セブンスソード
148
ここにいるのは俺と香織、そして白衣の男だけだ。
俺はパーシヴァルを構える。それで香織もディンドランを構えた。
相手は正体不明の強敵。勝てるどころか生きて帰れる保証もない。
だけど。
「聖治君、いくよ」
「ああ」
俺たちに不安なんてなかった。
彼女がいる。それだけで、ここはいつだって俺たちの居場所になるから。
俺たちは走った。白衣の男との距離を詰めスパーダを振るう。
「うおおお!」
そうして、俺たちたちの戦いは始まった。
それからどれだけ戦っただろう。必死だったからか時間の経過はよく分からない。奇跡的だったのは瞬殺は逃れたということだ。傷を負っても香織が治してくれたのが大きいが、それでもある程度時間を稼げたのは奇跡と言ってもいいくらいだった。相手が手を抜いていたのか、それ以外の要因があるのか。それは分からないが、なんとか時間稼ぎの役割は果たせたようだ。
みんなは無事逃げれただろうか。
そうぼんやり夜空を見上げる俺を、香織は優しく抱き起こしてくれた。
アスファルトに横になっているが冷たさは気にならない。むしろ温かいくらいだ。アスファルトの固い感触に混じってぬるりとした温かさを感じる。
香織は俺の頭を自身の膝の上に置き俺を見つめていた。俺の視界にも彼女が映る。
彼女は血だらけだった。ディンドランの回復も追いつかないくらい傷だらけで、髪は乱れ片目は瞼の上から斬られ顔の半分は血で塗れている。肩や背中にも光の剣が突き刺さっておりそこからも血を流していた。
痛々しい彼女の姿を目にして罪悪感を抱くなという方が無理な話だ。
「これで、よかったのかな……?」
こんな目に遭わせてしまった。それを正しい選択だったと俺は確信を持てない。
「聖治君」
そんな俺の葛藤に、香織は優しく声をかける。
「今、君がここにいる」
俺の額に手を当てて、ゆっくりと撫でる。
「それだけで、私は幸せだよ」
彼女は痛みに引きつった顔を隠して、ニコッと笑う。
「ずっと、一緒にいてね」
「ああ。約束だもんな」
昔からの約束。二人っきりだけの世界で結んだ約束。互いが掛け替えのない存在で、そのためだけに生きていた。
すると香織の体が傾き俺に倒れてくる。
「香織?」
「ごめんね。少し、休むね」
「ああ」
香織は俺に覆い被さる。俺の顔のすぐ隣に彼女の顔がある。俺は彼女の背中に腕を回し、抱きしめた。
「なあ、香織。君を、ずっと守りたかった。あの世界から救い出すんだって、そんな思いばかりがずっとあった。でも、今は君のそばにいるだけで満たされていくんだ」
言っていて笑ってしまう。目標の下方修正が過ぎるってものだろう。
「ずいぶんハードルは下がったけどさ、でも、本当だ。君がいてくれただけで、救われたようだった。香織がいなければ、今もきっと、苦しんでいた」
孤独な旅を続けて、一人その重さに押しつぶされそうになっていたに違いない。それを救ってくれたのは間違いなく彼女だ。
夜空をぼんやりと見上げる。ここは田舎だからか星がよく見える。それはたくさん。光の砂を振りまいたように、たくさんの光が輝いていた。
「香織、星だ。星がたくさんあるぞ」
荒廃した世界では見えなかった輝きが、夜の闇の中で輝いている。
「……香織?」
尋ねるが、彼女から返事はない。
「そうか……」
背中に回した腕に力を入れ、さらに彼女を抱きしめる。
「安心しろ、香織。ずっと……一緒にいるからな」
ずっと、ずっと、生きている限り。この腕に力を入れ続ける。
それが俺にできる最後の証だったから。
俺はずっとそうしていた。急激に体が寒気を覚え体が固まっていく。意識も深い底へと落ちていく。
堪えきれず、俺は瞼を閉じた。
だけどこの腕だけは、彼女をつなぎ止めるこの感触だけは手放さないと、ずっと力を入れていた。
ずっと。
ずっと。
いつまでも。
香織の存在を抱きしめていた。
俺に、終わりが訪れるその時まで。
