セブンスソード

奏せいや

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 悪魔の強さ。それは数もあるが個体が一人の人間よりも遙かに強靱というのもある。悪魔と言っても様々な種類がいるがその中でも低級と呼ばれる悪魔ですら絶命させるのに何発も撃ち込まないといけない。対人用の兵器では火力不足で、そうした装備面の弱さもあって当初は特に悪魔に押されていたんだ。

「国連軍はもちろん日本自衛軍も本拠地を潰され事実上の敗北。それでも悪魔たちの侵攻は止まず残党狩りだ。停戦も交渉もあったものじゃない。皆殺しさ。ふざけた話だ」

 星都が拳を握り込む。見れば眉間にしわが寄っている。悔しいだろう。それと同じ気持ちを知っているからこそ掛ける言葉が見つからない。

「それでも俺たちは戦い続けていた。レジスタンスを結成し仲間を集めた。俺たちにはスパーダがあるからな、そこらの悪魔なら問題なく倒せていた。でもそれで勝てるわけじゃないのが戦争だ。俺たちの局地的な勝利なんて全体から見れば取るに足らないものだった。人類は頑張ったさ。協力して、努力して、励まして、恐怖に打ち勝った。でも負けた。……負けちまったよ」

 星都は背中を反り天井を見つめる。悲しい顔で敗北宣言をしていた。そんな星都に俺はなにを言ってやれる? よくやった。お前はすごいよ。よく頑張った。言葉は浮かぶがそんなの全部どうでもよかった。そんなの全部安っぽい戯れ言だ。

 星都は救いたかったんだ、仲間を。人類を。それを叶えられなかった人にそんなことを言ってもなんの慰めにもならない。過去は変えられないんだ。

「残念だが、いずれ俺たちも負けるだろう。どんなに頑張っても悪足掻きにしかならない。最後の抵抗さ」
「そんな。まだ手はないのか? 俺にできることならなんだって」
「希望はある」
「それは?」

 この絶望と言ってもいい状況で希望と呼べるものがあるのならやるべきだ。いったいどうすればこの状況を変えられる?

「お前だよ」
「俺?」

 いったいなんだろうかといろいろ想像していた俺にとって星都の答えは予想外だった。

「この世界はもう駄目だ、どうやっても手遅れだ。もしどうにかしようと思えばやり直すしかない」
「やり直す……、パーシヴァルか!」
「正解だ、分かってるな」

 そうか、この時代では敗北濃厚、人類絶滅は時間の問題かもしれない。

 でも、過去に戻ってこうなる前に手を打てれば変えられる。未来を救える。

「俺たちはパーシヴァルを回収していたからな。それを使えば世界がこんな状態になる前に変えることができる。それで俺たちは必死にパーシヴァルを調べた。この世界に残された唯一の希望だったからな。調査は極秘で一部の人間だけで行われた。それでいろいろ調べていくと問題があることに気づいたんだ」
「問題?」
「パーシヴァルによる世界の回帰はお前の方が詳しいだろうが、まずどんな世界になるのかランダムな要素があるっていうことだ」
「それは知っている。でも、そうだとしても今を放置しておくよりもよっぽど可能性があるはずだ」

 星都の言うことは分かるが躊躇っている場合じゃない。不確定ではあるが今よりはいいはずだ。

「問題はもう一つある」
「もう一つ?」

 いったいなんだろうか。

「パーシヴァルの再始動。それには限度があってな、どれだけ頑張ってもやり直せるのは三日前か四日前までなんだ」
「四日?」

 知らなかった。俺が巻き戻しているのは二日前ばかりだったからな。限度があるなんて考えたこともなかった。

「仮にここで俺がパーシヴァルを使って四日前に戻っても人類が敗北した歴史は変わらない。さらにもう一度使いたくても充填期間が必要ですぐには使えない。連続で使用して過去に戻ることもできないってことだ」
「そんな」

 それじゃあ、パーシヴァルを使っても意味がないじゃないか。ボスキャラを前にセーブしたところでHPが瀕死なら繰り返しても同じだ。

「パーシヴァルの再始動は使用者の四日前が限度。だからこの時代の人間が使っても四日前にしか戻れない。でもだ。聖治、お前は違う」

 言われてハッとする。

 パーシヴァルの四日前は使用者にとっての四日前であり現実の時間軸とは違うってことか。

「今目が覚めたばかりのお前ならあの日に戻れるんだ。西暦2019年、六月一四日。俺たちがセブンスソードで戦っていたあの日にな」

 星都の目に熱が戻る。その視線に並々ならぬ思いを感じた。

「俺たちはそのためにお前を蘇らせることにした。沙城が言っていたのを覚えているか? 俺たちはホムンクルスだって話。スパーダは俺たちの魂と一体化したものだからな。あとはその器となる肉体を用意しスパーダを移してやれば元通り。そうなるはずだったんだが、ここでも問題が起きた」
「多難だったわけだな。でも俺はこうして生きている。解決できたんだろ?」

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