんだよ。そしてセブンスソードを完成させろ。お前が団長になるんだよ! 魔卿騎士団の団長になって、この世界を変えるんだ!」

 星都はさきほど言ってくれた、俺こそが希望だと。

 こんな世界を変えられる。こんな未来を変えることができる。星都は俺に希望を託してくれたんだ。

「魔卿騎士団が復興すれば、悪魔にだって対抗できる。この世界じゃそれができなかった」

 セブンスソードに巻き込まれた時、俺たちは殺し合いなんて非道が嫌で逃げ出した。でも、俺たちが逃げ出したからスパーダは散り散りになりセブンスソードは失敗した。結果、悪魔に対抗できず人類は敗北した。

 なら、誰かがなるしかないんだ。

 魔卿騎士団を率いる、団長に。

 新しい魔卿騎士団が!

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