セブンスソード
104 第六章 守る覚悟
世界が回る。歪な螺旋を描いて過去へと戻る。悲しみと怒りの連鎖をそのままに。
俺は、みんなを失った。愛する人。大切な友人。大事な仲間さえ。
魔堂魔来名。あいつがいる限り俺たちは結局は殺されてしまう。
それだけじゃない、はじめて友達と敵対した。今まで仲のよかった友人。味方で、仲間で、それが当たり前だった。
でもそれは前の世界までの話で、世界が変われば関係も変わる。以前までの仲間が今度も仲間だとは限らない。
世界は非情なんだと思った。もし世界に意思があるのならなんて残酷なんだろうか。それか、それが世界の正体だとでも言うのだろうか。
誰かが犠牲にならなくてはならない。この世界に慈悲はない。人の命をなんとも思っていない。
この世界には、生きる希望も、救う価値もないのかもしれない。
そんな世界で、俺の覚悟ってなんだったのだろうか。
『あんたの守る覚悟って、なんだったの!?』
彼女の言葉が頭の中で何度もリフレインしている。何度も俺を責め立てる。
『軽々しく口にするな。お前の覚悟などただの詭弁だ』
あの男の台詞まで俺の胸に突き刺さって離れない。
覚悟って、いったいなんだったんだ。
俺は、いったいどうすればいいんだ。
俺が望んでいることって、なんなんだろうか。
そんな自問自答から逃げ出すように、俺はゆっくりと目を開けていた。
「…………」
ふと自分がソファに座っているのに気が付く。体に怪我はない。辺りを見渡せば見覚えがある。
ここは俺のマンションの部屋だ。そのリビングにあるソファに俺は座っている。時刻は昼時で穏やかな時間が過ぎている。あの戦場とは大違いでこっちがおかしいのではないかと勘違いしそうになる。俺の頭の中はさっきまでのことでいっぱいで、心もそれを引きずっている。
そんな思いだというのに、俺は背後から聞こえる物音に振り向いた。
そこには、此方がいた。エプロンをつけた後ろ姿が台所に見える。長い髪だ。俺はその背中をどこか別の世界のことのように眺める。
「ん?」
そこで此方が振り向いた。俺の視線に気づきふっと笑う。
「どうしたのよ、じっと見て」
なんでもない一日のように。彼女の顔を見ると殺し合いをしていたなんて嘘みたいだ。もしくは死んだなんて。
でも、あれは本当にあった出来事なんだ。
けれどそれを覚えているのは俺しかいない。此方は覚えていないんだ。あんなに俺を追及していたのに、この世界ではなかったことになっている。
「いや……」
俺は顔を逸らし、姿勢を元に戻した。正直、今此方の顔は見たくない。見たらどうしても前の世界のことを思い出してしまう。
「そう? ならいいけど」
此方はあまり気にしなかったようで調理に戻っていく。
それから少しだけ無言の時間が過ぎ、此方が「よし」と言ってエプロンを外し始めた。それからこっちに来て俺の隣に座る。
「料理だけどもう少し待っててね、あとは煮込むだけだから」
「ああ」
調子よくいっているんだろう、上機嫌に話す彼女に曖昧に相づちを打つ。
「聖治? どうかした、なんか元気ないけれど」
「いや」
そう言われ顔を反対側に向ける。どうしても意識してしまってうまく喋れない。
みんな死んでしまった。力也も。星都も。香織も。日向ちゃんも。隣で話しかけてくる此方も。みんなの死を見てきた。
その中で、俺を責める此方の顔が脳裏にちらつく。
「悪いけど、今は一人にしてくれないか。……一人がいいんだ」
気分がどんどん沈んでいく。考えがどんどん悪い方へ進んでいく。世界は変わったんだ、誰も気にしていないのに俺が自分自身を追いつめていく。
「どうしたの? 聖治がそんなこと言うなんて珍しいじゃない。なにかあったんでしょ? 話してよ、もしかしたら力になれるかもしれないし」
なにも知らない此方が心配してくれる。俺の顔をのぞき込んでくる。
でも、止めて欲しかった。
『答えてよ……。答えて、聖治!』
此方の声が、頭の中から聞こえてくる。それだけじゃない、振り返った時に見た
みんなの死体の光景もッ。
「一人になりたいって言ってるだろ!」
気づけば足下に怒鳴っていた。溜まっていた感情が一気に弾けて、我慢ができなかった。
「ごめん」
「あ」
言ってから自分がひどいことをしてしまったと気づく。見れば此方は俯いていて、寂しそうにしている。
