セブンスソード

奏せいや

70

 星都が言わんとしていることは、戦闘になるかもしれないから油断はするなということだ。

 実際そうならないと決まったわけじゃない。そうしたくないと俺がどれだけ願っても攻めるかどうかは彼女たちが自分で決めること。

 そうなった時、俺たちも剣で応じるしかない。

「今は、ただ信じよう」

 俺がそう言うと、それ以上星都がなにかを言うことはなかった。

 みんなエレベーターに乗り込む。別に階段で上がってもいいがあるのに使わないこともないだろう。エレベーターには誰もおらず俺たち四人を乗せて扉が閉まる。俺は彼女たちの階層である四階を押した。

 エレベーターが静かに動き出し俺たちを上へと運んでいく。

「その安神姉妹ってどんな人たちなんだろう」
「俺たちと同じだといいんだけどな」

 不安と期待が同じ量だけ存在している。ただ、強いているなら期待している自分がいた。

「彼女たちは俺たちと同じ高校生だ。巻き込まれただけの可能性がある。魔来名は大人だった。彼女たちなら俺たちと同じ気持ちかもしれない」
「話は合うだろうな」
「そうだといいんだなぁ」
「ああ」

 そうだと信じたい。まだ会ったことはないけれど俺たちと同じ境遇にある彼女たちを。人を信じてみたい。

 それが出来なくなった時、人は人でなくなってしまう気がするんだ。

 自分だけを考えて人を陥(おとしい)れる、裏切る、敵に差し出す。

 そんな悲惨な出来事を、俺はどこかで……。

「聖治君?」
「え?」

 気づけば香織が心配そうに覗き込んでいる。

「大丈夫? 顔が険しかったけど」
「ううん、大丈夫だ。ちょっと考え事をな」

 なんだろう、今の感じ。妙にリアルな感情だったな。もしかしたら思い出せていない記憶が関係しているのか。

 その時、ふとある種の予感めいたものが頭を過ぎった。

 俺たちは今、密室に閉じこめられている状態だ。敵からすれば一網打尽にする絶好の機会。ここじゃ逃げも隠れもできない。

 しまった。乗ってから気がついた。彼女たちの善意を信じたいが危険も犯せない。やはり階段を使っていこう。

「みんな、階段を使おう」

 俺は二階のボタンを押すため手を伸ばした、瞬間だった。

「!?」

 な、に。

 ボタンを押すために伸ばした腕が、重い。それどころか立っているのも辛くなってくる。

 俺は後ろにふらついてしまいボタンが押せない。さらに異変は俺だけでなく他の三人もで壁に手を当てるなり体を支えていた。それもすぐに出来なくなりその場にへたり込んでしまう。

「これ、は……」

 立っているだけなのに息が荒い。体がだるく三日も寝てないくらいに目眩がする。ふらふらだ。

「みんな……!」

 なんとかまぶたを開け顔を動かす。みんな耐えているが辛そうだ。

 くそ。ボタンを見上げる。まずはここから出ないと。ボタンを押そうと手を伸ばすが、肩より上にあがらない。

 俺たちは最初に押した四階にたどり着くまで体力を奪われ続け、ようやくエレベーターは停止した。

 扉が開く。俺たちは全員床に座り込んでおりエレベーターから這いだした。

「どういうことだよ、これ……!?」
「うう。事故、とかじゃないのかなぁ? ガス漏れとか」
「アホ! 攻撃に決まってるだろ……」
「そんな」
「くそ」

 なんてことだ。認識が甘かったのか?

 体が重い。だが、それ以上に辛かったのは自分の願いが裏切られたことだ。

 戦いたくない。みんなで協力して生き残る。これは、そんなにも理解されないことなのか? 平和を望むのは俺たちだけで、他は殺し合うことを受け入れているって?

 なんで、なんでそうなるんだ!

 そう思っていると、廊下の先から足音が聞こえてきた。

 黒を基調とした服にスカートを履いた女の子だった。赤い髪をしており、長い髪はゆらゆらと揺れている。どこか大人びた雰囲気があり、可愛いと思うがどちらかというとかっこいい美人な感じ。

 その目が冷たい輝きで俺たちを見下ろしている。

 なにより、彼女の片手には赤い剣が握られていた。

「スパーダ……」

 その赤い刀身から、邪悪な気配を感じる。

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