セブンスソード
119
「…………」
不用意な発言だったか。警戒されている。なんと言ったところで知っていた事実は変わらないし、その不信感は拭えないだろう。
「それでなぜ無事だったんだ?」
前の世界では力也は槍男に襲われ命を落とした。セブンスソードへと扇動するためだ。それによって星都は危機感や強迫観念に囚われ戦闘になった。でも、この世界では死んでいない。なぜだ。
「さあな。いきなり白い服の男が来て戦い出したからその隙に逃げ出してきたんだよ」
白い服の男?
「それよりも答えろよ。どうしてそのことをお前が知っているんだ? それにここには安神っていう姉妹がいるはずだ。二人はどうした。それにお前は誰なんだ」
前の世界とは大筋で一緒だが細部が違っている。白い服の男が管理人と戦うなんて前の世界ではなかったはず。それによって力也生存という流れも変わった。一つの変化が、その後の流れを大きく変えようとしている。
いや、それよりも重要なのは今をどうするかだ。
「おい、聞いてんのかよ」
顔を正面に戻す。星都が苛立った声で聞いてくる。
「もう一度聞くぜ、二人はどこだ?」
俺が答えないことに危機感を募らせていく。星都だけじゃない。二人も不安そうな顔をしていた。
安神姉妹の二人はどこか。その答えを俺は知っている。
だけど、それを答える気にはなれなかった。
「そんな……」
俺が答えないことで察したらしく香織がショックを受けている。
俺は彼女を見た。
この世界でも彼女は無事で生きている。それを確かめられてホッとする。彼女が無事でなければ意味がない。
だが、このままではいずれ彼女はまたも命を落としてしまう。もう、彼女の遺体を抱きしめたくはない。
今度こそ、彼女を救ってみせる!
「香織」
フードを脱ぐ。顔を見せ彼女に話しかける。
「俺だ、聖治だ。分かるか?」
彼女は眉をひそめ怪訝そうな顔をしている。この世界でも俺のことは分からないみたいだ。
俺だけが彼女のことを覚えている。二人で一緒に過ごしていた時間も、セブンスソードで命を救ってもらったことも、守ってあげたことも、ぜんぶ。俺だけの思い出になっている。
まるで、この世界に俺だけが取り残されたような気分だ。
「分からないのか?」
分かって欲しくて、思い出して欲しくて声が荒くなる。
「思い出してくれ香織! 聖治だ! 俺たちは別の世界で一緒にいた、恋人だったんだ。この世界に来てからも何度も会ってる。君を助けたいんだ!」
暴れる思いをなんとか言葉にして叫ぶ。
分かって欲しくて、熱心に説明するけど、だけれども伝わらない。困惑したままだ。彼女にとって俺は今初めて会ったばかりの他人なんだ。
「なんで分からないんだよ!」
それが悔しかった。
「分かってる。香織は悪くない。だけど心の整理が追いつかないんだ。俺がこんなにも思っているのに、なんで分からないんだよ。なんで素直に助けられないんだよ。俺はお前を守るために、此方も日向ちゃんも犠牲にしたんだぞ! なのになんで伝わらないんだよ!」
この世界は、どれだけ俺に残酷なんだ。
俺がどれだけ覚悟を決めても、肝心の香織が理解していない。そのことに頭が下がる。
「気にするな沙城、ただの狂人だ」
言葉を失っている香織に星都が声をかける。俺がどれほど思いを込めた言葉もしょせんは狂言扱いか。
空しい。胸が裂けそうだ。どうしてこうなる。彼女を守りたいだけなのに、なんでうまくいかない。
彼女の、顔を見るだけで泣きそうだ。
だけど、泣いてどうなる。俺がすべきはそんなことじゃない。涙なんてもう何度も流した。
俺がすべきことはそんなことじゃない。
俺がすべきこと。覚悟はもう決めた。
『あんたの守る覚悟って、なんだったの!?』
此方の問いが、今も俺を責め立てる。でも今なら答えられる。
「香織、一緒に来てくれ」
俺は手を差し出した。最後のチャンスだった。
しかし香織は一歩下がり、俺の手を掴んではくれなかった。それどころか星都と力也が香織の前に立ちふさがる。
仕方がない。彼女はなにも覚えていないんだ。二人もなにも分かっていない。
「そうか」
差し出した手を下ろす。それでも俺の誓いは変わらない。
不用意な発言だったか。警戒されている。なんと言ったところで知っていた事実は変わらないし、その不信感は拭えないだろう。
「それでなぜ無事だったんだ?」
前の世界では力也は槍男に襲われ命を落とした。セブンスソードへと扇動するためだ。それによって星都は危機感や強迫観念に囚われ戦闘になった。でも、この世界では死んでいない。なぜだ。
「さあな。いきなり白い服の男が来て戦い出したからその隙に逃げ出してきたんだよ」
白い服の男?
