セブンスソード

奏せいや

82

「前の世界で聖治さんがどんな生活を送っていたのか知りたいです。それに、どんな気持ちで戦っていたのかも。簡単には教えてくれましたけど、それくらいしか知らないから」
「ええっと、それじゃあ」

 そう言われては断る理由もない。俺は思いつく限りのことを話していく。

 友人には星都っていう明るいお調子者と力也っていう体は大きいくせに気は大人しい二人がいて。いつもこの二人と遊んでいたこと。思えばいつも星都にひっかき回されていたな。力也じゃ手に負えないからいつも俺がなんだかんだ治めていた気がする。大変なこともあったけど憎めないやつなんだよな。それに力也は優しいからいつも気を使ってくれるし。

 そこへ香織が転校生としてやってきて、一波乱あって。それからセブンスソードへ発展して。いろいろあって。

 俺たちは、一度死んだんだ。

 そこから俺の奇妙な旅は始まった。世界はそのままなのに対人関係だけが香織と逆になっていて。微妙なたとえだけど浦島太郎みたいな。自分の知っている世界との乖離がひどくて戸惑ったもんだ。まあ、それは現在でも進行しているわけだが。

 三回目のことは伏せてそんなことを日向ちゃんに話した。内容が内容なだけに声に出して笑うことはなかったが俺は普通に話せていたし時折笑えていた。話していてまるで作り話みたいだなと笑ってしまったんだ。自分でもずいぶん余裕が出てきたなと思う。前までだったら絶対に笑うなんてことできなかった。

「とまあ、こんな感じかな。なんだか小説か漫画みたいだろ? 本にすれば売れるかな」
「でも、ほんとうなんですよね」
「信じてくれるんだ」

 ここで嘘だと言われるとは思っていなかったけど、そう言ってくれると嬉しいというか安心する。

 日向ちゃんは俺の隣に座ったまま、その小さな顔を俺に向けてきた。

「聖治さん、笑ってるけど、目が悲しそうだから」
「…………」

 自分では分からない。でも、彼女がそう言うのならそうなのかもしれない。

 やはり、こんな話笑えないよな。

 なにより俺が。

 日向ちゃんはそう言うと微笑んだ。

「ありがとうございます。気を遣ってくれて。暗くしないようにしてくれたんですよね」
「えーと、どうなんだろ? はは」

 もしかしたら無意識にそうしていたかもしれない。

「日向ちゃんは? 今度は日向ちゃんの話が聞きたいな」
「え~、私ですか?」
「俺だけに話させるなんて不公平だろ? 俺も日向ちゃんの話聞きたいよ」
「でも、楽しくないですよ?」
「いいから」

 出し渋る彼女を笑って急かす。俺だって彼女のことを知りたい。俺が喋ったんだから日向ちゃんにも話してもらわないと。

 日向ちゃんは顔を正面に向け、落ち着いた様子で話し出した。

「私とお姉ちゃんは孤児院で育ったんです。親は事故で亡くなりここに預けられたって聞きました。でも気づいていたんです、そんなものは設定だって。ほんとうは親なんていなくて、いずれ始まるセブンスソードに参加させられるスパーダなんだって」
「…………」
「それが分かっていたから、私はいつも怯えていました」

 日向ちゃんは話を続けていく。その声は少しずつ寂しさを増していき、明るさはみるみるとなくなっていく。

「もしかしたら襲われるかもしれない。それが怖くて外にも出られなかった。いつも孤児院の部屋に閉じこもっていました。学校にもろくに行けなくて、不登校だったんですよね。周囲は親を亡くしたショックで、てことになってましたけど。周りのみんなや院長先生も心配してくれたけど、私は応えることができなかった。殺されるかもしれないって不安と恐怖で、いつもふさぎ込んでいたんです」

 彼女の話を聞いていて、俺は当たり前の事実に気づいていた。

 明るくて元気な女の子。それが安神日向という女の子なんだと思ってた。不安とか、恐怖とか、そうしたものとは無縁でいつも楽しそうに暮らしてる、そんな印象を勝手に抱いていた。

 でも、そんなはずがないんだ。

 俺たちが初めてセブンスソードのことを知った時、どんなだった? どんな気持ちだった?
 楽しいわけがない。不安や恐怖、あって当たり前だ。

 なのに、同じスパーダだと知っていながらそんなことを思った自分自身が情けなくて怒りすら沸いてくる。俺はどこまで想像力が足りないんだ。

「そんな私の一番の理解者はお姉ちゃんでした。私は一人で塞ぎ込んでいるのに、お姉ちゃんは私を安心させるためにずっとそばにいてくれたんです。心細くなって呼ぶと、すぐに駆けつけてくれたんです」
「そうか」

 あの此方がな。

 俺にはツンケンしてる感じがする彼女だけど妹である日向には優しいいいお姉さんなんだ。キッチンで一緒に調理をしている時も仲がよさそうで楽しそうだったな。

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