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夏月太陽

83.アゲハ蝶の捜索 1


 『アゲハ蝶の捜索依頼』を受けた僕とモモは、一旦アゲハ蝶を見た場所へ戻ってみることにした。

 ハヤト達は居なくなっていた。

 まぁ、それは割りとどうでもよくて、肝心なのはアゲハ蝶だ。

 しかし、アゲハ蝶はどこにも見当たらなかった。

 次は、飛んでいった方向へ行ってみることにした。

 道すがらアゲハ蝶を見てないかと訊ねながら、通りから路地裏からくまなく探し回った。

 生憎、僕とモモがアゲハ蝶を見たところから数十メートル内にはアゲハ蝶を見た人は居なかった。

 これ、見つけるの結構難しいな。

 まぁ、現実で居なくなったのを探すよりは簡単だろうけど。

 この世界でなら、外国とか無いし、とんでもなく遠いところがあるわけじゃないから、くまなく探せば見つかるはずだ。

 ただ、たった二人だと見つかる確率が低いってだけで。

 まぁ、骨が折れることに変わりはないけど、探すしかない。

 そう思っていたところへ、モモに話し掛けられた。

「リュウさん……あれ」

 モモが指差す方向へ目を向けると、物凄い勢いで走ってくる人影があった。

 その人物は、僕の前まで来ると、スライディングをするような体勢になりながら急ブレーキを掛け、僕の目の前で止まった。

 その子は、ビーストマンでウォリアーのようだった。

 背中に斧を背負っている。

「やっと見つけました! 依頼を受けていただき、ありがとうございます! 牛若丸さん!」

 お、おぉ、圧がすごい……。

 依頼を受けていただきありがとうございますってことは、この子が依頼主のユキヤ君ってことかな?

 というか、牛若丸って久々に呼ばれた。

 ダンジョンで呼ばれた時以来だ。

「えっと、君がユキヤ君でいいのかな?」
「はい! 焦って書いて暴力的な文章にしてしまったので、受けてくれる人が居るのかと不安でした……。それがまさか、あの牛若丸さんが受けてくれるなんて! 光栄です!」

 そう言うユキヤ君は、ずっと僕のことをキラキラした目で見詰めている。

「僕、牛若丸さんがあの初心者潰しの龍馬に圧勝したのを見て憧れたんです! 握手してください!」

 あぁ、そんなこともあったなぁ。

 今までに色々とありすぎて、遠い昔のような気がする。

 そんなことを思いながらユキヤ君と握手をする。

「あ、あの牛若丸さんと握手を……! もう僕、死んでもいい」

 大袈裟すぎる。

 まるで、重度なオタクだ。

 僕は、有名人でもアイドルでもない。

 いや、有名人ではあるか……。

 マクロがあの時のPvPを録画してネットに流してたから。

 本当、余計なことをしてくれたよな。

 幸い牛若丸と知りながら絡んでくる人が少なかったけど、勝手に他人を録ってネットに流すなんて、肖像権の侵害だ。

 まぁ、それはともかく、ユキヤ君の夢心地をなんとかしよう。

 そう思った僕は、ユキヤ君に話し掛けた。

「そう言えば、アゲハ蝶ってどうやって捕まえたの? 蝶々がこのゲームに居るなんて知らなかったんだけど」
「実はあれ、最近追加された森の中で見つけたんです! なんとその森、虫取ができるんですよ!」
「ユキヤ君は虫取が好きなの?」
「はい! それはもう! 家には捕まえた虫が数十は居るぐらいですから!」

 数十って……ちょっとした動物園並じゃないか。

 この場合、昆虫園と言った方がいいのかな?

「それで、アゲハ蝶の手がかりは見つかった?」
「いいえ……全く。牛若丸さんの方は何か……」

 そう聞かれた僕は、首を横に振って答えた。

「そうですか……」

 俯きながら落ち込むユキヤ君に、モモが両腕でガッツポーズをしながらこう言った。

「大丈夫ですよ。リュウさんならきっと見つけてくれます。私が保証します」
「貴女は?」

 ユキヤ君が聞き返すと、モモがとんでもないことを口走った。

「私は、リュウさんの妻です!」
「ちょっ!? なに言ってるの、モモ!? 初対面の人に堂々と嘘つかないでよ!」
「嘘じゃないです! 将来的にはなるので、なんの問題もないです!」
「今はなってないでしょ!?」

 僕とモモの口論の合間に、ユキヤ君がこう言った。

「わかりました。要するに、彼女さんってことですね!」

 ユキヤ君が普通に理解してくれたので、その場は丸く収まった。


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