セブンスソード

奏せいや

34

 中には放課後とあって人の数は少ないものの調べものから自習などをしている人がいる。俺たちはなるべく人のいない机に四人で陣取り水門市の地図を広げた見つめている。

 水戸市は港町で海と山に挟まれた場所にある。もともとは漁港で栄えていたらしいが高度成長期に都市開発が進み町の中心部はかなり都会だ。逆に新都から離れた外周部では昔の様子が残され田舎町といった感じになっている。

「ここがセブンスソードの舞台になったのは他の町と隔絶(かくぜつ)してるから。港町でしかなかったこの水戸市が経済的に発展したのも裏で魔卿騎士団が働いていたからだと聞いてるわ」

 なるほど、陸の孤島じゃないが閉鎖的な場所は儀式にもってこいというわけだ。とはいえ町をまるごと支配下に置くなんて、それだけでセブンスソードがどれだけ大規模な儀式か伝わってくる。

「この町自体が舞台装置とはな」

 やることが大それている。それだけ必死というか、本気ということなんだろう。

 ただ、俺たちだって本気だ。本気でこんな儀式から逃げ出してやる。

「ちなみに沙城さんは? 探しているスパーダを見つけた後だけど」
「それなんだけどね、まずは聖治君たちについていこうかなって。逃げるといっても危険だし私も協力したい。私のことはその後でいいから」
「分かった」

 どの道俺次第ということだよな。逃げた後、俺がしっかりしないと。

「改めて見ると海と山しかねえな」
「そう? 私はいいと思うけどな」

 星都の言うとおり水戸市は面積の多くを自然が覆っている。
 俺たちのいる場所は新都よりなので山でも海でも行こうと思えば行ける位置にいる。水戸市の交通は船と電車がある。使うならこのどちらかだが。

「海路は論外だな。船に乗っちまったらそれこそ逃げ場がねえ」
「となると陸路になるが、駅は当然監視されてるだろうし。やつらの目を欺いていくなら山を突っ切るしかないんじゃないか? どうだろう?」

 連中だって逃亡する可能性を考えていないわけがない。なによりこの二つはあからさまだからな。先に手を打たれてるはずだ。

「うん。それが賢明かな。でも、それが一番マシってだけで、絶対安全ってわけじゃないから気をつけて進まないと」
「星都や力也はどうだ?」
「ま、それくらいしかないだろ」
「僕もそれで賛成なんだなぁ」
「分かった」

 それから山を歩いて越えることに決まりどこから行くか地図を見ながらみんなで話し合った。それで行くなら夜中、道路や山道とかではなく整理されていない山を突っ切るということで決まった。これも追っ手を巻くためだ。

「魔卿騎士団の勢力圏はこの水戸市だけで大丈夫なんだろうな?」
「断言はできないんだけど、おそらくそうだと思う。さすがに周辺の町まで支配下に置いてあるとは思えないし、それをするならこの町を舞台にした理由も薄いし」
「俺もそう思う。というか、そう思いたい」

 もし逃げた先にまで魔卿騎士団の手の内だとしたらこの計画は詰んでいるし、俺たちにはこれしかないんだ。過信は厳禁だが疑っていても始まらない。

「仮にそうだとしても、また逃げるだけのことだよ。なにもしないよりはマシなはず」
「沙城さんの言うとおりだ」
「分かった。それで用意するものは? コンパスとかはいるだろ。逃げるために山に入って遭難しましたじゃ本末転倒だぞ」
「そうだな。夜中だし懐中電灯とか。それなりに用意するのはあるか。それなら荷物を運ぶためにリュックとか必要じゃないか?」
「聖治君。今は逃げることを優先した方がいいと思う。持って行きたい気持ちは分かるけど、買えるものは置いておいて、身軽な方がいいかなって」
「そうか、それもそうだな」

 衣服とかそれなりに運ぶものはあるかなと思ったけど、山道だしなにより追われるんだ、動きやすい方がいいか。

「じゃあリュックサックはともかくとして他は? 山を越えるのに必要な道具って俺は持ってないんだが、星都や力也は?」
「俺にそんな趣味があるって話したことあったか?」
「ごめんね、僕もないんだなぁ」
「それもそうか」
「じゃあ買うのは明日にするか? スパーダ探しも兼ねて新都のデパートで買い物でいいだろ」
「それでいくか」

 そうして俺たちは一旦寮に戻り明日買い出しとスパーダ探しをすることになった。

「聖治君、待って」

 星都や力也が図書室から出て行く。俺も後に続こうとするが沙城さんから呼び止められた。

「あのね、聖治君が一緒にスパーダを探してくれるって言ってくれてとても嬉しかった。ありがとうね」
「そんな。俺だって沙城さんにはいろいろ助けてもらってる。感謝をするのは俺の方だよ」

 そう言うと沙城さんは嬉しそうに小さく笑った。

「聖治君に記憶がないって言われた時、私一人なんだってすごく不安になって、胸が締め付けられる気持ちだったんだ。でも、聖治君はついてきてくれるって言ってくれた。それに皆森君や織田君まで。一人だと思ってたのに今では四人に増えてる。もしかしたら順調なのかもしれない。一瞬、そんな風に思っちゃった」

 仲間が増えるっていうのは心強いよな。沙城さんが少しでも安心してくれたなら俺も嬉しい。実際星都や力也の同行は俺も嬉しかった。

「それでね、私たちのことなんだけど」

 沙城さんは周りに人がいないか確認している。

「本当はね、聖治君と一緒にスパーダを探して、二人で持ち帰る予定だったんだ。でも、聖治君にはその記憶はない」
「うん……」
「たぶん、私がいくら話しても難しいと思う。でも信じて欲しい。私たちには帰るべき場所があることを。全部が終わって逃げ切ることができたら、そのことを話そうと思う」
「うん、分かった」

 沙城さんの事情、俺が忘れているという俺の事情。それがほんとのことかどうかは分からない。
それよりも今は脱出に集中しなければいけない時だ。

 だから、全部が終わったら話を聞こう。俺が果たしてなにを忘れているのか。

 もしそれを思い出すことができたなら、そこから俺と彼女の本当の戦いが始まる。

 俺は、不思議とそんな思いを感じていた。

 彼女とは初めて会ったとは思えない。それと同じくらい強い気持ちで。

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