セブンスソード

奏せいや

151

 俺は、彼女を守れなかったんだ。守るって、そう誓ったのに!

『せい……くん』

 まだだ、まだ終わっていない。俺の約束は。俺の旅は。

『聖治君!』
「!?」

 闇に亀裂が入り光が一瞬で世界を染める。

 途端、体を包んでいた浮遊感が消えていった。俺は闇から文字通り放り出され階段を転がっていく。

「がは! ごほ、ごほ!」

 息を肺いっぱいに吸う。今まで息を止めていたのかそれを補うように荒い呼吸を繰り返す。

「はあ……はあ……、なんだよ、いったい」

 なんとか呼吸は収まっていくが、俺は今どういう状況なんだ? そもそもここはいったい。

「え?」

 それは、見たこともない場所だった。

 部屋は薄暗く非常用の赤いライトのような、そんな淡い光だけが点灯している。俺は固い床の上で横になり転んだ時に打ち付けた膝をさすった。

 振り返り背後を見てみる。そこには巨大なカプセルがあった。透明なガラス、もしくは強化プラスチックでできた容器は人一人なら余裕で入れる大きさをしている。階段の上にあるそれは入り口が開いており中はまだ薄い色のついた溶液で濡れていた。俺の全身もその液体で濡れている。全身は上下一体型の白いボディスーツを着ている。

「なんだよ、これ」

 初めはぼんやりとしていた意識もだんだんとはっきりしてくる。寝ぼけていたのが晴れた感じだ。

 俺はまだ痛む体を抑えながら立ち上がった。

「ここ、どこだよ?」

 それに、なぜ俺はここにいる? こんな場所見たことがない。

 俺は目に付いた扉の前に立った。自動扉だったそれは横にスッと移動する。外は廊下になっていてここも薄暗い。赤いライトが申し訳ない程度に照らしているが不気味さを演出しているようにしか思えない。

 ここには、誰もいないのだろうか? 誰かいないか呼んでみるか?

 逡巡(しゅんじゅん)するが、止めておく。

 慌てるな、ていうか焦るな。ここがまだどういう場所か知らないんだ。俺の立場も分からないのに誰かを呼ぶなんて危険過ぎる。もしかしたら敵陣かもしれないのに。明らかにおかしい場所なんだ、用心してし過ぎることはない。

 まずは出口を探そう。

 俺は歩いた。裸足で踏みしめる廊下は冷たく固い感触が伝わってくる。薄暗さと無音の空間、一人きりという状況が俺の不安をあおり立ててくる。狭所恐怖症や暗所恐怖症というわけではないが先の見えない暗闇を歩いていくのは緊張してしまう。

 ここは、どういう場所なんだろうか。なんとなくだが無人の病院ていう感じがする。それか研究施設?

 俺は歩き進め階段を見つけた。上に続く階段を上っていく。

 行き着いた先、そこには立ちはだかるように鉄扉が締められていた。取っ手に手を伸ばし、両手に力を入れる。

 固いが開けられないほどじゃない。ぎぎぎと擦る音を立てながら扉が開いていく。薄暗いこの場所に光が差し込む。

 扉を開き、外に出る。

「これは」

 そこは、思った通り病院か研究施設のロビーのようだった。待ち受けの窓口や長いす、ソファがいくつも集まってる場所もある。

 ただし普通じゃない。廃墟のように荒れている。

 窓ガラスはそのほとんどが割れており破片が床に落ちているた。ソファも破れていたり床には外から入ってきた落ち葉や砂埃で汚れており廃墟となっている。

「なんだよ、いったい」

 ここには誰もいない。いるのは俺だけだ。

 急に不安になってくる。外はどうなってるんだ? 

 外へと向かって走り出す。見れば入り口の扉も割れている。入り口付近にスリッパ置き場がありそこから一組を拝借して外へ出た。

 空は曇にふたをされたように世界を暗くし、薄い白に染めていた。敷地内にある中庭では花壇が崩れ土がこぼれている。

 走って走って、門を通り、外に出る。大通りの町並み、ビルや店舗が並ぶ道路の真ん中に立つ。
 そこで、俺は世界を見た。

 車は打ち捨てられ、フロントガラスには蜘蛛の巣のようなひびが走っている。道路のアスファルトはえぐれているかひび割れ、隙間から雑草が生えている。ビルや店舗のガラスは割れ建物が崩れている場所もあった。

 俺は立ち尽くしていた。そこへ風に運ばれた新聞が足に引っかかる。それをゆっくりと持ち上げた。

『悪魔の侵攻止まらず。本土決戦間近』

 見出しには、大きな文字でそう書かれていた。

 日付は2034年。12月14日。

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