「それよりも答えろよ。どうしてそのことをお前が知っているんだ? それにここには安神っていう姉妹がいるはずだ。二人はどうした。それにお前は誰なんだ」
前の世界とは大筋で一緒だが細部が違っている。白い服の男が管理人と戦うなんて前の世界ではなかったはず。それによって力也生存という流れも変わった。一つの変化が、その後の流れを大きく変えようとしている。
いや、それよりも重要なのは今をどうするかだ。
「おい、聞いてんのかよ」
顔を正面に戻す。星都が苛立った声で聞いてくる。
「もう一度聞くぜ、二人はどこだ?」
俺が答えないことに危機感を募らせていく。星都だけじゃない。二人も不安そうな顔をしていた。
安神姉妹の二人はどこか。その答えを俺は知っている。
だけど、それを答える気にはなれなかった。
「そんな……」
俺が答えないことで察したらしく香織がショックを受けている。
俺は彼女を見た。
この世界でも彼女は無事で生きている。それを確かめられてホッとする。彼女が無事でなければ意味がない。
だが、このままではいずれ彼女はまたも命を落としてしまう。もう、彼女の遺体を抱きしめたくはない。
今度こそ、彼女を救ってみせる!
「香織」
フードを脱ぐ。顔を見せ彼女に話しかける。
「俺だ、聖治だ。分かるか?」
彼女は眉をひそめ怪訝そうな顔をしている。この世界でも俺のことは分からないみたいだ。
俺だけが彼女のことを覚えている。二人で一緒に過ごしていた時間も、セブンスソードで命を救ってもらったことも、守ってあげたことも、ぜんぶ。俺だけの思い出になっている。
まるで、この世界に俺だけが取り残されたような気分だ。
「分からないのか?」
分かって欲しくて、思い出して欲しくて声が荒くなる。
「思い出してくれ香織! 聖治だ! 俺たちは別の世界で一緒にいた、恋人だったんだ。この世界に来てからも何度も会ってる。君を助けたいんだ!」
暴れる思いをなんとか言葉にして叫ぶ。
分かって欲しくて、熱心に説明するけど、だけれども伝わらない。困惑したままだ。彼女にとって俺は今初めて会ったばかりの他人なんだ。
「なんで分からないんだよ!」
それが悔しかった。
「分かってる。香織は悪くない。だけど心の整理が追いつかないんだ。俺がこんなにも思っているのに、なんで分からないんだよ。なんで素直に助けられないんだよ。俺はお前を守るために、此方も日向ちゃんも犠牲にしたんだぞ! なのになんで伝わらないんだよ!」
この世界は、どれだけ俺に残酷なんだ。
俺がどれだけ覚悟を決めても、肝心の香織が理解していない。そのことに頭が下がる。
「気にするな沙城、ただの狂人だ」
言葉を失っている香織に星都が声をかける。俺がどれほど思いを込めた言葉もしょせんは狂言扱いか。
空しい。胸が裂けそうだ。どうしてこうなる。彼女を守りたいだけなのに、なんでうまくいかない。
彼女の、顔を見るだけで泣きそうだ。
だけど、泣いてどうなる。俺がすべきはそんなことじゃない。涙なんてもう何度も流した。
俺がすべきことはそんなことじゃない。
俺がすべきこと。覚悟はもう決めた。
『あんたの守る覚悟って、なんだったの!?』
此方の問いが、今も俺を責め立てる。でも今なら答えられる。
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俺は手を差し出した。最後のチャンスだった。
しかし香織は一歩下がり、俺の手を掴んではくれなかった。それどころか星都と力也が香織の前に立ちふさがる。
仕方がない。彼女はなにも覚えていないんだ。二人もなにも分かっていない。
「そうか」
差し出した手を下ろす。それでも俺の誓いは変わらない。
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