セブンスソード

奏せいや

107

「日向ちゃんが言っていたことを思い出してさ。セブンスソードがすごく怖くて、一人でいつも怯えていた。そんな時いつも此方に助けられてたって。それをすごく感謝してた。守られてばかりの自分じゃない、自分でもなにかしたいってずっと思ってたって。だから応援しているんだよ、その時の恩返しと、自分でもできることをさ」

 それを思えば日向ちゃんの思いは理解できる。嬉しいんだよな、純粋に。自分の大好きな人で恩人が幸せになるんだ、もしかしたら本人よりも喜んでいるのかもしれない。

「ふ、ふーん。聖治、ずいぶんとあの子と仲いいじゃない」
「え?」

 此方がなにやらすねたような顔で見つめてくる。

 しまった、これは前の世界で得た経験でこの世界とは別だった。

 違ったか? それか齟齬があるとか?

「いつの間にそこまで親しくなったのか知らないけど、でも、そうね」

 此方は視線をやや下げて記憶を探っている。どうやら的外れではなかったみたいだ。

「昔のあの子は臆病で、いつもふさぎ込んでた。それが見てて辛くてね。私が守らなくちゃって思ったんだ。放っておけないっていうか、いつも気がかりで。なんでだろうね、私たちは」
「作り物のホムンクルスで本当の姉妹じゃないのに、か?」
「え? う、うん」

 俺が言い当てたことに此方が驚いたように振り返る。彼女は驚くだろうが俺にとっては二度目だからな。

「大丈夫だよ。二人はきっとスパーダの前、魂の時にきっと姉妹だった。その時の思いが魂に宿ってるんだよ」
「そうなの?」
「ああ。思いは魂に宿る」

 言った後俺は片手に視線を落とし、その手を握りしめた。

 思いは魂に宿る。そうだ、俺の魂にも思いが宿っている。絶対に忘れちゃいけない、大きな思いが。

「…………」

 俺は力を抜き、此方に振り返った。

「だから二人の関係をそんなに心配することないよ。それに、仮にそうじゃなかったとしても二人は立派な姉妹だ。俺が保証する。たぶん、血の繋がった姉妹よりも仲いいぞ、此方と日向ちゃんは」

 それは本当に思う。というか、二人ほど仲のいい姉妹を俺は知らない。

「そっか」

 俺の話を聞いて此方が安心したように笑っている。

「そう言ってくれると、私も助かる。ありがとう聖治。すごいね、なんでも知ってるみたい」
「いや、そんな」

 世界を周回して得ただけで俺がすごいわけじゃない。失敗して失敗して、やり直す度に後悔と自分の無力さを突きつけられるだけだ。

 ただ、そんな失敗続きのやり直しだったけど、こうして誰かを安心させられるのなら意味はあったのかな。

「しまった!」
「ん? どうした?」

 突然此方が立ち上がる。何事だろうか。

「夕飯の用意! しまったぁ……、さっき日向が来たのはそれだったのか。コロッケはむこうで作るんだった」

 なるほど。こことは別に一緒に作る予定だったのか。でも俺と一緒にいるのを見て空気を読んだと。言ってくれればよかったのに。でもそれも日向ちゃんらしいか。

 出遅れてしまった分挽回しないといけないよな。俺にもできることがあるはずだ。

「それなら俺も手伝おうか?」
「いや、聖治はここにいて。台所には入らないで」
「…………」

 この世界でも俺は邪魔者かよ……。

 気迫すら感じる顔で言われては浮いた腰も下がる。

「分かった。なら俺はこの部屋でおとなしくしているよ」
「うん、そうしてて。出来上がったら呼びに来るから」
「心待ちにしてるよ」
「ふふ」

 俺は此方を見送るため玄関まで移動する。此方は靴を履き終わり俺に向き直った。

「それじゃ、行ってくる」
「うん」

 夕食を作りに行く此方を笑顔で見送る。俺のためにも料理をしに行くんだから嬉しい。

 それで俺は此方を見ているんだが、此方はすぐに出て行くと思ったがなかなか出て行かなかった。どうしたんだろう、顔をやや俯けている。

「聖治」
「どうした、忘れ物か?」

 急いできたからな、なにか置き忘れたのかもしれない。

「……うん」
「なんだ、俺が取りに戻るよ」
「聖治」
「?」

 俺はリビングに戻ろうとしたが呼び止められる。なんだろうか。

 チュ。

 振り返った時、此方の顔が間近にあった。気づいた時には此方の顔が離れていって、頬にかすかな感触が残っている。

「行ってくる」

 此方は恥ずかしそうに、けれど満面の笑みで玄関の扉から出て行った。

「…………」

 頬に手を当てる。突然のことに言葉も感想も出てこない。なのに顔の表面が紅潮してくる。玄関に突っ立って一歩も動けない。

 はは。

「まったく、妹よりも大胆なやつだな」

 笑ってしまう。やっぱり二人は姉妹だな。

 此方との恋人関係、恋人生活。この新しい世界で訪れた新しい形。これが、今回の世界か。

 俺はこの世界にやってきた。魂に宿る思いに従って。

「…………」

 俺は頬に当てていた手を口元に当て、持ち上がっていた口角を元に戻す。

 うん……。

 俺は一度瞼を閉じた。そこで思いを整理する。瞼を開けて、正面を見る。

 拳を握り込んだ。

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