セブンスソード
160
「はい」
返事をすると扉が開けられ一人の女性が入ってきた。戦闘服に身を包んでいたから大人の人かと思ったがよくよく見れば俺と同い年くらいの女の子だった。
「失礼します。服ですがサイズ合ってましたか?」
「はい、大丈夫です」
「それはよかったです。のどとかは渇いていませんか? ここに来るまで大変だったんですよね?」
「ええ、まあ。あの!」
「はい?」
俺は気になっていたことを彼女に聞いてみる。
「俺がこれからなにをするかは、知っているんですか?」
そう聞くと彼女は顔を引き締めた。
「はい、知っています」
「本当に、いいんですね?」
それは彼女の人生をも変えてしまうということだ。巻き戻され変えられる。彼女が今までどんな人生を送ってきたかは分からないが、そこにあった様々な出会いや思い出を否定されるんだ。
「俺がパーシヴァルを使えば多くの人の人生が変えられる。それによって全く違う人生になる人だっているかもしれない。今ある幸せだってなくなるかも。外には子供だっていただろう。もしかしたら生まれないかもしれないんだ。そのことに責任を感じるんだ」
これはそれだけ重要なことだ。悪魔による侵攻は絶望的だ、だからといって俺一人の行動ですべてを否定してもいいのか。
「やってください」
俺の問いに、彼女は即答だった。躊躇いもなくそう言った。
「それでいいんです。そうしなければ私たちはここで終わってしまう。なにより、こんな人生を変えられるならその方がいいです」
彼女は扉を開けると俺に振り返った。
「来てください」
言われ俺も外に出る。
貯水用の地下ダムであるここは現在避難所兼司令部として使われている。特にここの広場ではいくつものブルーシートが敷かれ一世帯が暮らしていた。
「ここにはいろいろな人が暮らしています。遠い場所から逃げてきた人、親とはぐれた人、悪魔と戦い傷を負った人。ここにいて失っていない人なんて一人もいません。私も、家族を失いました」
「…………」
悪魔に襲われ怪我をしたり大切な人を亡くしたりした人はこの時代珍しくない。むしろそれがほとんどだ。
でも、だからといって彼ら彼女らの傷が浅いものになるわけじゃない。誰だって辛く、悲しいんだ。とても。
「みんな懸命に生きていますよ。今ある生を少しでも長引かせようと協力したり励まし合ったりしています。そういう姿を見ると人って強いんだなって、思います」
「ああ。俺もそう思う」
どんな絶望的な状況でも生を投げ出さず大切な人と一緒に最後まで過ごす。たとえ一人では駄目だったとしても誰かとなら支えていける。人間にはそうした強さがある。かつて香織と一緒に過ごしていた日々を思い出す。ここにいる人たちもそうやって生きているんだな。
「けれど、この世界にはあまりにも希望がありません」
ただ、それで状況が好転するわけではない。
彼女は寂れた表情を浮かべていた。視線の先に広がる人々の営みを悔しそうに、同時に空しそうに見つめている。
どれだけ必死に生きて諦めなかったとしても、いずれくる破滅から逃れることはできない。終わるがくるのを知っていながらそれを先延ばしにしているだけでしかない。
人は強い。でも、現実は残酷だ。
彼女が俺に振り返る。
「聖治さん。私たちは生きることを諦めたから過去を変えたいんじゃないんです。生きる希望があるから変えたいんです。こんな世界を変えられるなら、私は変えたい。誰も襲われない、誰も亡くならない世界になれる可能性があるならそれに賭けたい。ううん、それに賭けるしかないんです。だからこのことに君が責任を感じることはありません。むしろ私たちの願いを押しつけてしまい申し訳です。私にできることならなんでもするんですけど、あいにく差し上げられるものなんてなにもなくて」
「いいよ、そんなの」
百パーセント善意に満ちた笑顔を向けられ俺はちょっと固い笑みを浮かべる。
生きる希望があるから過去を変えたい、か。そうだよな、これは決して逃げてるわけじゃない。今を変えてやるんだっていう前進なんだ。
「約束する。世界を変える。こうなる前になんとかするって」
「はい、お願いしますね」
彼女の柔らかい笑顔に俺は強く頷く。この世界に生きる人たちの願いを受け継ぐのだと胸が熱くなった。
そのときだった。別の戦闘服を来た人が大慌てで俺たちのところへとやってきた。
