VRMMO生活は思ってたよりもおもしろい
82.料理教室の後
料理教室のクエストを終えた僕達は、後のことを全く考えていなかったため、現在、なんとなしに街の中を歩いている。
それにしても……
「いやぁ、本当にスカッとしましたね!」
「シェフのリュウさんの野菜炒めを食べたときの反応が一番よかったよな」
「本当にざまぁみろって感じだったわね」
その話はいつまで続ける気なんだ……。
料理教室を出てからずっとその話ばかりしてるよね。
いや、本当は2回話が途切れていて、これで3回目になる。
認知症にでもなったかのように同じことをループさせているので、心配になる。
始まりはハヤトの“いやぁ、本当にスカッとしましたね”から始まって、最後はこう言って終わる。
「リュウさんのお陰ですね」
「リュウさんのお陰だな」
「リュウさんのお陰ね」
そして、その数秒後にまたハヤトが“いやぁ、本当にスカッとしましたね”と言って同じ会話が始まる。
というか、フウキとヒカリはなんでハヤトに付き合ってられるのか。
よく飽きずに同じ会話に付き合えるなと思う。
まぁ、それだけスカッとしたってことなんだろうけど。
それでも、3回も同じ会話を聞かされている僕とモモの身にもなってほしい。
モモなんて“えっ? またその話?”と言いたげな顔をしている。
言えばいいのにと思うだろうけど、実はもう2回目の時に言っている。
1回目の前から同じような話をしていたからだ。
モモが「またその話をするの?」と呆れながら言うと、ハヤトが「そうでよね。すみません」と謝った次の瞬間、「それにしても、本当にスカッとしましたね」と話が戻ってしまった。
その為、言おうにも言えず、ただただ同じ会話を永遠と聞かされる羽目になっているという訳だ。
モモの目から光が消え、「あっ、蝶々だ」と現実逃避をし始めている。
「モモ、それ、薬物をやってる人が言うやつ……。蝶々なんて飛んでないよ?」
「だったらリュウさんが止めてくださいよ。あれ」
「いやちょっと難しいかな……あっ、蝶々」
「話を逸らさないでください。というか、リュウさんも使ってるじゃないですか」
「いや、本当に飛んでる」
「えっ? あっ、本当ですね。なんでしょう」
モモの後ろを、ヒラヒラと一頭の蝶々が飛んでいた。
見たところは普通のアゲハ蝶だけど、ここってゲームの中だからなぁ……。
そう思っている間に、アゲハ蝶は飛んでいってしまった。
「このゲームの中にも蝶々っていたんだね」
「そうですね、驚きました」
これはこれで、いい現実逃避になったし。
いや、いい現実逃避ってなんだ……実際問題としてやらなくてはならないことを、意図的に避けようとすることなんだからよくないに決まってる。
ハヤト達の会話に耳を傾けると、4周目に突入していた。
まだその話してるとか、どれだけ嬉しかったんだよって話。
現実逃避もしたくなるよ……。
そう思ったところへ、モモがこう言ってきた。
「リュウさん、3人のことは放っておいて私と二人でクエストやりませんか?」
「それだ! ナイスアイデアだよ、モモ!」
モモの提案に同意した僕は、モモと二人でクエストを受けることにした。
◆◇◆◇◆
クエスト受注場所へやってきた僕とモモは、何か手頃なクエストはないかと掲示されているクエストを眺めている。
ハヤト達には一応声を掛けてはきたけど、あれは聞いてなかった気がする。
まぁ、いいか。ずっと同じ会話をしてる3人がいけないんだし。
それにしても、今日は変なクエストばかりあるな……。
『めざせ! テイムマスター!』とか『一飯(ひとめし)行こうぜ!』とか、何かを模倣したようなクエストばかりだ。
著作権的に大丈夫なんだろうか……。
それはともかくとして、『めざせ! テイムマスター!』のドラゴンをテイムすれば君もテイムマスターだって言うのはわかる。
でも、『一飯(ひとめし)行こうぜ!』の飯を食べに行くだけってどうなの?
クエストとして成り立ってるの? と思ってしまう。
そう思っていたところへ、モモに呼ばれた。
モモのところへ行くと、そこには『アゲハ蝶の捜索依頼』というクエストがあった。
「ん? もしかして、さっきのアゲハ蝶?」
「だと思います。依頼主は……ユキヤという方ですね」
「プレイヤー?」
「みたいですよ。“僕の可愛い可愛いアゲハちゃんが居なくなった、報酬払ってやるから早く探せ”と書いてありますね」
「依頼受ける人いるのかな……絶対人に頼むときの態度じゃないよ、これ」
「それくらいアゲハ蝶が好きなんですよ。私だってリュウさんが居なくなったらこの人と同じことしますよ?」
それは……喜んでいいのかな?
でも、必死さは伝わるような気はする。
なるほど、この人も必死なんだな。
「じゃあ、この依頼を受けようか。多少時間が掛かってもハヤト達が悪いんだから仕方ないし」
「そうですね。じゃあこの依頼受注してきますね」
というわけで、『アゲハ蝶の捜索依頼』を受けることにした。
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