俺はパーシヴァルを構える。それで香織もディンドランを構えた。
相手は正体不明の強敵。勝てるどころか生きて帰れる保証もない。
だけど。
「聖治君、いくよ」
「ああ」
俺たちに不安なんてなかった。
彼女がいる。それだけで、ここはいつだって俺たちの居場所になるから。
俺たちは走った。白衣の男との距離を詰めスパーダを振るう。
「うおおお!」
そうして、俺たちたちの戦いは始まった。
それからどれだけ戦っただろう。必死だったからか時間の経過はよく分からない。奇跡的だったのは瞬殺は逃れたということだ。傷を負っても香織が治してくれたのが大きいが、それでもある程度時間を稼げたのは奇跡と言ってもいいくらいだった。相手が手を抜いていたのか、それ以外の要因があるのか。それは分からないが、なんとか時間稼ぎの役割は果たせたようだ。
みんなは無事逃げれただろうか。
そうぼんやり夜空を見上げる俺を、香織は優しく抱き起こしてくれた。
アスファルトに横になっているが冷たさは気にならない。むしろ温かいくらいだ。アスファルトの固い感触に混じってぬるりとした温かさを感じる。
香織は俺の頭を自身の膝の上に置き俺を見つめていた。俺の視界にも彼女が映る。
彼女は血だらけだった。ディンドランの回復も追いつかないくらい傷だらけで、髪は乱れ片目は瞼の上から斬られ顔の半分は血で塗れている。肩や背中にも光の剣が突き刺さっておりそこからも血を流していた。
痛々しい彼女の姿を目にして罪悪感を抱くなという方が無理な話だ。
「これで、よかったのかな……?」
こんな目に遭わせてしまった。それを正しい選択だったと俺は確信を持てない。
「聖治君」
そんな俺の葛藤に、香織は優しく声をかける。
「今、君がここにいる」
俺の額に手を当てて、ゆっくりと撫でる。
「それだけで、私は幸せだよ」
彼女は痛みに引きつった顔を隠して、ニコッと笑う。
「ずっと、一緒にいてね」
「ああ。約束だもんな」
昔からの約束。二人っきりだけの世界で結んだ約束。互いが掛け替えのない存在で、そのためだけに生きていた。
すると香織の体が傾き俺に倒れてくる。
「香織?」
「ごめんね。少し、休むね」
「ああ」
香織は俺に覆い被さる。俺の顔のすぐ隣に彼女の顔がある。俺は彼女の背中に腕を回し、抱きしめた。
「なあ、香織。君を、ずっと守りたかった。あの世界から救い出すんだって、そんな思いばかりがずっとあった。でも、今は君のそばにいるだけで満たされていくんだ」
言っていて笑ってしまう。目標の下方修正が過ぎるってものだろう。
「ずいぶんハードルは下がったけどさ、でも、本当だ。君がいてくれただけで、救われたようだった。香織がいなければ、今もきっと、苦しんでいた」
孤独な旅を続けて、一人その重さに押しつぶされそうになっていたに違いない。それを救ってくれたのは間違いなく彼女だ。
夜空をぼんやりと見上げる。ここは田舎だからか星がよく見える。それはたくさん。光の砂を振りまいたように、たくさんの光が輝いていた。
「香織、星だ。星がたくさんあるぞ」
荒廃した世界では見えなかった輝きが、夜の闇の中で輝いている。
「……香織?」
尋ねるが、彼女から返事はない。
「そうか……」
背中に回した腕に力を入れ、さらに彼女を抱きしめる。
「安心しろ、香織。ずっと……一緒にいるからな」
ずっと、ずっと、生きている限り。この腕に力を入れ続ける。
それが俺にできる最後の証だったから。
俺はずっとそうしていた。急激に体が寒気を覚え体が固まっていく。意識も深い底へと落ちていく。
堪えきれず、俺は瞼を閉じた。
だけどこの腕だけは、彼女をつなぎ止めるこの感触だけは手放さないと、ずっと力を入れていた。
ずっと。
ずっと。
いつまでも。
香織の存在を抱きしめていた。
俺に、終わりが訪れるその時まで。
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