「しつこかったね、ごめんね。でも、そんな、怒ったりしないでよ。今日の聖治、なんか怖いよ」
俺は、みんなを失った。愛する人。大切な友人。大事な仲間さえ。
魔堂魔来名。あいつがいる限り俺たちは結局は殺されてしまう。
それだけじゃない、はじめて友達と敵対した。今まで仲のよかった友人。味方で、仲間で、それが当たり前だった。
でもそれは前の世界までの話で、世界が変われば関係も変わる。以前までの仲間が今度も仲間だとは限らない。
世界は非情なんだと思った。もし世界に意思があるのならなんて残酷なんだろうか。それか、それが世界の正体だとでも言うのだろうか。
誰かが犠牲にならなくてはならない。この世界に慈悲はない。人の命をなんとも思っていない。
この世界には、生きる希望も、救う価値もないのかもしれない。
そんな世界で、俺の覚悟ってなんだったのだろうか。
『あんたの守る覚悟って、なんだったの!?』
彼女の言葉が頭の中で何度もリフレインしている。何度も俺を責め立てる。
『軽々しく口にするな。お前の覚悟などただの詭弁だ』
あの男の台詞まで俺の胸に突き刺さって離れない。
覚悟って、いったいなんだったんだ。
俺は、いったいどうすればいいんだ。
俺が望んでいることって、なんなんだろうか。
そんな自問自答から逃げ出すように、俺はゆっくりと目を開けていた。
「…………」
ふと自分がソファに座っているのに気が付く。体に怪我はない。辺りを見渡せば見覚えがある。
ここは俺のマンションの部屋だ。そのリビングにあるソファに俺は座っている。時刻は昼時で穏やかな時間が過ぎている。あの戦場とは大違いでこっちがおかしいのではないかと勘違いしそうになる。俺の頭の中はさっきまでのことでいっぱいで、心もそれを引きずっている。
そんな思いだというのに、俺は背後から聞こえる物音に振り向いた。
そこには、此方がいた。エプロンをつけた後ろ姿が台所に見える。長い髪だ。俺はその背中をどこか別の世界のことのように眺める。
「ん?」
そこで此方が振り向いた。俺の視線に気づきふっと笑う。
「どうしたのよ、じっと見て」
なんでもない一日のように。彼女の顔を見ると殺し合いをしていたなんて嘘みたいだ。もしくは死んだなんて。
でも、あれは本当にあった出来事なんだ。
けれどそれを覚えているのは俺しかいない。此方は覚えていないんだ。あんなに俺を追及していたのに、この世界ではなかったことになっている。
「いや……」
俺は顔を逸らし、姿勢を元に戻した。正直、今此方の顔は見たくない。見たらどうしても前の世界のことを思い出してしまう。
「そう? ならいいけど」
此方はあまり気にしなかったようで調理に戻っていく。
それから少しだけ無言の時間が過ぎ、此方が「よし」と言ってエプロンを外し始めた。それからこっちに来て俺の隣に座る。
「料理だけどもう少し待っててね、あとは煮込むだけだから」
「ああ」
調子よくいっているんだろう、上機嫌に話す彼女に曖昧に相づちを打つ。
「聖治? どうかした、なんか元気ないけれど」
「いや」
そう言われ顔を反対側に向ける。どうしても意識してしまってうまく喋れない。
みんな死んでしまった。力也も。星都も。香織も。日向ちゃんも。隣で話しかけてくる此方も。みんなの死を見てきた。
その中で、俺を責める此方の顔が脳裏にちらつく。
「悪いけど、今は一人にしてくれないか。……一人がいいんだ」
気分がどんどん沈んでいく。考えがどんどん悪い方へ進んでいく。世界は変わったんだ、誰も気にしていないのに俺が自分自身を追いつめていく。
「どうしたの? 聖治がそんなこと言うなんて珍しいじゃない。なにかあったんでしょ? 話してよ、もしかしたら力になれるかもしれないし」
なにも知らない此方が心配してくれる。俺の顔をのぞき込んでくる。
でも、止めて欲しかった。
『答えてよ……。答えて、聖治!』
此方の声が、頭の中から聞こえてくる。それだけじゃない、振り返った時に見た
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気づけば足下に怒鳴っていた。溜まっていた感情が一気に弾けて、我慢ができなかった。
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