セブンスソード

奏せいや

118

 日が落ち始めた頃、俺は洗面台の前で自問していた。

 これは、本当に正しいことなのか。俺がしていることは良いことなのか。

 答えは出ない。出ても確信を持てない。答えられない自問はいつしか自責となって責め立てる。俺は間違っていると。過っていると。

 だけど、正しいってなんだ? 良いことってなんだ?

 結局たどり着く結論に頷くしかない。

 関係ないんだ。善悪も、正誤すら。

 確かなことは一つだけだから。

「香織のため」

 彼女を守る。それが俺の最優先事項。それに向かって走り続けるしかない。

「香織のためなんだ」

 そのために頑張ってきたはずだ。今も。昔も。その時からその覚悟はしていた。覚悟していた。

 はずなのに。

「香織のためなんだ……!」

 どうして、涙が止まらない? 頬を涙がこぼれ落ちていく?

 胸が苦しい。息が乱れてうまく呼吸が出来ない。悲しくて、苦しくて、この思いに潰されそうだ。

 俺は、仲間を殺したんだ。此方も、日向ちゃんも、二人とも素敵な人だった。悪いことなどなにもしていないのに。なのに。

 俺は、殺したんだ。

「う、うう」

 俺は許されないことをした。きっとこの罪を一生背負っていくことになる。

 だけど、そうだとしても。

「香織のため」

 俺には力が必要だ。管理人を、魔来名を倒せるだけの力が。そうしなきゃ結局最後はみんな殺される。前の世界でもそうだった。みんなで生き残ることは出来ない。ならば誰を選ぶ? 

 覚悟したんだ、守る覚悟を。

 だから、

「仕方が無いんんだッ」

 自分に言い聞かせる。この道が、この苦しみが、いつしか報われて、彼女を救うために必要だったんだと分かる日がくると。彼女を死なすくらいなら!

 俺は、誰よりも最低でいい! 

 顔を上げる。そして黒のパーカーに着替えマンションの外に出ていく。ロビをー出て広場に立った。

 もうすぐ、ここに来る敵を迎え撃つために。

 日は傾いていき夕日が照らす領域が減っていく。光を追いつめるように夜の闇が勢力を伸ばし、この場は外灯の光が照らす夜へと変わっていた。

 そしてその時はきた。

 足音が聞こえる。人が来るのは分かっていた。すでに知っている未来に驚きも期待もない。あるのは覚悟、それだけだ。

 前の世界では、それがなかった。期待と希望、それに全力で覚悟の本当の意味を分かっていなかった。

 覚悟っていうのは、痛みと向き合うことだ。だから覚悟を持つと言う。楽なこと、楽しいことを覚悟なんて言わない。覚悟と言うからにはそれは辛いことなんだ。

 それを履き違えていた。だから俺はなに一つ成功させられなかったんだ。

 かつての世界で学んだこと。それを噛みしめる。もう無駄な犠牲は出さない。

 必要な犠牲と、真に守りたいもの。

 そのために俺は戦う。

 足音の正体が目に入る。前の世界と同じ時間だ。やはりというか、この訪問は変わらなかった。

 ただ、俺の予想は半分外れていた。そのことに眉が曲がる。

 足音の人数は三人。

 見ればそこには香織と星都、そして前の世界にはいなかった力也もいたのだ。

 前の世界とは違う。なにがどうなっているのかはランダムなのか、これだけに関して言えば落胆のようなものがあった。

「そうか、生きていたのか」

 生きていた。それを嬉しく思うのではなく悔しく思う。それなら前の世界で生きてて欲しかった。今更生きて現れてもどうしろっていうんだ。

 力也は生きていた。いや、でも同じことだ。どの道誰かが犠牲になって、誰かしか生き残れないのなら俺が選ぶ道は決まっている。生きていようが死んでいようがもう関係ない。

 香織を守る、それだけだ。

「生きていたのか、ってどういう意味だ?」

 俺の前には星都たちが並んでいる。俺はフードを被っておりそんな俺を三人が警戒した眼差しで見つめてくる。

 特に星都は今し方俺が言った台詞に睨むほどだ。

「魔卿騎士団を名乗るやつに俺たちは襲われた。それを知っていたのか?」

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