セブンスソード

奏せいや

136

「ま、俺もこいつと同意見だよ。ぶっちゃけ実感がないってのが大きいがな。でもまあ、女のためにお前も必死だったんだ。ここでごねてもカッコ悪いだろ」

 星都はお気楽な感じでそう言ってくれる。正直助かる。そしてやっぱり懐かしい。そうだよな、星都はこういうやつだ。昔は当たり前にあった雰囲気を久しぶりに感じられて嬉しくなる。

「聖治君」

 力也が俺を見る。表情は柔らかいがその目はまっすぐとしていて、それで真剣なんだと分かった。

「聖治君。人は間違いも犯すし迷いもする。だけど失敗したからって終わりじゃない。人は同時に反省するし、許すことだってできるんだなぁ。だから聖治君も諦めちゃ駄目なんだな、人を信じることを」
「だから俺の台詞も言うんじゃねえよ。お前だけなんかかっこいいじゃねえか」
「イテテ~」

 星都が再び力也を小突く。その後二人共俺を真っ直ぐと見つめてきた。

 その顔は憎しみでも怒りでもない、新しい仲間を迎える温かい顔だった。

「ありがとう、二人とも」

 その顔に、俺も決意を込めて応じる。

 もう二度と手放したりしない。人を信じること。それこそが大切な人間性なんだって。

「俺はもう諦めたりしない。人を信じることを。何度失敗して、何度阻まれようが。俺の望む未来を手に入れてみせる!」

 これまで繰り返してきた世界で幾度と経験してきた失敗と過ち。だけどそれらは全部無駄なんかじゃない。

 これまでの失敗があるから、今がある。そして今から始めるんだ、未来のための戦いを!

「うん。聖治君ならできるよ」

 香織が隣で頷いてくれる。俺は改めて仲間を見渡す。

「行こう。仲間はあと二人いる」

 全員でこの儀式から生き残ろう。

 俺たちは放課後此方と日向ちゃんのいるマンションへと向かった。



 空が夕暮れに染まり始めた頃、俺たちはマンションの前に来ていた。広場を構えた高層マンション。街灯に電気が点き始め俺たち四人の影が地面に伸びる。

「はあー。同じ高校生だってのにこんな場所に住んでんのか? それに二人暮らしだってんだろ? なんか釈然としねえなー」
「こういうやつに限って自分で稼いだわけでもないのに金持ちアピールしてきそう、だろ?」
「そうそう! 分かってるじゃねえか」
「お前が以前言ってたんだよ」

 世界が変わってもこいつの性格は変わらないな。なんだか尊敬しそうになる。

「それで聖治君、誘うってことだけど、このまま正面から行くの?」

 香織からの質問に少しだけ考える。俺は下げていた顔を上げ三人に振り返った。

「ああ。正面から行って、二人と話をつけてくる。でも、それは俺一人だけだ。みんなはここで待っていてくれ」
「聖治君、でもそれは」
「おいおい、大丈夫かよ」
「聖治君、ほんとうにそれでいいのぉ?」
「大丈夫さ、必ずうまくいく。仮にうまくいかなくても不意は打たれないさ。信じてくれ」

 みんなから心配されるが俺は自信を滲ませる。二人とは初対面だが赤の他人じゃないんだ。やりようはある。

「香織も。そんな心配そうな顔するな。な?」
「……うん。分かった」

 香織も不安がっていたがなんとか説得する。

「それじゃあ、行ってくる」

 俺は三人を広場に残しマンションロビーに入っていく。一応部屋の番号を確認するが前の世界と同じ部屋に安神の名前はあった。俺はインターホンの前に立つ。

 以前はここで交渉をして、エレベーターの中で不意打ちを受けた。またあの悲劇が繰り広げられる可能性はゼロじゃない。

 もうあんなことは起こせない。それなら同じことをなぞるようにするのは得策じゃないのは分かっている。

 だけど。

 俺はインターホンのボタンを押した。

 二人を前にして、逃げるやり方やだまし討ちのような真似はしたくない。正面から堂々と、誠実にいきたいんだ。

「はい、なんでしょうか」

 スピーカーから女の子の声が聞こえてくる。この声は、

「此方か?」

 クールな口調で少し棘を感じるこの声は間違いない、姉の此方の方だ。

「はい、そうですけど。誰?」

「セブンスソード」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く