セブンスソード

奏せいや

113

「水戸市はちっちゃな町だけどさ、それでもこれだけの人がいる。その中で出会って、恋人になって、一緒にこの景色を見ている。それってすごく低い確率でしょ? 違っててもおかしくなかった。だから、こうしている時間は当たり前なんかじゃなくて、すごい偶然で。そう思うとかなりラッキーだったのかなって。そう思うとおもしろくてね」

 此方は笑っている。幸運な自分を喜んでいる。自分との出会いや関係を喜んでくれるのは誰だって悪い気はしない。

 俺は視線を窓に戻した。

「いや、俺と此方との出会いは必然だったんだよ」
「え?」

 俺の発言に少しだけ驚いている。

「俺たちの出会いは確かにすごい確率だと思う。でもさ、もし何度も世界をやり直すことができたなら、いずれこの世界にたどり着くだろう? 何度も世界をやり直せばこうした世界もある。それは偶然なんかじゃない、いずれくる必然だったんだ。俺たちは出会うべくして出会ってたんだよ」

 此方を見る。彼女の横顔が夕日に照らされオレンジ色に見えた。

「偶然なんかじゃない。俺たちの関係は、そんな安いものじゃない。運命だよ」

 そう言うと此方はクスっと笑った。その顔は可愛いものだった。

「どうしたの、今日はやけにロマンチストじゃない」
「俺にロマンをくれたのは此方だろ?」
「…………」

 此方が驚いている。その後顔を逸らし頬を赤らめる。さすがにくさかったかな。まあ、いいか。

「聖治、そっち行っていい?」
「え?」

 彼女が俺を見つめている。断る理由なんてない。

「ああ」

 彼女が俺の隣に座る。

 俺たちは見つめ合った。顔が近い。さっきよりも彼女の顔がはっきりと分かる。きれいな瞳。整った鼻筋。小さな唇。俺の視界いっぱいに彼女の顔が映る。

 その顔が、徐々に近づいていった。

 引き寄せられる。どちらからともなく。俺たちは近づき、そして、唇が重なった。

 触れるか触れないか、それくらいのキスだった。俺たちは顔を離し、恥ずかしさに少し笑った。
それから此方は俺の腕に腕をからめ、顔を肩に乗せてきた。彼女の重さがのしかかる。俺は彼女の好きにさせそのまま無言の時間が過ぎた。

 観覧車がゆっくりと回る。この時間もどこかゆっくりと過ぎている気がした。

 けれどいずれ終わりはくる。ゴンドラは回り終え俺たちは観覧車から出た。回るゴンドラから気をつけて俺から先に降りる。それから背後の此方に振り返った。

 俺は手を差し出す。此方はなにも言わなった。ただ、躊躇いがちに、けれどしっかりと握ってくれた。

「行こうか」
「うん」

 手を繋いで、俺たちは帰路へとついていった。

 それから電車に乗って俺の部屋へと戻ってくる。日向ちゃんは自分の部屋で寝ているだろうからここは二人きりになる。なんだろう。なんていうか、雰囲気が固い。ここにくるまでずっと会話がなくて、お互いに意識している感じ。

 俺たちはリビングで立ち止まる。一つの動作だけで意味を持つのが分かるから下手に動けない。

「え、えっと」

 そこで此方が喋った。固くなった雰囲気をほぐすように明るく喋る。

「聖治、のど乾いたでしょ? 今お湯沸かすから」

 台所へと歩いていく。やかんに水を入れカップを用意していく。手慣れた様子で紅茶を作っていく。

 俺も台所へと歩いていき、彼女の背中に近づいた。

「待ってて、すぐにできるから」

 そのまま、彼女を抱きしめる。

「え」

 彼女の背中がくっつく。赤い髪が頬に当たる。柔らかくて、温かい。それに思っていたよりも細い。

「え、ええ?」

 此方が困惑している。緊張に体が固くなっているのが分かる。

「せ、聖治?」

 背中越しでも、彼女が慌てているのが分かる。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品