返事をすると扉が開けられ一人の女性が入ってきた。戦闘服に身を包んでいたから大人の人かと思ったがよくよく見れば俺と同い年くらいの女の子だった。
「失礼します。服ですがサイズ合ってましたか?」
「はい、大丈夫です」
「それはよかったです。のどとかは渇いていませんか? ここに来るまで大変だったんですよね?」
「ええ、まあ。あの!」
「はい?」
俺は気になっていたことを彼女に聞いてみる。
「俺がこれからなにをするかは、知っているんですか?」
そう聞くと彼女は顔を引き締めた。
「はい、知っています」
「本当に、いいんですね?」
それは彼女の人生をも変えてしまうということだ。巻き戻され変えられる。彼女が今までどんな人生を送ってきたかは分からないが、そこにあった様々な出会いや思い出を否定されるんだ。
「俺がパーシヴァルを使えば多くの人の人生が変えられる。それによって全く違う人生になる人だっているかもしれない。今ある幸せだってなくなるかも。外には子供だっていただろう。もしかしたら生まれないかもしれないんだ。そのことに責任を感じるんだ」
これはそれだけ重要なことだ。悪魔による侵攻は絶望的だ、だからといって俺一人の行動ですべてを否定してもいいのか。
「やってください」
俺の問いに、彼女は即答だった。躊躇いもなくそう言った。
「それでいいんです。そうしなければ私たちはここで終わってしまう。なにより、こんな人生を変えられるならその方がいいです」
彼女は扉を開けると俺に振り返った。
「来てください」
言われ俺も外に出る。
貯水用の地下ダムであるここは現在避難所兼司令部として使われている。特にここの広場ではいくつものブルーシートが敷かれ一世帯が暮らしていた。
「ここにはいろいろな人が暮らしています。遠い場所から逃げてきた人、親とはぐれた人、悪魔と戦い傷を負った人。ここにいて失っていない人なんて一人もいません。私も、家族を失いました」
「…………」
悪魔に襲われ怪我をしたり大切な人を亡くしたりした人はこの時代珍しくない。むしろそれがほとんどだ。
でも、だからといって彼ら彼女らの傷が浅いものになるわけじゃない。誰だって辛く、悲しいんだ。とても。
「みんな懸命に生きていますよ。今ある生を少しでも長引かせようと協力したり励まし合ったりしています。そういう姿を見ると人って強いんだなって、思います」
「ああ。俺もそう思う」
どんな絶望的な状況でも生を投げ出さず大切な人と一緒に最後まで過ごす。たとえ一人では駄目だったとしても誰かとなら支えていける。人間にはそうした強さがある。かつて香織と一緒に過ごしていた日々を思い出す。ここにいる人たちもそうやって生きているんだな。
「けれど、この世界にはあまりにも希望がありません」
ただ、それで状況が好転するわけではない。
彼女は寂れた表情を浮かべていた。視線の先に広がる人々の営みを悔しそうに、同時に空しそうに見つめている。
どれだけ必死に生きて諦めなかったとしても、いずれくる破滅から逃れることはできない。終わるがくるのを知っていながらそれを先延ばしにしているだけでしかない。
人は強い。でも、現実は残酷だ。
彼女が俺に振り返る。
「聖治さん。私たちは生きることを諦めたから過去を変えたいんじゃないんです。生きる希望があるから変えたいんです。こんな世界を変えられるなら、私は変えたい。誰も襲われない、誰も亡くならない世界になれる可能性があるならそれに賭けたい。ううん、それに賭けるしかないんです。だからこのことに君が責任を感じることはありません。むしろ私たちの願いを押しつけてしまい申し訳です。私にできることならなんでもするんですけど、あいにく差し上げられるものなんてなにもなくて」
「いいよ、そんなの」
百パーセント善意に満ちた笑顔を向けられ俺はちょっと固い笑みを浮かべる。
生きる希望があるから過去を変えたい、か。そうだよな、これは決して逃げてるわけじゃない。今を変えてやるんだっていう前進なんだ。
「約束する。世界を変える。こうなる前になんとかするって」
「はい、お願いしますね」
彼女の柔らかい笑顔に俺は強く頷く。この世界に生きる人たちの願いを受け継ぐのだと胸が熱くなった。
そのときだった。別の戦闘服を来た人が大慌てで俺たちのところへとやってきた。
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