セブンスソード

奏せいや

98

 彼女が、またも血を流している。またも、死のうとしている。

 どうして救えない? どうしてこうなるんだ? もう、彼女も仲間も、死ぬところなんて見たくないのに。

「どうして、泣いているの……?」

 気づけば、俺の頬には涙が通っていた。

 うつろな目で彼女が俺を見上げている。彼女からすれば不思議で仕方がないはずだ。

「どうしてって……」

 彼女には分からない。でも、俺は分かってる。

「そんなの、決まってる!」

 涙が止まらない。強く思う度に胸からわき上がる。

「君を、守ると約束したからだ! 君を、絶対に救ってみせるって!」

 彼女を思う度に、涙が溢れる。

「ほんとうだったんだ……」

 力のない声で香織がつぶやく。苦しみながら、申し訳なさそうに言う。

「ごめんね……」

 彼女から一粒の涙が落ちる。胸から出る血液に比べればたったの一滴だけど、まるで最後の命だったかのようにその涙とともに香織は意識を失っていった。

 腕の中で、彼女が死んでいく。この喪失感を何度味わえばいい。こんなことにならないために、俺はがんばってきたはずなのに。

「うああああ!」

 夜に移った空に吠える。星のない暗黒に俺の声が広がる。

 その間、此方と星都は戦っていた。ディンドランの加護を失い星都の負担は大きいがそれを気合いで補い星都は立ち続けている。

 だけどそれも時間の問題だ、刻一刻と星都の体力は失われていく。いずれ動けなくなりそこを狙われておしまいだ。

 だから、星都はすぐに決めなくちゃならない。

「くそ……! 戦いなんかに、お前を駆り出したくはなかったが」

 それが星都も分かっているから、奥の手に出た。

「力也、力を貸してくれ。来い、鉄塊王グラン!」

 星都の手にグランが握られる。力也の形見となってしまったスパーダ、重力の影響を受けない大剣を構え星都は走り出す。接近を許すはずもなく此方が光線を連射するが星都はグランを盾にして進んでいた。無重力状態とはいえ重量なんだ、並大抵の衝撃ではびくともしない。

 あれを弾くには、タメが足りない。

「あんたの力、借りるわよ、日向」

 此方はミリオットを構え直すと白い刀身に光が溜まり始める。みるみるとその光量が増えていく。

 一刻を争う中、星都は体力がないため全速力で走れず、此方はミリオットを充填している。二人の距離は縮まり、星都はグランをどかすとエンデュラスを突き出した。それと同じタイミングで此方もミリオットを突き出す。 

 此方のミリオットか、星都のエンデュラスか、二人のスパーダが同時に前に出る。

「止めろぉおお!」

 その間に、俺は割り込んでいた。ミリオットはパーシヴァルで受け、エンデュラスはディンドランで受ける。カリギュラは継続中だがディンドランのおかげで体力の減衰はない。

「聖治!」
「お前……」

 パーシヴァルとディンドランの二刀流で二人の攻撃に耐える。腕が重いが、それよりも痛いのは胸の方だ。

「なんだよ、なんなんだよ! 殺して、殺されて、こんなことがしたいのかよ!」

 二人ではなく、俺はうつむき足下に向かって叫んでいた。

「俺たち全員、こんなことしたくなかったんじゃないのか。殺し合いなんて嫌だって、それで協力しようって言ってたんじゃないのかよ!」

 屋上で、星都も力也も殺し合いなんて嫌だって言っていた。

 マンションで日向も此方も殺し合いなんて嫌だと言っていた。

 みんな嫌だったんだ、したくなんてなかったんだ。なのに、なんでこんなことになるんだ。

「なんで、俺たちが殺し合わなくちゃならないんだよ!」

 訳が分からなくて、意味が分からなくて、怒りと悔しさだけが次から次へと沸いてくる。みんな平和を望んでいた。なのにこんなことになるなんて。

 世界は、どこまで理不尽だって言うんだよ!

「く、そ……」
「星都?」

 そこで星都が膝をつく。たぶんさっきの一撃が体力的に最後の一撃だったんだろう、それを俺に防がれて星都は崩れるように倒れた。

「星都、おい!」

 見れば額には大量の汗が浮かんでおり、目もぼうとしている。まるで日中症で倒れたみたいだ。
 その疲れ切った目が、俺をとらえていた。

「まったく。なんなんだよ、お前ってやつはよぉ」

 ぐったりとしている。それ以上に、その顔は寂しそうだ。

「お前の大事なダチ刺して、お前を殺そうとしたやつに、なんて顔してやがる」

 星都は日向ちゃんを刺した。そのせいで死んでしまった。それは許せないことだし怒りだって覚えた。

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